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4.胃袋攻略…開始

おばあちゃんの方言がいいかげんかも知れませんが、暖かい眼で無視して下さい。

知人の親戚の口調はこんな感じなのですが、うろ覚えなので…



「おお、(あきら)ちゃん。よぉ来てくれたでなも」


「おばあちゃん、こんばんわ」


今日は、彼のお家にお呼ばれ。たまに私は、こうしてお夕飯を一緒にしたりする。


おばあちゃんは、私の料理の師匠。尾頭(おとう)家の家庭の味、今の内にしっかりと身につけなきゃね。


彼は、お婆ちゃんとお父さんの三人で暮らしている。お母さんは7年前に他界。あの時、少しだけ彼は荒れた。その頃の話は、またいつか。


「晶ちゃん…知らん間に、どえりゃあ(すっごい)美人(べっぴん)さんになったなも」


「やだ、おばあちゃん。お世辞は良いよぉ…」


「うんにゃ、わしゃ本気だで? これからもウチんかずちゃんをよろしゅうな。絶対に見捨てたらんでな?」


「もぉ、おばあちゃんってばぁ」


おばあちゃんとのこのやりとりはいつもの事。


遅い初孫だったからなのか、おばあちゃんは彼の事を、物凄く可愛がっていた。”眼に入れても痛くない”って、ああいうのを指すのだと思う位に。


そして私の事を『可愛い孫のお嫁さん』として認めて貰えているのは嬉しいんだけれど、どうやらおばあちゃんは、そんな彼との仲を心配している様で。


おばあちゃん曰く


「どうも、わしん育て方が悪かったでよぉ。かずちゃん、ほんにトロくしゃあでかんわ(鈍いからダメだわ)。女心をなんもわかっとらぁーせん(わかってない)


…という事らしい。


確かに彼は、私の欲しい言葉をあまりくれない。


『”釣った魚に餌をあげない”って奴なのかしら?』


と、一度からかい半分、本気半分で問い詰めてみた事があるけれど、その時の彼の狼狽えぶりは本当に面白かった。


けれど、彼が私の事を大事にしてくれているのは、行動の端々で充分過ぎる程解ってしまうから、全然不満は……ごめん、ちょっぴり有るわ。有るけれど、全然大丈夫。


私の方から彼を遠ざける様な事は、絶対に無い。死んでも無い。そう言い切れる。ちょっとやそっとじゃ、この想いが崩れるなんて事は無いのだから。


「おばあちゃん。今日もよろしくお願いします」


「へいへい。晶ちゃんもよろしゅう」


さて。今日も家庭の味を、勉強させていただきます。



『男を墜とすには、まず胃袋を掴め』…これは至言だと個人的に思うわ。



人一倍、縦にも横にも身体が大きい彼は、見た目通り燃費がものすっごく悪い。


常に腹を空かせた欠食児童で、懐にプロテインバーを常に携行している。よくスマホを持ち忘れてくる癖に、プロテインバーは絶対に忘れないくらいに。てゆか、ドラッグストアでケース買いしてるしね、彼…


だから当然、彼にとって食事とは味は二の次、腹さえ満たせば満足。を地で行くという料理人泣かせの美食家(グルメ)の大敵だ。


でも、やっぱり食べさせるのなら、より美味しいものを食べさせてあげたいと考えるのは、恋人として、家族として普通の事だと思うのよ。


『そりゃ、どうせ食うなら美味いモンを食いてぇよ? でもな、美味いモンは高い。小遣いだけじゃ全然足んねぇ』


部活帰りに、何も味のついていない食パン(6枚切り)3枚を900mlパック牛乳で強引に流し込んで、彼はそう言ってたわね。この後更に普通に夕飯が(しかもどんぶり飯で最低2杯)入るっていうんだから、彼の胃袋がどうなっているのか本当に知りたいわ。


…ああ、話が少し逸れた。



「美味いよ」


彼の口からその言葉が欲しい。


彼の笑顔が見たい。


だから、頑張る。


…それに、今日みたいな”予行演習”でバッチリ胃袋を鷲掴んでやれる訳だし?


来たるべき”本番”の為に…ね?



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「で、今日のはどうだったかな?」


彼の家から私の家まで徒歩で5分程度の短い距離。だけれど、彼は必ず私を家まで送ってくれる。


この時間が、私は好き。


「ん、ごめん。食う事に集中しちゃって感想言ってなかったな…美味かったよ」


だって、この時間は人通りがほとんど無い。二人だけの、のんびりとした時間だから。


彼の家から私の家まで徒歩で5分程度の短い距離。だけれど、ゆっくりと、倍以上の時間をかけて歩く。しっかりと手を繋いで。


「点数で言えば? 10点満点中いくつ?」


「ん…難しいな。8…いや、7点くらい…かな」


彼の評価では充分及第点なのだとは思うけれど、合格点までには微妙に足りない。


むー。


「なんか微妙ね…何が足りなかったの?」


「ん。そう言われると…怒るなよ?」


「そんなの聞いてみなきゃ返答できないでしょ…まぁ、考えましょう」


「今もう合格点を与えちまうと、なんか嘘臭いだろ? それに、今後も…あるし。それこそ、これから全部合格にしなきゃなんなくなる」


空いた手で頬を掻き、彼はそう嘯いた。


今後も…


彼は、私とのこんな時間を、これからもずっと続けて良いと思っていてくれている。


それは嬉しい。嬉しいけれど…


だからといって、合格点にギリギリ届かないこの評価は、どうなのだろう?


「…ナニソレ? なんか、納得できないわ」


「だから、怒るなよ? と、俺は言ったんだが?」


「考えましょう。とは言ったけれど、怒らないとは言ってないわよ、私?」


「ああ、やっぱり言わなきゃ良かったか…」


「ぶー、貴方の大事な彼女が怒っています。彼氏なら、頑張って機嫌を直してあげてください」


上目遣いで、ご褒美を強請ってみる。我ながら本当に面倒臭い女だなと思う。


そりゃ、美味しいご飯を食べさせたいなんて、こんなのただの自己満足だとは思うわよ? 


それに、思ったより彼の評価が高くなかったからって拗ねるのだって、本当に格好悪い。


でも、それでも…


私の額に、一瞬だけ触れた暖かい感触。


彼の唇。


「今日の所はこれで勘弁してくれ。ちゃんと少しずつ俺の好みの味になってきてるから、今後に期待って事で…な?」


街灯に照らされた彼の顔は真っ赤だ。


そして、私の顔も、多分同じ様に真っ赤になってると思う。顔から出る熱でそれと解る程に。


「もう。仕方無いなぁ、かずちゃんは…」


我ながら本当に現金過ぎて、こんな自分が()ンなるわね…


傾いた機嫌がもう治ってる。掌ドリル。ぎゅるんぎゅるん。


「絶対に、貴方から合格点もぎ取ってやるんだから。覚悟なさい」



と言うわけで、彼がいない日もおばあちゃんに師事をお願いしよう。


絶対に、今年中に合格点をとってみせるわっ!


心だけでなく、胃袋だってがっちりと鷲掴みよ。


だから、覚悟なさい。かずちゃんっ!



誤字脱字があったらごめんなさい。

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