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11話 クルミの魔法具店



 町に来て二日目。



 やる気をみなぎらせて許可を取ったはいいものの、場所を使えるのが翌日からだったので少し肩透かしを食った気分だった。

 一晩宿に泊まるだけのお金の余裕があったのが幸いだった。


 夜はぐっすりベッドで寝て、朝からモリモリ朝食を食べて気力も体力もいっぱい。

 早速町の広場の許可を取った場所に行く。



「今日はなんだか天気が悪いなぁ。雨降らないといいけど」



 クルミの気合いに反して、空は今にも雨が降りそうな天気模様。

 そんな空の下で、同じように物を売る人達が敷物の上にそれぞれの品物を並べていっている。


 クルミも負けじと商品……魔法具を並べていく。


 はっきり言って魔法具ではあり得ない安すぎる価格設定だ。

 それは早くお金を貯めてここから帝都に向かうためであるのだが、町を行き交う人達はまるでクルミが見えていないかのように通り過ぎ、他の所に行ってしまう。


 いや、見えてはいるはずだ。一瞬足を止める人も少なからずいるのだから。しかし、値段を見た途端に行ってしまう。

 値段が高すぎたか? と焦りが募る。

 隣で野菜を売っているおばさんは大盛況だというのに、クルミの所には人っ子一人いない。



「何故に……?」



 こんなお買い得品他にないというのに。

 首を傾げていると、待ちに待ったお客さん……と思いきや、小さなお客さんがやって来た。


 五、六才ぐらいだろうか。

 興味津々に見ている。……ナズナを。

 母親はどうやらお隣で野菜を吟味している様子。

 暇を持て余していたところにナズナを発見したのだろう。



「お姉ちゃん、その鳥さん本物?」



 小さくてもお客さん。クルミは愛想よくにっこりと笑みを浮かべる。

 本当は大人に来て欲しかったが、暇なのでお喋りに付き合うことにした。



「そうよ。こんにちはって言ってごらん。返してくれるから」



 ナズナがえっ!? という顔をしたが構わずナズナを子供の前に近付ける。



「鳥さん、こんにちは!」



 舌っ足らずに挨拶をする子供の可愛さに癒される。



「コ、コンニチハ」



 戸惑いながらも鳥らしく返したナズナに、子供はぱあっと表情を明るくする。



「お返事してくれた!」


「賢いでしょう?」


「うん!」



 子供はかなり嬉しかったのか、何度も「こんにちは」と繰り返しては、ナズナの返しに大喜びしていた。

 そうしていると、子供の母親が買い物を終えてこちらへやって来る。



「すみません、この子が邪魔をしてしまって」


「構いませんよ。可愛い子は大歓迎です」



 子供は大人のように汚い真似や裏切ったりしないからね。などと、最近の不運続きで人間不信に拍車が掛かりつつあるクルミだった。



「ここは何を売っているの?」



 子供のついでであるが、やっとお客らしいお客さんがやって来て、クルミは一気にテンションが上がる。



「これは魔法具です!」



 どうだと言わんばかりに得意げに紹介したが、母親は何故か戸惑ったような顔をする。

 それを不思議に思うクルミ。



「どうかしましたか?」


「えっ、偽物でしょう? 魔法具だなんて……ねぇ……」


「いえいえ! 本物ですよ!」



 何故そう思ったのか分からない。



「だって、魔法具がこんな安く売っているなんて」



 戸惑いの理由が分かってクルミは納得した。

 そして、何故客が来なかったのかも。

 魔法具とは希少で高級品だ。

 こんな道端で、敷物は敷いているとはいえ地べたに乱雑に置いていい物ではない。

 しかも、この価格の安さだ。偽物と思われていたのかと、やっとクルミは気付く。



「本物ですよ」



 百聞は一見にしかず。

 これは実際にデモンストレーションした方が信用してもらえるかもしれないと、並べていた魔法具を一つ手に取る。


 それはランプの魔法具だ。


 勿論蝋燭ではなく、魔法陣を刻んだ魔石が光るのだが、その光は蝋燭と比べものにならないぐらい明るく、家の中で使えば夜でも部屋中を明るく照らすことだろう。



「これ一つあれば夜でも昼間のように明るく過ごせますよ」


「まあ!」



 光を発するそのランプを見た母親は本物と分かり驚いた顔をする。



「本当に魔法具なの? 火も蝋燭も使ってないわ」


「正真正銘魔法具です! まあ、回数制限はありますが、数年は使い続けられますよ」


「それでこのお値段?」


「数量限定! 早い者勝ちですよ!」


「いただくわ!」



 即決した母親に、クルミはニヤリとした。

 何故なら隣で野菜を買っていた主婦達もこちらを見ていたからだ。

 ざわりとする主婦達の興味がクルミの魔法具に向かうのが分かる。

 恐る恐るという様子でその中の一人がやって来て、気になった一つを手にする。



「この小さいのはどういう魔法具なの?」



 ビー玉のような丸い石。

 それだけは数が多くて山のように積んでいた。



「それは着火の魔法具です」



 村では形にこだわらなくていびつな形をしていたが、売り物にするなら形にも気を使った方が良いだろうと綺麗に丸くしてみたのだ。


 クルミは使い方を教えるようにビー玉を一つ取り、枝でトントンと叩くと枝に火が点いた。

 マジックを見た人のように驚く主婦に説明をする。



「こうして火を点ければ、毎日火種を作るのに苦労することなく料理ができます。冬場には暖炉に使うのもありですよ」


「火がこんな簡単に……」


「ちなみに値段はこれです」



 値段を見た主婦が二度驚く。



「十個ちょうだい!」


「まいどあり~」



 食い気味に来る主婦に、ナズナがご機嫌で挨拶する。

 それを切っ掛けに、クルミの所にもお客が来るようになった。

 そして、買った人から口コミで広まったのか、お昼を過ぎる頃にはたくさんの人がクルミの店を取り囲むように。

 クルミは商品の説明でてんてこ舞いだ。



「お嬢ちゃん、これはどんな商品なんだ?」



 魔法具は使い方を知らないどころか、見たことがない人がほとんどだ。

 クルミはテレビの通販番組の商品紹介のように、一から説明していく。



「皆さん、毎日のお風呂には困っていませんか? 井戸から水を汲んで浴槽に溜める。そんな重労働からは解放されたい! そう思ったことは一度はあるでしょう!」



 うんうん、聴衆が頷く。



「そんな時に使っていただきたいのがこちら! こちらにありますのは、浄化の魔法を刻み込んだ魔法具。これを使えばあっという間に汚れも綺麗さっぱり、気分は風呂上がりの爽快さ。しかし、これはそれだけじゃあない! なんと、これは何度洗濯しても落ちない染みついた衣類の汚れも落とすのです!」



