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 運命の年がやってきた。今年、マリベルは処刑される。そのせいか、その時の夢をよく見る。おかげで寝不足の日々が続いていた。



「マリー、隈が酷いわ。ちゃんと寝ているの?」



 イザベルが心配そうに聞いてくる。マリベルは安心させるように笑みを浮かべる。だが、隈のせいで余計に痛々しく見えた。



「すみません。ちょっと、夢見が悪くて」

「よく眠れる茶葉を用意しておくわ。今日はそれを飲んで寝なさい」

「いえ、そんな大したことでは」

「いいから、家まで馬車で送ってあげるから、今日は早く帰って休みなさい」

「はい」



 有無をいわさぬ口調で言われてしまった。マリベルは大人しく頷いた。そこへちょうどレイラが通りかかる。目が合う。気付いたイザベルが声を掛けようとしたが、その前に彼女は逃げるように去っていった。



「どうしたのかしら?」

「さあ」

「私だけじゃなくて、殿下のことも避けているみたいなのよ」

「私もです。話しかけるとああやって逃げられちゃって」

「マリー、貴女何か聞いてる?」

「残念ながら、何も」



 2年に進級したといっても、それほど変わり映えはしない。クラスも変わらない。ただ、授業内容が増えたことくらいだ。だが、2年に進級したことで一つ大きな変化があった。



 レイラが急に大人しくなったのだ。



 さらに、マリベル達を避けるようになった。前はあんなにぐいぐいアーノルドに迫っていたのに、それもない。

 マリベル達が何度か注意したからなのかとも思ったが、あの様子は明らかに違う。彼女と目が会うたびに、こういわれているように思うのだ。



 これは違う。



 まるでマリベル達の存在を否定されているような、そんな瞳を。


 マリベルとしては、接触してこないならそれでいいのだ。ただ、彼女が何かもの言いたげにこちらを見てくるのが気になる。何か訴えているような、それでいて助けてほしいといっているようにも見える。それで助けるのかと聞かれると、正直そんな義理はない。だが、少なからずマリベルも彼女のことを一人の友人として好ましく思っている。

 と思い、何度か声を掛けようとしたのだが失敗していた。



(どうしたものかしら?)



「彼女の方から言ってくるのを待つしかないわね」

「そうですね」



 イザベルも心配そうに、レイラが去った行ったほうを見つめている。いろいろと困ったところはあるが、彼女はレイラを妹のように可愛がっていた。本人は認めたがらないだろうが。



「帰りましょうか」

「そうね」



 いつか、話してくれるまで。

 2人は馬車に乗り込んだ。







(て、思ってたけどさー)



「マリー、週末貴女のお家に行ってもいい?」



 意外と早くその機会は訪れた。1人になったところに、レイラが現れる。



「話したいことがあるの」

 


 緊張した面持ちで言われる。



「良いけど、ここじゃダメなの?」

「二人で話しがしたいの、お願い」



 断らないで欲しいと目で訴えられる。マリベルがその目に弱いと知ってやっているのだろうか。



「わかった。お父様たちにも言っておくから、いつでも来て」



 そう言うと、彼女は安堵したように笑った。



「ありがとう!」



 それにマリベルも笑顔で返す。



(何で私なんだろ)



 マリベルは、なぜ彼女が自分に声を掛けたのかわからなかった。自分にできることなどたかが知れている。イザベルの方ができることが多いのに。



(よくわかんないなー)



 鈍感なマリベルは、どこまでも鈍感だった。









「ここがマリーのお家かぁ、良いところだね」

「そう? 貴女の家に比べたらお粗末だと思うけど」

「ううん、家もこんな感じだよ。ふふ、豪華なお家よりこういう家の方が落ち着く」

「それは良かった。あんまり物はないけど、ゆっくりしていって」



 約束通り家に訪れたレイラは、家の中を興味津々に見渡す。あまり人様の家をウロウロするのはいけないのだが、自分の家なので特に注意はしないでおいた。一通り家の中を見て回り、自分の部屋に案内する。



「ごめんね、何もなくて」

「そんなことないよ! なんかマリーらしくて、私好きだな」



 マリベルの部屋にはあまり物がない。お金がないというのもあるが、そもそも物欲という物がマリベルにはなかった。だからこの部屋にあるのは、イザベルからプレゼントされた物や、本、ちょっとしたアクセサリーくらいだった。


 レイラをソファに座るよう促す。部屋に来る前に持ってきた紅茶を、彼女の前に置く。ついでに手作りのクッキーも置いといた。



「あ、美味しい」



 レイラが出されたお菓子に舌鼓を打つ。



「いっぱいあるから、好きなだけ食べて」

「わーい、いただきます」



 本当に美味しそうに食べる彼女に、こっちも嬉しくなる。一通り食べ終わると、さっそく本題に入ることにした。



「それで、どうしたの? 急に私たちを避けだしたのと関係あるんでしょ」



 話を切り出した途端、レイラは先ほどまでの元気をなくし俯く。しばらく沈黙が続いた。意を決したレイラが、顔を上げる。



「私、ずっと黙っていたことがあるんです」



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