表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/187

098


 キャサリの町の拡張が済んでしばらく経ち、魔王と勇者は畑の見える場所でピクニックシートを広げ、日向ぼっこを楽しんでいた。


「いい天気ですね~。風が気持ちいいです~」

「そ、そうだな」

「なんでそんなに端に座るのですか~」


 相変わらずのヘタレ勇者では、魔王が近くに居ては緊張するのだろう。


「まったく……デートに行くなら声を掛けてよね~」

「テレージアさん?」


 このようなシチュエーションを見逃す妖精女王ではないようだが、デートに行くなら声を掛けるわけがないだろう。


「サシャとデート……ぐふふ」

「はいはい。そういうのは、もっと近付いてからやってくれる?」


 気持ち悪い笑顔を見せる勇者を、冷ややかな目で見るテレージア。勇者がデートのつもりなのがビックリだ。

 テレージアのお陰で少し緊張のほぐれた勇者は、ようやく世間話が出来るようになった。


「それにしても、凄い早さで畑が出来たものだな」

「魔族の得意分野ですからね。早くトマトが実って欲しいです~」

「そういえば、トマトが名産って言っていたか。でも、人族に援助するなら、穀物をいっぱい育てた方がいいんじゃないか?」

「穀物も育てていますよ。他の町も畑を広げて育ててもらっているので、次の収穫は、例年の五倍以上になるはずです」

「そんなに!?」


 さすが農業特化の魔族と言えようが、もう少し戦闘にも力を入れていれば、このような事態を避けられたかもしれない。


「こないだ食糧を取りに行った時も驚いたけど、本当に魔族は農業に関しては凄いんだな」

「それを言ったらお兄ちゃんもですよ。魔界での一年の消費量を、全てアイテムボックスに入れてたじゃないですか。しかも、各町に配って夜には帰って来れるなんて信じられません」

「まぁ走る勇者と呼ばれていたからな」


 前回、食糧を取りに行った時には、キャサリの町から湖を水竜で移動し、魔都からパンパリー、ミニンギー、ウーメラ、再びキャサリの町まで走破した勇者。

 勇者が走った移動距離だけで言えば、徒歩20日を10時間余りで走り切ったのだから、走る勇者だけで説明をするな! ……と、魔王とテレージアは思っているぞ。


「それにしても平和ですね~」

「魔王……戦争中よ!」


 あまりにも暢気(のんき)な魔王に、テレージアはツッコム。


「あ、そうでした」

「まったく……忘れてるんじゃないわよ」

「だって、キャサリの町に着いてから、一ヶ月以上経ちますよ? 半月ぐらいで人族の人達が来るって言ってたじゃないですか~」

「たしかにそうだけど、大勢連れて来るなら遅れるかもしれないじゃない」

「もう諦めてくれたらいいんですけどね~」


 人族軍がなかなか来ないので、魔王から緊張感が無くなり、昔の、のほほんとした感じに戻ってしまった。その姿も、勇者はかわいいと言って気持ち悪い顔で見ていた。


「ちょっとダラけ過ぎじゃない? ちゃんと魔法の訓練はしてる?」

「今日だけですよ。いちおうは教えてもらった攻撃魔法は覚えましたし、なんなら褒められちゃいました」

「あ~。俺も見ていたけど、褒められたと言うより、驚いてなかったか?」

「そうでしたっけ?」


 魔王は人族の魔法使いから、複数の攻撃魔法を教えてもらって使えるようになったが、魔王の有り余る魔力のせいで、全ての魔法は十倍の大きさになっていた。

 野球ボール大の【ファイヤーボール】が、十倍になったのだから、もう【ファイヤーボール】と言えない。教えていた魔法使いも、顔を青くしていたほどだ。


「そういえば、テレージアさんも攻撃魔法を習っているのですよね? 全然見掛けませんが、いつも誰に教わっているのですか?」

「あ、あいつよ。あいつ……三角帽を被った……」


 うん。目が泳いでいるところを見ると、サボッているな。テレージアは初日に風魔法を習って以降、まったく参加していない。なんでも凄い威力だったから、最強なんだとか。


「魔族もエルフの皆さんも、一所懸命習っているのですから、テレージアさんもちゃんとしてくださいよ~」

「やってるって言ってるでしょ! 勇者。ケーキを出しなさい!!」


 苦しい話の逸らし方だな。そんな事で魔王の追及はかわせないぞ?


「ケーキ!? あのふわふわな触感……お兄ちゃん! 私も食べたいです!!」


 あ、追及しないんだ……


「サシャは食いしん坊さんだな~。しょうがないな~」


 デレデレしながらアイテムボックスからショートケーキを振る舞う勇者。食いしん坊なのは、テレージアだと思うのだが……


「やっぱり美味しくて幸せです~」

「ホント。勇者を召喚して正解だったわね」

「はい!」


 いやいや。勇者を召喚したのは窮地(きゅうち)を救ってもらう為で、美味しい物を運んでもらう為ではないはずだ。そして、勇者は魔王の顔を見てないでツッコんで!


「でも、アイテムボックスの中の物が無くなったら終わりなんですね……」

「まだまだいろんな種類がいっぱいあったじゃない?」


 テレージアはアイテムボックスの中身が気になっていたので、魔王を(そそのか)して全てチェックはしている。全て妹の為に用意した物なのに、自分の物だと勘違いしている節は否めない。


「それでも補給が出来ないのですから、いつかは尽きますよ」

「たしかに……それじゃあ、今度は人族のパティシエでもスカウトに行っちゃう?」

「それ、いいですね! 魔界産の果物を使えば、もっと美味しくなるはずです!!」


 スイーツの話で盛り上がっているけど、それでいいのか? 現在魔族は人族との戦争中だったはずなのだが……テレージアもクリームをほっぺに付けてないでツッコんで!



 カンカンカンカンカン……



「この音は……」


 三人はまったく戦争とは関係無い話で盛り上がり、穏やかな一日を満喫していると、突如、キャサリの町に鐘の音が響き渡るのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