 声を揃えたように、おお~! と驚く反応が返ってくるのでクルミは販売人になったような気分になってきた。



「さあ、買った買った。数量限定だよ~!」


「俺は買うぞー!」


「私にもちょうだい!」


「おい、押すなよ!」


「誰だ、足踏みやがったのは!?」


「ちょっと、抑えて抑えて」



 あまりの迫力に、あおったクルミの顔が引き攣った。

 数に限りがあるので、抽選で決めることにしたのだが、予想以上の人が集まってしまって暴動かと町の警ら隊が出動。

 事情を説明すると列の整理を手伝ってくれたが、客を捌ききった後、しこたま怒られた。


 代わりに、袖の下というわけではないが、懐中電灯を模した魔法具をプレゼントすると夜警に役立つと大いに喜ばれ、色々と情報を教えてくれた。


 それによると、帝都行きの馬車は明日の朝に出発するらしく、御者にはクルミの話をしておいてくれるという。

 御者とは顔馴染みなのでお安くしてくれるらしい。


 魔法具が売れたとは言え今後を考えてると無駄遣いをしたくないクルミには願ってもないことだ。


 お互いニコニコで別れると、クルミは片付けに取りかかった。

 そうしていると、クルミの近くに高級そうな馬車が止まった。護衛らしき兵士の姿もあるのでそれなりに高貴な人が乗っているのだろう。


 この世界に来てからは初めて見る豪華な馬車を興味津々に見ていると、そこから歩くのもひと苦労していそうなでっぷりとしたお腹を抱えた男性が出てきた。

 大きな宝石のアクセサリーをそこかしこに身に着けた、成金を絵に描いたような男性は、お付きの人に耳打ちされると真っ直ぐクルミの所にやってくる。


 嫌な予感がして慌てて空間の中に荷物を放り込んでいくが、一歩逃げるのが遅かった。



「そこな娘よ」



 無視しようかと聞こえないふりをしたが、お付きの兵士が乱暴なほど強くクルミの肩を掴んだ。

 思わず顔をしかめるクルミに構わず、メタボリックな男性が近付いてくる。



「この私が声を掛けてやっているのだ。すぐに返事をしないか」



 上から目線な男に何様だと思っていると、お付きの人がまるでこの紋所が目に入らぬかと言わんばかりに仰々しく声を上げる。



「こちらの方はこの町の領主様でいらっしゃるぞ!」



 頭が高いとでも言いそうな雰囲気だ。

 しかし、クルミの反応は薄い。

 ナズナも興味がないのか、足で頭を掻いている。



「へ~」



 だから何? と言わんばかりのクルミの反応に、お付きの者は怒りに震える。



「貴様、恐れ多くも貴族のお方が声を掛けているのだから、すぐにはせ参じて這いつくばってお言葉を待つのが礼儀だろう!」


「そんな礼儀初めて知ったけど、なんか用ですか?」



 厄介事を早く終わらせたい空気が溢れんばかりに出ている。

 お付きの人の目付きがさらに鋭くなるが、町の領主という貴族が止めた。



「下がれ。話ができん」


「はっ! 申し訳ございません」



 すっと横に移動して貴族に道を空けたお付きの人の横を通り、クルミの前で立ち止まった。

 クルミは兵士と思わしき男に肩を掴まれたままなので逃げるに逃げられない。



「ここで魔法具を売っていたというのはお前か?」


「……ええ、まあ」


「ふむふむ」 



 何がふむふむか分からないが、そう言いながらクルミの頭から足までを値踏みするように見られ、クルミの全身に鳥肌が立った。



「困る、困るなぁ」


「何がですか?」


「領主である私の許可なく魔法具を売りさばくなどあってはならない。そうだな?」


「まったくその通りでございます」



