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プロローグ




 とある深夜の真っ暗な部屋の中。

 あるのは手元にある小さな蝋燭の火だけ。


 その小さな灯りだけを頼りに、彼女……クルミは黙々と作業していた。


 今日こそは事を成し遂げんとするその目はギラギラと輝いていた。



 この日のために徹夜で準備もした。


 きっといけるはずだと、自分自身に言い聞かせる。

 ベッドにはそこで寝ているかのようにクッションを詰め、拝借したシーツを縦にいくつも裂いて端と端を結び、一本のロープのようにした。


 準備は万端。

 クルミは蝋燭の火を消すと、隙間なく閉められたカーテンからそっと外を覗くと、いるはいる。

 クルミを監視する悪魔達が。



 実際は神のごとく崇められる存在なのだろうが、自分の行く手を邪魔する奴らは悪魔同然。


 それ以上にたちの悪い魔王もいるが、今頃奴は王宮内で行われているパーティーに出席していて忙しい。


 ならば後は目の前の悪魔達を何とかするだけ。

 そのための対策は考えてある。

 時計を見てて、その時間が迫っていることを確認する。

 カチカチと秒針が進む度に心臓の鼓動が強くなるのを感じる。



「三、二、一……」



 その瞬間、ドーンと空に大輪の花が咲いた。



『わー、スゴーい』


『なになに?』


『花火だー』


『見にいこー』



 予想通り、花火に気を取られた悪魔達が一斉に向かっていく。

 いなくなったのを確認したクルミは、にやりと笑って窓を開け、テラスの手すりに先ほど作ったロープをくくり付ける。

 周りに奴らがいないことを再確認して、クルミは慎重にロープを下りていった。


 地面に足つけると、ほっと一息吐く。


 そして、次の瞬間には走り出した。


 時々巡回する兵士をやり過ごし、クルミは一目散に走り抜け、王宮の裏庭まで来た。

 庭と言っても、それは森と言って問題ない広大な広さと木々に覆われている。

 ここまで来れば、この暗闇だ。兵士に見つかることもないだろう。


 クルミは、暗視の魔法を使っているので暗闇でも問題ないが。

 悪魔達も今なお上がっている花火に気を取られて、クルミがいないことなど気付かれていないはず。

 この森を抜けさえすれば、後はクルミが事前に見つけていた抜け道を通って外に出られる。

 すると、



「ふははは、やったわ。やっとあの魔王を出し抜いてやったわよ!」



 そう高笑いしたところで、何か急に右足が重くなった。

 嫌な予感がして、恐る恐る右足を見ると、じっとこちらを見る悪魔が一人。



「ぎゃー!」



 思わずクルミは叫んだ。



「いつの間にっ」


『駄目なのー』


「私のことはほっといて」

 


 そんなやり取りをしていると、右足にくっついている悪魔から情報が回ったのか、他の悪魔達も駆け付ける。

 幼児のように幼い姿をした小人だが、その可愛い姿に騙されてはいけない。奴らは恐ろしい存在なのだ。



『あっ、いたよー』


『逃げてるー』


『捕まえろー』


『おー』



 そうして、ビタンビタンとクルミに張り付いてきた悪魔達により身動きが取れなくなる。



「は~な~せ~」


『だめー』


「駄目じゃない。今日こそ私は自由になるんだ」


『シオンが怒るよ~』


「そうならないために逃げるのよ!」



 体にたくさんの悪魔達を貼り付けたまま、それでも諦めの悪いクルミは一歩また一歩と歩みを進める。

 と、そんな時……。

 


「まったく、クルミはまた逃げたのかい?」



 ドキンっと、クルミの心臓が跳ねる。

 それは聞きたくなかった人の声。

 顔を引き攣らせながら後ろを振り向くと、クルミが絶対に会いたくなかった悪魔達の親玉、魔王がにっこり微笑んでいた。

 


「わぁぁ、離してぇぇ」



 最後の悪足掻きをするクルミをひょいと持ち上げた魔王……いや、この帝国の皇帝シオン。



「離して~!」


「まったく一々迎えに来る僕の苦労を考えてよ」


「迎えに来いなんて一度も言ってないでしょうが! 一体どうしているのよ、パーティーは?」


「今回は色々と小細工したみたいだけど、僕には意味なかったね」


「むかつく! その残念な子を見る目で見るな!」



 目を吊り上げて怒りに怒りまくるクルミと、見た目は天使のような笑みを浮かべたシオンは対照的だ。



「いい加減諦めたらいいのに。精霊達の目をかいくぐれるわけないのにさ」


「諦めるわけないでしょ! たとえこの悪魔達がいようと」


「悪魔なんて可哀想に。可愛い精霊じゃないか」


「私には悪魔にしか見えない……」



 毎度毎度追い掛けられていたらそう思うのは仕方がなかった。

 そんなクルミにシオンはやれやれというように溜息を吐く。



「何が不満なのかなぁ」


「私は外で自由に生きたいのよー!」


「ダーメ。クルミは僕のなんだから」


「いつあんたのものになった」


「僕のだよ。クルミを拾ったのは僕なんだから」


「はぁぁ、なんでこんなことになったのよ。ここまで不幸か私の人生。神様のアホー!」


「はいはい、おうちに帰ろうね」



 こうして、クルミが王宮に連れて来られてから通算二十六回目の逃亡劇は幕を下ろした。


 魔王に捕獲されながらクルミは思うのだ。どうしてこんなことになってしまったのかと……。







こちらは復讐を誓った白猫は竜王の膝の上で惰眠をむさぼるの外伝として書いたものです。


主人公はまったく違いますので、前作を知らない方でも楽しめるかと思います。

ですが、白猫の要素もあったりするので、知っている方はニヤリとする場面もあったりなかったり。


また、復讐を誓った白猫は竜王の膝の上で惰眠をむさぼるの方も、続編を準備中。

こちらの黒猫と共に白猫も楽しみにお待ちいただけたら幸いです。


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