13.季節イベント(二年参り)
ずっと更新開いてしまって申し訳ありません。
(クリスマスを書けなかったのは痛恨のミスでした)
「あぁ、寒い寒い……」
玄関を開けたら、すぐに冷たい空気が肌を撫でてきた。
家内の温度とのギャップで、身が縮こまってしまい外出のテンションが急激に下がる。
「やっぱり着物って寒いのか?」
「ううん、そうでもないよ? 見た目解らない様にしているだけで、中に色々と装備できるし……」
着物の時は下着を着けない。
なんて言う人がまだいるなんて、本当に信じられない。
そりゃ、浴衣みたいに薄い布地のモノならばまだ解るけれど、それにだって対策用の下着が世の中にはちゃんと存在する。
今年の夏は例の新型のアレのせいで彼にお披露目できなかったけど、浴衣共々来年用にとしっかりとってある訳だし?
まぁ、来年は大学受験が控えているし、そんな暇を作り出せるかはまだ全然解らないのだけれど。
実際、彼とは進路の事で少し間ぎくしゃくしてしまったし……その時のお話は、また何れ。
……話が逸れた。
ああ、そうそう。着物の下着の話だったわね。
防寒対策だけでなく、体型補正の下着も多数あるし、それこそ着物の下に着る洋服なんてものもあったりするし。
かく言うわたしも、見えないだけでレギンスやらなんやらをガッチガチにフル装備だし?
てゆか、わたしは寒がりだから、本当にこれ仕方が無いのよ。これでもまだ寒いもんだから、貼るカイロとか各種オプションも付けていたり。
見えない所で涙ぐましい努力って奴よ。優雅に見える白鳥も、水面下では必死に足をばたつかせていたりと端から見ると本当に滑稽なんだから。
……ただ、ここまでやってしまうと、不意の尿意があった場合、非常に不味い訳で。
ただでさえ、こういうイベント会場でなかなか空く事の無い女性用のトイレ事情。相当タフな案件になるだろう事は、容易に想像が付くのも致し方なしという奴だ。
だから、今夜はなるだけ水分を控えめに。年越し蕎麦もおつゆをなるだけ摂らなかったわ。
それもこれも、今夜、この時の為。
彼とは毎年恒例の行事なのだけれど、それでも今年はお付き合いを始めて、初めての二年参りなのだから。
「でも、寒いんだろ?」
「……わりと」
フル装備とか言ったな? あれは嘘だ。
実はまだ装備可能部位がわたしには残されていたりする。
手と、首だ。
でもね、手袋なんて絶対にしないわ。
だって、彼の暖かくてゴツゴツした掌と指の感触を、ちゃんとしっかり味わいたいじゃない? 間に何かを挟むのはダメね。やっぱり素肌同士でくっつかなきゃ。
それに、しっかり恋人繋ぎをすると、長年育ててきた彼の剣ダコが掌に当たって痛気持ち良いし。
……なんて言うと、途端に周囲からドン引きされるのだけれど。
特に千里は露骨に顔を顰めてくる。あの娘、小学生の頃からバドミントンをやっているから、掌事情は彼と似た様なものらしいし。でも、わたしは好きよ? 頑張っている人の手って。
その為にも、まず手は絶対にフリー。もう片方の手が冷えてしまうけれど、この至福のひとときを味わえるのであれば、それでも我慢ができる。
もう一つの首の方は、彼がわたしの為にマフラーを用意してくれている事を知っているから。
彼のにおい付きマフラーなんて、もうご褒美過ぎるでしょ。
わたしは”クンカー”(匂いフェチをそう呼ぶらしい)ではないつもりなのだけれど、この際そんな汚名を受け入れる覚悟だってしてやっても良いのよ?
……なんて、彼には絶対に言えないのだけれど。
「ああ、やっぱり。ほれ、俺のマフラーでも巻いとけ」
「ありがと、かずちゃん♡」
ほら、ご褒美がきた。
無慈悲にもぐるぐると何重にも巻かれちゃうけれど、そこはそれ。乾燥対策の為にリップクリームをしっかりと塗っていたのに……ってのもあるけれど。まぁ、それはあえて置いておこう。
彼の長すぎるマフラーのせいで顔が半分以上隠れてしまったのだけれど、ミッションコンプリートできたので、わたしはとても満足しています。
そんな着ぶくれしてモコモコのわたしを見て彼は頷き、わたしの頭をぽんぽんと軽く叩いてくる。
「んじゃ、行こか?」
「うん」
◇◆◇
この地域には、あまり二年参りという風習が無いらしい。
だからなのか、境内の人通りは結構まばら。
それでも、誰もいない訳ではないので、神社の人達もこの日の為に振る舞い用のお酒やら、お汁粉や甘酒を用意してあったりする。
わたしのお目当ては甘酒だったり。ここのは生姜が入っていないからすごく飲みやすい。
「待て晶。それはお参りを済ませた後だ」
……さすがかずちゃん。わたしの行動はお見通しって訳ね。はいはい、素直に従いますよー。
神様へのお願いごとは、毎年決まっている。
(来年も、かずちゃんと一緒に。ずっと、ずっといられますように……)
笑ったり、泣いたり。
時には怒っても、喧嘩しても……は、ちょっと嫌かな?
それでも、ずっと彼の隣にいられますように。
多分……恐らく彼の目指す大学には、わたしは入れないだろうと思う。
彼とは違い、わたしは努力を怠った。今更これを挽回するのには、かなり無理があるだろう。
それに、わたしは彼の隣にさえいられれば、それで良いのだとずっと思っていた。将来、その先までをも見据えていた彼とは、志その根本からすでに違っていたのだ。
わたしは拗ねた。
何故わたしに歩調を合わせてくれないのかと、何故わたしと同じ大学を選んでくれないのかと彼を詰って。
なんて、本当につまらない喧嘩。
だから、わたしはもう間違えない。
無駄だと、無理だと解ってはいる。それでも、あえてわたしは抗ってやるぞ、と。
彼の隣にずっと居られる様に。
「随分熱心に拝んでたな?」
「うん、ちょっとねー。行動する前にまず神頼みって、流石にわたしもどうかと思うけれど……」
まぁ、これはどちらかと言うと神前の誓いって奴なのだけれどね。『頑張るからテメー見とけよコラぁ』っていう。
「別に良いんじゃね? それで気持ちが楽になるなら、俺はアリだと思うけどな」
「そう? うん。かずちゃんがそう言ってくれるのなら、アリってことで」
彼の左腕を抱える様に包み込んで、少しだけ身体を預けてみる。こうやって彼に甘える事ができる今の幸せを噛み締めて。
「そら。もう少しで日が変わる。カウントダウンでもするか?」
「そだね。それじゃ、10からいくよ?」
「おう。了解」
彼と終始一緒。なんて出来なくなる日が、きっと来てしまうだろう。
そのタイミングが、就職の時なのか、進学の時なのかは、その時になってみなければ解らないけれど。
「「9、8、7、6……」」
でも、だからって、彼の隣の座を諦めてなんかは絶対にやるもんか。
「「新年、あけましておめでとー」」
「晶、今年もよろしく頼むな」
「うん。今年もよろしくね、かずちゃん♡」
だって、彼が見据えている”将来”のビジョンには、わたしも含まれているのだから。
一応ここの舞台は中部地区周辺なのですが、基本二年参りの習慣が無いと聞いて少し頭を抱えました。
まぁ、晶ちゃんの両親がそっちの地域の出と言う事でひとつお願いします。
誤字脱字があったらごめんなさい。
評価ブクマ戴けたら嬉しいデス。




