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「ごめんなさいいいいいい!!!!」
抱き着きながら盛大に泣いている彼女の背中を、よしよしと撫でる。これじゃあ、どっちが助けられたのかわかりゃしない。
「わたし、いっしょうつぐないますうううううう!!!!」
「そこまで深刻に考えなくていいから!」
一生は重いので止めていただきたい。その様子を呆れて見ている者が一人。
「それくらい当然なんですけどね」
「まあ、彼女がああなのはいつものことだろう」
「はあ、どうしてあそこまで自己肯定が低いのかしら」
そろそろ自分が皆から愛されていることを自覚しても良いのではないだろうか。
「ほらレイラ嬢、いい加減マリベル嬢から離れてやれ」
アーノルドに言われ、レイラは渋々離れる。顔はまだ涙に濡れていた。自分の肩も濡れている自覚がある。だけど、それが嫌とは微塵も思わなかった。
「ありがとうございます、本当に、なんとお礼を言ったらいいか」
最大の感謝を込めて頭を下げようとした。しかし、イザベルの手によってそれは阻まれてしまう。
「それは私たちじゃなくて、ここにいない一番の功労者に言ってちょうだい」
「ああ、もうそろそろ起きるだろう。行ってあげてくれ」
「そうだよ、倒れちゃうくらい頑張ったんだから、マリーがおはようを言ってあげないとご褒美にならないよ」
「ご褒美にはならないと思うけど」
「「「 なる! 」」」
そんな声を揃えて言わなくても。裁判が終わった直後、ノアは今までの疲労と安堵から倒れてしまった。今は、アーノルドが用意した部屋で休ませている。
「お礼なら後でいくらでも聞いてあげるから、今はお兄様のところに行ってあげて」
「ですが」
「ね」
「…はい」
イザベルに背中を押され、部屋から追い出されてしまう。仮にも罪人として捕まっていた身なのだが、一人で出歩かせて良いのだろうか。そう思いながら、城の中を歩く。
『貴女は寿命が尽きるまで、修道女として働いてもらいます。無闇に死ぬことは許しません』
マリベルの下した判決に、モニカはポカンと間抜けな顔で聞いていた。
『貴女の言っていることは理解できませんが、死なないと帰れないんですよね。なら、死なないことが貴女への罰です。精霊信仰の大きい国に行ってもらいましょう。あそこは常に監視の目がありますから、下手に死ぬこともできません。あそこなら貴女のような方でも喜んで引き受けてくださいます。過ちを悔いり、一生精霊王に尽くしてください。』
『……ちょっと待ってよ』
モニカが低く唸るような声を出す。
『それじゃあ意味がないのよ。王子の婚約者に手を出した人は死刑でしょ。それ以外の選択肢なんて出てこないの。アタシはゲームオーバーになったの、バッドエンドのキャラは死ぬ以外ないのよ』
『それは貴女のいうゲームの話です。でもここは現実です。貴女がゲームだと思い続けるのは勝手ですが、選択肢なんて無限にあるんですよ』
『屁理屈言うんじゃないわよ! 雑魚キャラがアタシに指図すんな!』
モニカの腕がマリベルの襟を掴もうとする。しかし、その腕をノアが掴む。
『早く彼女を連れて行ってくれ』
警備兵が彼女を押さえる。
『放せよモブキャラが!』
モニカが彼らによって連れていかれる。
『放してって言っているでしょ! ウザイんだよ! 死ね! 皆死ね! 消えろよ! データごと全部消えろ! アタシを元の世界に帰してよ!』
その間も彼女は抵抗し続けていた。
マリベルは最後まで彼女のことを理解できなかった。自分と同じように過去に戻ってきた者かと思っていたがそれも違うようだ。では何かと問われても分からない。マリベルは、人を憎む気持ちが分からない。それは彼女のようにこの世界がゲームの世界で、マリベルはそのように作られたからなのかもしれない。でもマリベル達は、たしかにこの世界で生きている。誰かを好きになり、嫌いになり、争い、喜びを分かち合い、悼み合う。
「……ありがとう」
ベッドで眠る彼の手を握る。こんなになるまで、マリベルのために動いてくれたこの人を愛おしく思う。それは、イザベルに抱いていた物とは違う。これは――。
「……ん…」
ノアの目が開かれていく。
(ああ、困ったな)
とびっきりの笑顔で迎えようと思ったのに。彼の顔を見ていたら、視界が滲んできた。
「おはようございます、ノア様」
泣き笑いを浮かべる。彼は彼女を愛おし気に見つめる。
「おはよう、マリー」
幸福とはこの事を言うのかもしれない。




