表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化&コミカライズ】裏切られた黒猫は幸せな魔法具ライフを目指したい  作者: クレハ
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/57

19話 呪い



 しばらくして、隣の部屋の扉が開き、女官達がクルミに一礼してから退出していった。

 続いて出てきたアスターがクルミを招き入れるように道を開ける。



「もういいぞ、クルミ」


「本当に大丈夫なの?」


「一応な。気になるなら直接シオンの顔を見てやれ」



 恐る恐る足を踏み入れたのは寝室であり、シオンはベッドの上でクッションにもたれかかるように横になっていた。

 まるで先程のことが嘘のように、シオンはケロリとしていて、クルミの方が拍子抜けする。



「さっきのはどうしたの? どこが悪いの?」



 シオンもその答えが分からないと首を横に振る。



「いつから?」


「クルミが学校へ行き始めた頃かな。突然胸が苦しくなってまるで杭で心臓を突き刺されているような痛みを感じたんだ。それ以降その苦しみは発作のように度々起こるようになってね。医師に診せても理由は判明しなくて手も足も出ない状態さ。しかも発作の頻度は多くなってきてる」


「そんな……」


 まさかシオンがそんな状態だなど予想もしなかった。風邪という言葉を素直に信じて呑気にしていたのが申し訳なくなる。



「本当に原因は分からないの?」


「残念ながらね。一応医師も色々当たってみてくれて、いくつもの薬を試したが駄目だった」



 アスターに視線を向ければ、沈痛な面持ちで下を向いている。

 あんな状態になるシオンをずっと見ていたなら当然だろう。

 医師ではないアスターには何もできないのだから。ただ苦しんでいるのを見ているしかない、その無力感でいっぱいという表情。


 クルミも病気となると専門外だ。……いや、本当に専門外か? という考えが浮かぶ。


 ふと、シオンの胸元がクルミの目に映った。

 着替えをした服は先程よりもゆったりとしたもので、シオンの胸回りが開いていた。

 そこからチラリと見えた浅黒いあざのようなもの。



「シオン、その胸のあざみたいなのはどうしたの?」


「あざ? ……ああ、これか。さあ、分からないよ。いつの間にかできていたから」



 クルミはシオンに近付くと、あざがよく見えるように首回りの服を少しだけ下にめくった。

 そこに見えたあざを見たクルミの目が大きく見開かれる。


 そして次の瞬間、クルミはまたがるようにシオンの体に乗り押し倒した。

 馬乗りになったクルミにシオンも驚いた顔をする。



「えーっと、クルミ。悪いんだけど僕まだ体調がよくなくてそんな気分にはなれないんだ。アスターもいるし、それにどちらかというと押し倒されるより押し倒したい派なんだよ」


「馬鹿言ってんじゃないわよ!」



 クルミはシオンに強烈なデコピンをお見舞いした。



「マジで冗談じゃないわ! シオン、あなた呪われてるわよ!」


「えっ?」



 意味が分からない様子のシオンを無視して、クルミはシオンにまたがったままの状態で空間を開くと、迷わず手を突っ込んだ。



「おい、クルミ、どういうことなんだ!? 呪われてるって」


「ちょっと待って、オカン。説明は後よ。早く対処しないとシオンが死ぬわ」


「死っ……!」



 言葉を失うアスターに向けてか、クルミはグチグチと文句を言いながら準備をする。



「やっぱり無理矢理乗り込んできて正解だったのよ。いや、もっと早く来てたら軽く済んだのに、シオンが風邪なんて言って私を遠ざけるから悪いのよ! つまり全部シオンが悪い!!」