 お付きの人が相づちを打つ。



「場所の許可ならちゃんと届け出出しましたけど?」


「そうではない。魔法具を売るなら、その売上の内の五割は領主に納めるのが決まりだ」


「はあ!? そんなこと許可をもらった時に言ってなかったわよ!」


「ならば言い忘れていただけだろう」


「五割って、ぼったくりもいいところじゃない!」


「無礼だぞ、娘!」


「私に対する不敬罪で捕らえてもよいが……」



 貴族はニヤニヤとした気持ちの悪い笑みを浮かべクルミを見た。



「私は優しい領主だから、今回は売上の八割を納めることで目をつぶってやってもよい」


「はあ!?」


「嫌ならばあるだけ全ての魔法具を納めよ。随分と珍しい魔法具を持っているようじゃないか。ここは帝都からも遠く中々魔法具も入ってこないので、それで許してやろうではないか」


「くっ……」



 クルミは悔しげに顔を歪める。

 この貴族のそもそもの目的が分かった。

 こいつは、難癖を付けて貴重な魔法具をただで手に入れようというのだ。魔法具を売ることは許可を得る時にちゃんと申告していた。それでも何も言われなかった。



「冗談じゃないわよ!」

 


 クルミは肩を掴んでいる兵士の手を強く振り払った。



「どうして私が苦労して作った物をあんたみたいなアホにあげなきゃならないのよ。冗談はその腹だけにしてよね!」



 護衛を初めとした観衆がぎょっとする。



「主はん。そりゃ愚策やで」



 ナズナが呟く。

 貴族が偉いことはクルミでも分かる。

 が、魔法具に対して並々ならぬ情熱を持っているクルミは、苦労して作った魔法具の上前をはねようとしている貴族に我慢がならなかった。


 あっ、言い過ぎた……。と、思った時には遅かった。


 貴族は怒りでか、プルプルと体を震わせ顔を真っ赤にしていた。



「捕らえろ! この娘を即刻捕らえて牢に入れてしまえ。そして、死ぬまで魔法具を作らせるのだ!」


「あちゃー」



 ナズナが羽で顔を覆う。

 貴族の命令に反応した兵士がぞろぞろと動く。



「そ、そのくらいで怒るなんて器の小さい男ね。モテないでしょう!」


「な、なんだと!」


「主はん、火に油注いでどうすんねん」



 ナズナがツッコミを入れている間にクルミ達は兵士に取り囲まれた。

 面倒臭いことになったと頭を抱えたくなった。



「あ~、もう。ナズナ!」


「はいな」



 あうんの呼吸で、名を呼ばれたナズナはクルミの意図を理解し、空に高く飛んで足に着けている魔法具を発動させた。

 すると、頭上からクルミを避けて兵士にだけ大量の水が落ちてくる。



「わっ!」


「なんだ!?」



 驚いている兵士を避けて逃げようとするクルミを見た貴族が怒鳴り散らす。



「何をしている! さっさと小娘を捕らえよ! 多少手荒なことをしても構わん」



 そう言った途端に剣を鞘から引き抜いた兵士達を見てクルミはさすがに身の危険を感じとった。


 手荒なことどころか殺しに来ているのではないかと思うほど剣を振りかぶってくる兵士を強化魔法で避けていたが、足下にあった小石で躓いてしまった。


 そこを見計らったように振り下ろされる剣。

 咄嗟に手を前に出したクルミの腕に鋭い痛みが走った。



「主はん!!」



 ナズナが焦りを滲ませた声で叫んでいるが、クルミは痛みでそれどころではない。

 しかし、じっとしているとまた傷付けられてしまうので、急いで兵士から距離を取る。


 その直後、ナズナのもう片方の足に着けている魔法具が発動した。

 ドーン!!

