15.特殊季節イベント(ホワイト・クリスマス)
ぎり間に合った?(間に合って無い)
「うわぁ……寒いなと思ったら……ホント真っ白ね……」
誰も歓迎なんかしていないというのに、大陸から大寒波さんやってきて列島に居座った結果こそが、今窓の外に拡がる真っ白な世界なのでした。
この地方の冬は、雪が降る事はあっても、まず積もる事は無い。お陰で、人も街も車も雪に慣れてはいない。
それこそ2cmも積もりもしたら、地獄絵図になる程に。
トーストを囓りながら、刻一刻と通行止めを知らせる交通情報が画面の半分を占める朝の情報番組を見てホッとする。
今日から冬休みだし、地獄絵図の中を右往左往する必要が無い事を、わたしは神様に感謝しておこう。こんな日で更には土曜日だというのに、今日も働くお父さんには、本当に悪いのだけれど……ね?
「多分、お昼頃にはある程度解けるとは思うけれど……お買い物を昨日の内に済ませておいて正解だったなぁ」
今日はクリスマスイブ。
思わぬ積雪のお陰で、この地方では本当に珍しいホワイト・クリスマスになったのだけれど、正直に言えば全然嬉しくはなかったり。
何故、今年に限ってこんな事に……
なんて、『どうしてっ?!』って気持ちの方が強いのよねぇ……
うん。やっぱり神様に感謝のするの、やめとくわ。
だってさ、今年のわたしは受験生だから。
真っ白な街を彩る幻想的なイルミネーションの中を、大好きなあの人と二人してはしゃぐ……だなんて、そんな事が許されない受験生だから。
……うん。やっぱり神様には感謝しない。絶対。
それどころか全力で呪ってやるわ。ちくしょう。
そういえば、小学生だった頃の彼は、この時期になるといつもボヤいていたわね。
『”ウチは仏教だから、異教の祭りなんかやりません”って、何だよソレ……』
……って。
まぁ、結局それはわたしの家でパーティを一緒にやる為の口実だったのだけれど。
それでも、毎年24日のイブは普通におばあちゃんの煮物を食べていたのだから、一般家庭の子供と比べたら嘆きたくもなるのでしょうけれど。でも、おばあちゃんの煮物美味しいわよね……さすがわたしの師匠。さすししょ……語呂悪いなぁ、後でちょっと考えてみよう。
「晶は、今夜あっちで良いのよね?」
「うん、わたしはかずちゃんちだよ。お母さんは二人きりで楽しんでね?」
お父さんも早く帰ってくると言っていたし、夫婦二人きりで過ごすのも良いんじゃないかなぁ。わたしだってもう年頃なんだから、そりゃあ空気くらい読みますともさ。
「そかそか……なんなら、お泊まりしてきても良いのよ?」
「うーん。それはかずちゃん許してくれるかなぁ……?」
彼のお家にお泊まり……なんて、もう何年もしてないなぁ。さすがに”男女の違い”を二人ともはっきり意識しだした頃から、一緒のお風呂も、一緒のお布団もやらなくなった。
少し寂しかったけれど、それよりも恥ずかしさの方が遙かに勝ってしまったのだから仕方が無い。わたしはそう思っている。
でも、当時のかずちゃんのすごく寂しそうしていた顔が未だに記憶にあって、少しだけ後悔もしていたり。
今ならそれこそどちらもOKなのだけれど、いつの間にか”堅物”に育ってしまった彼がそれを拒むという、そんな奇妙な関係になっているのだけれど。
もっとガッつきなさいな、本当にもう。
……なんて、言える訳も無く。
『俺が稼げる様になったら、遠慮無くいくから。それまで我慢してくれな?』
……こんな事を、真剣な顔で言われちゃったら、クラっとくるに決まってるじゃない。イケメン無双。
「ああ、熱い熱い。お外は真っ白で寒いのに、ねぇー?」
「お母さん、うっさい」
どうやら顔に出ていたらしい。ちくしょう、もうちょっと浸らせてくれても良いじゃないかー!