「えっと、なんかごめん?」



 シオンは状況を理解していなくともクルミに任せておく方がいいと察してか、抵抗することなく大人しくされるままになっている。



「時間が経って、相当深く入り込んでるわ。ちょっと痛いかもしれないわよ。でも、このまま放っておいたら死ぬことになるから我慢してちょうだい」



 クルミの顔には焦りがにじんでおり、時は一刻を争うことを告げていた。

 クルミは空間から取り出した魔法陣の書かれた紙をシオンのあざの上に置いた。

 さらにペーパーナイフほどの大きさの銀色の短剣を迷わず魔法陣の中心を突き刺したのだ。その下にあるシオンの体ごと。

 直後、痛みに声を上げるシオン。



「うぐっ!」



 これにはアスターも驚きと共に止めようとする。



「クルミ、何してるんだ!?」


「あきまへんで、オカン。主はんの邪魔したら」



 ナズナに止められて足を止めたが、その顔は止めるべきか留まるべきかで葛藤しているのが分かる。

 そんなアスターにナズナが説明を付け加える。



「よく見てみい。血は一切出とらんやろ?」



 ナズナの言う通り、胸を深く突き刺したというのに、シオンから血は流れていない。



「主はんが刺したんは、皇帝はんやなくて、皇帝はんの中にある呪いや。せやけど、深く入り込みすぎて中々出てこんのや。しつこい呪いを引き剥がすんは、多少皇帝はん自身に痛みを与えてまう」


「……シオンは大丈夫なんだな?」


「誰に言うとんねん。主はんはヤダカインの初代女王やで。オカンが邪魔せえへんかったら問題ない。皇帝はんは助かる」


「分かった……」



 ようやく大人しくなったアスターは、それでも心配そうな顔でこぶしを握り、ことの成り行きを見守った。

 そんな中、クルミは慎重に短剣を突き立てながら魔力を流していたが、思ったよりも呪いが深いところまで侵入している。

 思わず舌打ちが出てしまう。



「この、なんだってこんな厄介なのを私の知らない内に飼っちゃったのよ」



 クルミは短剣をさらに押し込むと、シオンの呻き声が上がったが、シオンも必死で我慢している。

 だが、あまり時間をかけていてはシオンにも影響が及ぶだろうと危惧したクルミは内心かなり焦っていた。

 だからといって雑にするわけにもいかない。


 慎重に、けれど確実に呪いを捉える。


 そして、短剣を横にぐいっとひねったところで、金属が擦れるようなギィィイという音のような叫び声が部屋に木霊した。



「よし!」



 手応えを感じたクルミは、そのままゆっくりと短剣を引き抜く。


 その直後、刺した中心から黒いミミズのような細長い何かが出てきた。

 クルミはそれを瓶の中に入れ、きつく蓋をした。

 そして、やりきった達成感のある表情浮かべ、額ににじんだ汗を拭うと、魔法陣の書かれた紙を回収する。


 すると先程までシオンの胸元にあったあざが綺麗さっぱりなくなっていたのだ。



「終わったのかい?」



 もういつものような笑顔を浮かべる元気もないのか、ぐったりとした様子でシオンが問う。



「終わったわよ。お疲れ様」



 ようやくクルミはシオンの体から下りて、ベッドに腰掛けた。



「アスター、水をもらえないか?」 


「ああ、待ってろ」



 すぐに隣の部屋から飲み物を持ってきたアスターの助けを借りながらシオンは口を潤すと、ほっとひと息吐いた。

 その様子を見てもう大丈夫だと確信したクルミの手にあるのは、先程シオンから出てきた黒い何かが入った小瓶だ。


 シオンも気になるのだろう。小瓶から目を離さない。



「それはなんだい?」


「簡単に言えば呪いの種かしら。魔女の使う魔法が呪術と言われているのはシオンも知ってるわよね?」


「ああ」


「実際呪術と言われていても、呪う方法を知ってるというだけで、本当に人に呪いをかけられる魔女は少ないの。なにせ、難しくて準備がものすごく大変な上に、リスクが高いからよ」



 クルミはシオンに小瓶を渡す。



「呪いが完成すればいいけれど、呪いを解除された場合、その呪いが何倍にもなって術者に返ってきて逆に呪われることになるからよ」


「なら、僕の呪いは今頃僕を呪った者に返ったったことかい?」


「いいえ、その前にその小瓶に捕獲したからまだ返っていないわ。だからどうする?」


「どうするとは?」


「それをこの場で消滅させることも可能だけど、あなたを呪った奴に返すこともできるわ」


「僕を呪ったのが誰か分かるかい?」



 クルミは少しの間小瓶の中身をじっと見た後、首を横に振った。



「かなり高度な呪いね。完全に痕跡を消されてる。けど、その呪いを返せば分かるわ」


「じゃあ、お願いするよ」


「即答ね。最悪相手は死ぬかもしれないわよ?」


「僕を殺そうとした相手に慈悲をかける必要はあるかい?」



 ようやくいつものシオンを取り戻してきたのか、天使のような悪魔の微笑みを浮かべた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