 視界を奪うほどのまばゆい光と、耳をつんざくような轟音が襲う。

 兵士達が目を開けた時にはクルミの姿はそこになかった。




***




 ザアザアと雨が降りしきる中、兵士達が慌ただしく走り回っていた。



「おい、いたか?」


「いや、こっちにはいない」


「早く探せ! 領主様はかなりお怒りになってるぞ」


「ああ、こっちにもとばっちりが来ちまう」



 そう言ってバタバタと遠ざかっていく足音を確認して、クルミは逃げ込んだ路地裏からひょっこりと顔を出した。

 周囲に兵士の姿がないのを確認してほっとする。

 現在クルミは腕輪の魔法具で黒猫の姿だ。

 この姿でいるかぎりは兵士に捕まることはないだろう。

 けれど……。



『う~、痛い……』



 腕輪をしていない方の腕には斜めに切られた傷があり、そこからポタポタと血が流れていた。



「主はん、早く傷の手当てせな」


『うん……。けど、この姿じゃ怪我の手当なんてできないし、人間に戻ったら見つかる』



 どうしたものか……。

 さらに時間が経つごとに雨あしは強まり、水滴が叩き付けるようにクルミの体に打ち付ける。

 段々体も冷えてきた。

 命に関わるほどの怪我ではなかったのが幸いだ。

 けれど、どこかで人間に戻って傷の手当てをしなければ……。

 そう思っているとはっと思い出す。



『あっ、そうだ!』


「なんや、良い案でも思いついたんかいな?」


『うん。一旦空間の中に入って、そこで人間に戻ってから手当てして、それからまた猫になって戻ってくればいいんじゃないかって』


「おお、そりゃナイスアイデアでんな」

 


 空間の中は精神に悪影響を及ぼす長居厳禁のある意味危険な所だが、手当をするぐらいの時間なら問題ないだろう。



「なら早く空間開いてんか?」


『うん』



 そうして空間を開こうとしたその時、目の前を精霊が横切った。

 それも一人二人ではない。複数の精霊がクルミの周りにどんどん集まってきている。


 ぎょっとするクルミ。

 この世界に戻ってきてからこれほど多くの精霊を見たのは初めてだった。

 なんだってこんな路地裏にこれほどの精霊がいるのかと不思議に思っていると、ひょいっと体が持ち上げられた。



「にゃっ!」



 びっくりして思わず声が出たクルミが顔を後ろに向けると、天使のように優しげで美しい顔がクルミをじっと見ていて驚きのあまり硬直する。


 ハニーブロンドの長い髪に青い瞳。まるで天使が降臨したかのような神々しさを発していた。



「かわいそうに。こんな怪我をして」



 中性的ではあるが男性と分かるその人は、クルミの腕の怪我を見て痛ましそうな顔をする。

 その男性の周りを精霊達がうろうろとして興味津々にクルミを見る。



『にゃんこだー』


『怪我してる』


『怪我してるね~』


『シオンどうするの?』



 精霊達が口々にしゃべる。



「とりあえず宿に連れて行って手当てをしてあげようと思ってね」


『珍しくシオンが親切~』


『普段は極悪非道なのにね~』


『極悪人~♪』


「人聞きが悪いなぁ。僕だって良心はちゃんとあるさ」



 天使のような微笑みで精霊達と会話する男性にクルミは目が点になった。

 こんなに精霊と親しくできる存在なんてただ者ではない。もしやこの人は……。


 そんなことを考えている間にクルミは抱っこされたまま連れて行かれた。

 後ろではナズナがどうすべきかと困惑したまま止まっている姿が見えたが、大通りに出ればすぐに見えなくなった。

 まあ、ナズナとは魔力で繋がっているので離れていても居場所が分かるから問題ないかと心配はしなかった。

 それよりも問題なのは自分がどこに連れて行かれるのかだった。





こちらですか、書籍化のお話を頂きまして、ただいま書籍化に向けて進行中です!


まだいつ頃発売になるかは分からないのですが、続報は活動報告かTwitterにてお知らせいたします。



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