◇◆◇
「かずちゃん、おばあちゃんは?」
「こんな日だっつのに、自治会の呑みだとさ。滑ってコケて腰打っても知らんわもう」
お昼頃に溶けた雪が、今度は氷になって襲いかかってくる。日陰の道なんか特に危険な罠。
しかも、日が落ちた頃からまた雪がちらついてきていたりと、本当に今日は嫌になるくらいのホワイト・クリスマスだわ。
「ばーちゃん、家ではそんな呑まない癖して、ああいう呑み会には必ず出てるからなぁ。皆して騒ぐのが好きなんだろう」
「でも、おばあちゃん最近ひとりカラオケに行ってるって、この前言ってたけれど?」
「あー。ウチにある唯一のゲーム機のカラオケサービス、あれ終わるらしいからなぁ……」
多趣味な上に無駄にアクティブ(かずちゃん談)なおばあちゃんは、こんな雪の日でも遊びに全力疾走なのか。そんな歳の取り方をしたいなって、ちょっとだけ憧れるけれど、呑み会だなんてあまり社交的ではないわたしには少しだけハードルが高い。
「どうせ二人きりだし、何なら今からやるか? カラオケ」
彼がゲーム機の電源を入れてマイクを差し出してくる。
「えぇっ? デュエットなんてできないよ、わたし」
「ああ、そういや俺もあんまりデュエット曲なんて知らねぇな……”男と女のラブゲーム”とか?」
「いつの時代の歌よ、それ……」
わたしたちは細胞の欠片も無い、それこそお父さん達が小学生、幼稚園の頃の奴じゃなかっただろうか?
それに、カラオケはちょっと苦手だったり。
アニソンならいっぱい知っているけれど、最近の流行歌は、本当にお店で流れている様なのしか解らない。しかも歌い出しに全然自信が無いっていうレベルのソレ。
……うん。わたし、カラオケ、無理。2年の文化祭の打ち上げも、何だかんだと理由をつけて断ってやったしね、千里と一緒に。
「別に俺はアニソンでも構わないぞ? これ、ばーちゃん曰く”すげぇ充実してる”っつぅ話だし」
だからサービス終了がとても悲しいのだとか。昭和から令和のアニソン、そのほぼ全てを網羅していると豪語しているそうだし……おばあちゃん本当に凄いな。
「お前の声好きだし、歌ってくれよ。何でも良いから、さ?」
「……ん、もう。解ったわよぉ」
良い笑顔で彼にそんな事を言われたら、もう断れる訳がない。こういう所でガード不能技を使ってくるのだから、彼ってば質が悪いわ、本当に。
「でも、だったら、かずちゃんはその後最低3曲は歌ってもらうからね? 当然、全部わたしに向けたラブソング、だよ?」
「うへぇ、地雷踏んだっ?!」
でも、わたしだってちゃんと反撃技は持っているのだ。やられっぱなしでは絶対に済まさないわよ。
転んでもタダでは起きない……どころか、転んでもダダ捏ねて起きない。これはもう基本なんだから。
「いっぱいの愛を込めて歌うから、あなたも、たっぷり愛情を込めてくれたら……うれしいなぁ」
二人きりだから、恥ずかしい台詞だって普通に言えちゃう。
こんな事、家族の誰かがいたら絶対に無理。
それに、今日くらいは、こんなのも許されると思いたい。
だって、この地方ではとても珍しい”ホワイト・クリスマス”なのだから。
朝起きて外を見て愕然としたので大慌てで書きました。(通勤死ぬかと思った……)
全然ラブ要素が無いのはご愛敬ということで…orz
カラオケといえば、山崎ハコって今の子絶対知らねぇだろうなぁ…
誤字脱字がありましたらご指摘どうかよろしくお願いいたします。
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