1.かずちゃんルート攻略終了…の筈よね?
急に思い付いてしまったので書きました。不定期予定。
「晶、好きだ。俺の彼女になってくれ」
「…はい、かずちゃん。私、その言葉を、ずっと待ってたの…」
彼とは、ずっと一緒だった。それこそ、記憶の無い赤ん坊の頃から。
物心が付く頃には、すでに私は彼の後ろを必死に付いて回っていた。記憶の中の彼の姿は、いつも背中が最初に浮かぶ程に。
ほんっとに今思えば恥ずかしい位にドンクサかった当時の私は、いつも彼に助けて貰っていた。
誰にでもよく吠えるご近所の大きな馬鹿犬。
年中組の女の子を、よく泣かせていた身体の大きないじめっ子。
私が泣くと、決まって彼が颯爽と現れ、優しく微笑んで私の手を引いてくれた。
彼は、私にとって本当にヒーローだった。
よく怪人や怪獣相手に苦戦する仮面ラ○ダーや、ウルト○マンなんか、無敵で素敵な彼と比べちゃうと全然メじゃないわ。
そんな彼に惹かれるのは、当然の事。女なら当然、一度や二度、三度、四度は白馬の王子様を夢見るものだし?
だから、彼のこの言葉は、その傍らで(たぶん)16年もの歳月を共に過ごして来た私の人生において、最高の瞬間だった。
多分、このテンションならボタンを同時押しすれば超必殺技が出る筈よ! 一発当たりさえすれば、そこで試合が終わるタイプの奴。パンチボタンかキックボタンか…それは解らないけれど。
彼、尾頭一輝と、私、小泉晶の二人は、こうして長い長い幼馴染みの期間を経て、晴れて漸く恋人同士になったのだ。
これが恋愛ゲームだったなら、長いエンディング曲に併せてスタッフロールが流れて、その後にほんの十数行程度の、二人の未来を軽く示唆するテキストが出て<完>となる筈よね。
で、問題はここからよ。
当然、これはゲームじゃない現実の事なんだから、エンドロールなんかは無い訳で。
その後の私達は、一体どうなるの? っていう話。
二人の想いを確かめ合い、若さと勢いに任せてぶちゅーっとヤった後(下品言うな)も、普通に時間は流れていく訳で。
てゆか、てゆか。
私は、そんなエンドロール後の、『恋人同士になった二人のゲロ甘な日々』を読みたいのよっ!
意中の女の子を追いかけ回して、口説いて、口説いて、口説き倒して、何とか個別ルート突入できたのは良いけれど、その中盤に入った辺りに唐突に差し込まれる鬱イベントなんか、ちっとも、これっぽっちも要らないのよ。
つーか、何でヒロインの誰も彼もそんな無駄に昏い過去を持ってるのよ…嫌ンなるわね、本当に。娯楽なんだから、きっちり愉しませなさいな。
まぁ、そんな長々と文句を言いながらも、私は全キャラの個別ルートだけでなく、鬱EDからバッドEDまでをも含む全イベントをきっちりとしゃぶり尽くす女ですけれど、何か?
ああ、思いっきり脱線した。
私とかずちゃんは、そんなエンドロール後のルートに丁度突入したって話。
これが普通のラブコメ漫画とかだったら今後の展開は…
急に降って沸いて、二人の間に流れる空気を一切読まない(or空気を読み過ぎた)お邪魔虫キャラの手によって、二人の関係を徹底的に引っかき回されたり?
もしくは、どちらかの父親に何故か急な転勤話が舞い込んできたり?
あと、あと、どちらかの親が何の脈絡も無く急な不治の病に倒れて…って奴とか?
そんな無理矢理話を動かす為の強引な鬱イベント、マジ要らない。
もっと酷い奴になると、二人のどちらかが交通事故に遭って死ぬor記憶喪失とか…シナリオ考えた奴、ホント馬鹿じゃないの? そんな誰得展開、ユーザーは望んでませーん(個人の感想です)。
…ああ、なんだか急に不安になってきたわ。ダメ。そんな事ではダメよ。
制服のままベッドに寝転んでスマホを見る。
彼とのメッセージのやりとりは、自分で言うのも何だけど、本当に簡潔。
…て、本当に簡潔過ぎない? これ。
『ry』
『おk』
『うい』
そんなすでに日本語ではない簡素な文字が飛び交うやりとりばっかりね…我ながらびっくりよ。
折角幼馴染みの関係から変われたんだし、私がこの空気を変えてみせるわっ!
