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(行かなくていいかなと思っている)



 と言ったら怒られるので、心の中に留めておく。今日は、10年に一度の聖女を選ぶ式典が行われる。



「は~、緊張しちゃう。上手くいくかな~」

「そんなに身構えなくても大丈夫よ。陛下の前に出て王冠を被せてもらうだけだもの。ちょっと我慢すればすぐに終わるわ」

「そうだよね! だって選ばれるのはイザベルさんみたいな人だもん」

「それは飛躍しすぎよ」



(いや、選ばれるのはアンタよ)



 断じてイザベルではない。精霊まで見えるのに、自分が選ばれるとはまるで思っていないようだ。たしかに式典に参加する者のほとんどが、イザベルが選ばれると思っているが、それはないとマリベルは知っている。そして、自分が選ばれることもありえない。もう過去に一度見ているのだから、やはり家に帰りたいと思ってしまう。ぶっちゃけると果てしなく面倒くさいのだ。


 式典はかなり時間が掛かる。国中の15歳から20歳の少女が集められるので、1日では終わらない。

聖女は、初代聖女が被っていたとされる王冠が選ぶ。それは精霊王が直々に聖女に贈ったとされる物で、王冠には精霊の力が宿っていると言われている。その王冠は現在、全体的にくすんでいる。先代聖女の任が終わったからだ。しかし、ひとたび聖女の手に渡った時、それは輝きを取り戻し真の姿を露わにする。王冠に選ばれた者は聖女として、次の10年まで役目を全うすることになる。すなわち、精霊王に祈りを捧げる任を担うのだ。


 そして、今日は式典1日目。貴族の子女達だけで行われる。その次に、城下町の人々が日ごとに集められる。長くて5日は掛かるが、今年は今日で終わる。式典は城の儀式の間で行われる。


 マリベル達は、儀式の間に集う。ほかにも多くの令嬢がいた。御前には、陛下と王后、アーノルド、イザベルの父など多くの大貴族や重鎮がいた。アーノルドは、こちらに気付いて小さく笑みを浮かべる。たくさん令嬢がいるのに、よくもまあ見つけられたものだ。愛の為せる業か。それにイザベルが小さく手を振った。



「これより、聖女選別の儀式を始める。名を呼ばれた者は前へ」



 陛下が厳かに告げる。名を呼ばれた令嬢が、前に行く。そして、陛下直々に王冠を被せられる。だが、何の反応もなく王冠はくすんだまま。



「精霊の祝福を」



 王冠がどかされる。陛下が令嬢の肩に手を置き、駄目であったことを遠回しに告げる。令嬢は、意気消沈した様子で壇上から降りていく。これが何人も続いた。



「イザベル・ディレイン」



 そして、儀式も中盤。イザベルの名が呼ばれる。彼女が前に行く。王冠が置かれた。皆が息を呑んで見守る。



「―――」



 王冠は、少しだけ光ったが、すぐに収束してしまう。



「精霊の祝福を」



 イザベルが降りてくる。



「やっぱり私じゃなかったわね」



 戻ってきたイザベルは、落ち込む様子もなくあっけらかんとしていた。だが、会場にいる者達はそうではない。ざわめきが聞こえる。誰もが彼女で確定だと思っていたのだ。



「静粛に」



 イザベルの父が場を治める。再び静寂が訪れ、儀式が再開された。そして。



「マリベル・ノット」



 マリベルの名が呼ばれる。さっさと済ませようと、壇上に上がる。頭の上に王冠が載せられた。何の変化もない。



「精霊の祝福を」



 壇上から降りる際、アーノルドと目が合う。彼はいささか落胆した顔をしていた。



(まさか私が選ばれると思っていたわけじゃないわよね)



 イザベル達の元に戻る。



「当てが外れたわ」



 イザベルにも落胆した様子で出迎えられた。なぜだ。



「貴女が選ばれると思っていたのに」

「ご冗談を」

「殿下とも話していたのよ。貴女だったら安心ねって」



 ちょっと待ってほしい。どうしてそうなったのだ。そんなことは天地がひっくり返ってもありえない。



「私もイザベルさんが駄目ならマリーだと思ってました」



(だから選ばれるのはアンタなんだってば!)



 選ばれる本人も同調しないでほしい。マリベルは「あははははー」と空笑いするしかなかった。



「レイラ・ナンシー」



 とうとうレイラの名前が呼ばれた。どうせ陛下も分かっているなら、彼女の名前を最初に呼べばいいのに。彼女の頭に王冠が置かれた。


 すると、急に眩い光が会場を包む。思わず目を瞑ってしまう。



『あはは』

『ふふふ』

『わーい』



 耳に子供のはしゃぐ声が聞こえる。光が落ち着いてきた。目を開ける。心が洗われるようだった。


 会場が緑に包まれていた。色とりどりの小さな光が浮いている。耳にはずっと子供の笑い声。言葉が出なかった。光は徐々に収束し、緑も消えていく。声も聞こえなくなった。静寂が包む。


「おめでとう、君が次の聖女だ」


 陛下が彼女の肩に手を乗せる。会場は、今までにない歓声に包まれた。レイラの頭には、今までにないほど神々しい光を放つ王冠が乗っていた。









「良いのかなー、私が聖女で、やっぱり何かの間違いじゃないかなー」

「もう、まだ言ってるの。いい加減、認めなさい」



 式典が終わり、城の一室でマリベル達は一向に認めたがらないレイラを説得していた。



「だって、絶対私よりマリーやイザベルさんの方が相応しいですよ。私なんてついこの間まで、ほら、あんなだったし」



 前半はともかく後半の発言は、マリベルも同意だ。たしかに、出会った当初のレイラはちょっと聖女っぽくなかった。だが、王冠が選んだのだから、こちらがどうこう言える問題でもない。



「精霊はほかの誰でもない貴女を選んだの。それに、今まであんな風に会場にいる人が精霊の声を聞くことなんてなかったのよ。こんなことルーレア王国の歴史にも載っていないわ」

「父上も言っていただろ。君は聖女の生まれ変わりなんだ。選ばれるのは必然だったんだよ」



 イザベルとアーノルドに言われ、レイラは「うー」と唸る。



(そういえば前は、これがきっかけでレイラのこと陥れようとしたな)



 思い返すと懐かしい。聖女に選ばれた者は、宮殿へ住むことになる。ただでさえアーノルドとの距離が近くなっているのに、住まいも近くなれば彼が取られてしまう。そう思ったイザベルに、マリベルはレイラをなんとかして宮殿に住めないようしろと命令されたのだ。


 しかし、すべて失敗し、結局二人とも処刑されてしまった。それがどうだ。レイラは聖女なんて何かの間違いだと訴え、それを二人が説得している。なんというか、面白いことになったものだ。



「とにかく、決まったものは仕方ないわ。私もできるだけこちらに来るようにするから、礼儀作法も練習しましょう。きっちりしごいていくからね」

「ああ、しばらくここで生活することになるんだ。城でのルールも覚えてもらわないと」

「マリー、貴女も手伝ってね」

「はい」

「マリー、助けてー」



 レイラが両手を伸ばして抱き着いてくる。マリベルは、彼女の頭をよしよしと撫でながら、こんな関係も悪くないなと思った。



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