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 首なしキングボアに乗ったサシャが地に降り立つと、恐怖に顔を青くする民衆と、恐怖に剣を持って対抗しようとする衛兵に囲まれた。

 サシャはかわいく小首を傾げてみるが、それが逆に衛兵の心を逆撫でしたようだ。


「き、貴様! これはなんなんだ!!」

「キングボアだしぃ。てか、この世界の男は、どうしてこんなにうるさいんだしぃ」

「貴様~~~!!」


 衛兵はサシャの言葉に、手に掛けていた剣を抜かんとする。サシャもご機嫌斜めだったため、刀の柄に手を掛ける。


「待て! 待て待て~~~!!」


 だが、慌てて降りて来たヨハンネスが二人の間に立ち、制止を求める。


「剣を収めよ!」

「あなた様は伯爵家の……」

「そうだ! ヨハンネスだ。こちらは異世界から来た、美少女勇者サシャだ。サシャに剣を向けると言う事は、王族に剣を向ける事と同義だぞ!!」

「は、はっ!!」


 ヨハンネスの剣幕に衛兵は剣を鞘に収め、サシャは美少女と紹介されて嬉しいのか、照れて頭を掻く。


「サシャも常識的な行動をしてくれ。こんな物が空から降って来たら、皆、驚くだろう」

「人のせいにすんなしぃ。あんたが何処に降りたらいいか聞いても答えてくれなかったのが悪いしぃ」

「考えるから待てと言っただろ!」


 うん。ヨハンネスは確かにそう言った。だが、サシャは「どこでもいいっしょ~」と言いながら急降下したから、ヨハンネスは考える事も出来ずに、しがみつくしか出来なかったのだ。


「また、うるさくするしぃ。てか、この世界に、狩りや依頼をこなすギルドってあんの?」

「……いちおう、ハンターギルドはある」

「じゃあ、解体を手伝ってもらいたいから、呼んでくれしぃ。あと、素材も塩や調味料に変えたいから、商業ギルドとかも呼んでしぃ!」


 ヨハンネスはサシャのお願いを渋々聞いて、衛兵を走らせる。応援が来る間は暇なので、サシャは解体しやすいようにキングボアの脚を切り落とし、よっつの大きな塊に切り分ける。

 瞬く間にキングボアが切られると、民衆から拍手が起こる。その民衆に、サシャはこれから無料で焼き肉を振る舞うから、宣伝して来てくれと頼む。

 民衆はさらに喜びながら騒ぎ、その声は帝都中に響き渡り、サシャの元へ次々と人が集まる。

 ハンターギルドや商業ギルドの者が到着すると、解体と貴重部位の買い取りをお願いする。その時、ヨハンネスの伯爵家の権威を使い、適性価格での試算をさせ、香辛料の買い取りと余ったお金で日持ちするパンを購入する。



 そうしていると解体も終わり、辺りから肉の焼ける香ばしい匂いがして来た。


「食え! 騒げ! ウチのおごりだしぃ~~~!!」

「「「「「わああああ~~~!!」」」」」


 酒は無いが、そこかしこで焼かれる肉を食べる民衆は騒ぎ、帝都を巻き込む大宴会となった。

 サシャも皆と同じ肉を頬張り、笑いながら騒いでいると、ヨハンネスの民衆を見る目が気になったのか、肩を組んで話し掛ける。


「食ってっか?」

「あ、ああ……」

「どったの?」

「なんと言うか……民からこれほど活気が(あふ)れている姿を初めて見てな」

「嬉しい? 嬉しいっしょ~?」

「そうだな。民の笑顔はいいものだ」

「あんたも、ちょっとはマシな顔になってるしぃ」

「マシな顔?」

「ずっと眉間にシワを寄せてたしぃ」


 サシャはヨハンネスの顔をマネしてからかう。


「それはサシャが我が儘ばかり言うからだ!」

「あはは。そうだったしぃ」

「我が儘を言っている自覚はあったんだな……」

「当たり前だしぃ。あ、でも、馬車の揺れは耐えれなかったしぃ」

「アレが一番の我が儘だ!」

「あははは」

「プッ……あははは」


 笑って誤魔化すサシャに、ヨハンネスも釣られて笑ってしまう。その笑い声は民衆の笑いと合わさり、大きな声となる。


 だが、笑い声の絶えない空間の一角から声が消え、緊張が走る。王族である長兄の登場だ。


 民衆は長兄の乗る馬車の邪魔にならないように道を開けて口を塞ぐ。その行為に釣られて辺りからも声が消え、さっきまでの騒ぎが嘘のように静寂が包み込むのであった。


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