意を決して自分の中では最速でメッセージを書き込む。文字入力って中々慣れないのよね…ああ、だからだったわ。二人ともスマホデビューが遅かったし、正直に言ってしまうと、得意ではない。
あと、こういうメッセージ打ってる時は、絶対に冷静になっちゃダメよね。
ふとここで冷静になってしまうと、一気に心まで冷え込んでしまうわ。なのに、私は冷静になった後で絶対に、確実に床をゴロゴロと転げ回るであろうそんな甘々なメッセージとスタンプを連打連打してやったわ。ざまぁ。
半端に余ったウェブマネーの使い方に困って勢いで買ったは良いけれど、本当に使う場面が全く無かったのよね、これ…こんなのでも学食にある林檎ジュース2本分もするってンだから、世の中ホンマ銭やって奴よ。世知辛いわね。
だから、今ここで元を取ってやらなきゃ。打つべし、打つべし、打つべし。
…ふう。
これでかずちゃんも私の魅力再発見。メロメロしゅきしゅき~って奴よ…多分。もしこの行為が迷惑だったら、明日挨拶と共に”梅干し”されるだけ。あれ、地味に痛いのよね…
…ぶるり。
うん。考えるのはやめよう。
私の愛するかずちゃんなら、きっと笑って許してくれる筈。
…うん、無理。絶対にそんな筈は無いわね…彼の性格なら、確実にお仕置きコースだわ、これ。
あ。既読ついちゃった。
もう無かった事にできないわね…忘れようそうしよう。
お風呂いってきまーす。
これで大丈夫。うん。そう思おう。
机に向かい、暫し勉強。
これからも彼と共に歩もうとするのであれば、私は必死に食らいついてでも、彼の学力に付いていかなきゃならない。今思えば、良くあの学校に入れたものね。
一緒の大学は…今の成績じゃ、ちょっと無理だなぁ…
ああ、嫌だ。嫌だ。暗い考えばかりが脳裏に過ぎる。
もうハッピーエンドを迎えた筈の私達は、そのまま結婚…何て訳もなく。
もしこれがゲームであったなら、エンディング後に確約されているであろう未来。
しかし、ここは虚構の世界ではない現実。ここからでも簡単に、それも唐突に、理不尽な強制イベントが度々差し込まれるだろう。それが必ず鬱と決まった訳でもないけれど、現実に勝る糞ゲーは無いとも言うし…
あれ?
想い通じてようやく結ばれたのに、逆に不安になってきたわ…
今が幸せ過ぎるからなのか、何故か頭に浮かぶのは、嫌な事ばかり。我ながらネガティブ思考が本当に嫌になる。もう少し前向きな性格になれないのかしら?
両肩を抱いて震えていると、私の携帯が持ち主と同じ様に震える。着信音は、彼の趣味に(強引に)合わせ(られ)た某時代劇のテーマ。彼専用の着信音。
『よ。晶、今暇か?』
「うん、大丈夫よ。かずちゃん、どうしたの?」
彼の声を聞いただけで、どうしようもないまでに不安に押し潰されそうになっていた自分の心が、一気に軽くなるのが解った。本当に単純過ぎない、私?
『うんにゃ、特に用事は無いんだけどさ。急に声が聞きたくなった』
「なにそれ? もう、仕方無いなぁ、かずちゃんは…」
”ありがとう、かずちゃん。声が聞けただけで、私は嬉しいよ”…そう言いたかったのに、何故かこんな言葉が出てしまう。
それから、かずちゃんと色々お話をした。
恋人同士だとか、幼馴染みだとか、そんな些細な枠なんか関係無い様に、ただ本当に色々と、とりとめのない話を、ずっと。
ふと時計を見たら、すでに深夜帯。
明日も学校。寝不足大確定。
絶対に明日の授業は、二人して睡魔との壮絶な戦いが繰り広げられる事だろう。辛い。
『遅くまでごめんな。んじゃ、おやすみ』
「うん。おやすみ。また明日ね、かずちゃん」
スマホを充電器に置いて、ベッドの中へ。
彼の声を聞けて良かった。明日までの”かずちゃん分”が補給できたのは、本当に僥倖だったわ。
…将来の不安はある。
ゲームではないのだから、私はこのまま彼の側で笑っていられるか、それは誰にも解らない。
でも、私は彼の側にいる為ならば、決して努力は惜しまない。
かずちゃんルートのエンドロールは、とうに過ぎたのか、それとも、まだなのか。
それすら私には解らないけれど。
まず彼に会ったら、とびきりの笑顔をぶつけてみよう。
まだボタン同時押しで超必殺技が出る筈。それも、一発当たりさえすれば、そこで試合が終わるタイプの奴。パンチボタンかキックボタンか…それは解らないけれど。
私から、彼への好感度はすでにMax。というより、すでにゲージを何回も振り切ってバグってるレベル。修正なんかさせないわよ。
彼から、私への好感度は? …謎ね。だから彼に当ててやるんだ、超必殺技を。
もしかしたら、そこでエンディングが来るのかも知れない。
だから、今日はおやすみなさい。
…首を洗って待ってなさい、かずちゃん!
誤字脱字があったらごめんなさい。
評価戴けると嬉しいです。