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092


 帝都の案内をしてもらっていたサシャであったが、馬車の外から聞こえた悲鳴に反応し、長兄に呼び掛ける。


「止めて!」

「護衛が速やかに対処するから気にする事はない」

「もういいしぃ!」

「サシャ!?」


 サシャは長兄の制止を聞かず、馬車の扉を蹴破って外に飛び出す。すると、ボロボロの服を着た母と女の子をいたぶっている護衛の姿があった。

 それを見たサシャは一瞬で移動して、剣を振り上げる護衛に飛び蹴りをお見舞いする。

 護衛はいきなりぶっ飛び、何が起きたかわからないまま大の字に倒れる。何が起きたかわからない者は、その場にいた全員。普段ならば、助ける者などいないのだから、皆、呆気にとられている。


「もう大丈夫だしぃ」


 呆気にとられる親子に、ニッコリ笑って手を差し伸べるサシャ。だが、親子はどうしていいかわからず、目をパチクリさせる。

 サシャは手を取ってくれないので、女の子の前にしゃがみこんで微笑む。


「何があったの?」

「えっと……」


 女の子はサシャの顔と母親の顔を交互に見て困っている。すると、母親が申し訳なさそうに声を出す。


「も、申し訳ありません。王族様の馬車をこの子が横切ってしまい、本当に申し訳ありませんでした!」

「そんなことで!?」


 サシャは驚きと怒りを覚えるが、女の子の手前、笑顔を崩さずに優しい言葉を掛ける。


「怖い人にはウチが言っておくから、もう大丈夫。これ、あげるしぃ」


 サシャは手の平に乗るだけのアメを収納魔法から取り出し、女の子の前に持っていく。


「甘くておいしいよ」

「……いいの?」

「うん」

「ひめきしさま。ありがと~う」

「姫騎士様?」

「ちがうの~?」

「ウチは勇者……。美少女勇者サシャだしぃ!」


 サシャは立ち上がると、ピースサインをして決めポーズ。周りからも拍手が起こ……らず、恥ずかしくなったサシャは、手を振って馬車に戻って行った。



 長兄とヨハンネスは馬車から出てサシャを見ていたので、二人の前までずかずかと進むと、先ほどまでの笑顔とは打って変わり、怒りの表情を見せる。


「どういう事だしぃ!!」

「何があったのだ?」


 サシャの怒りの声に、長兄は涼しい顔で応える。


「親子が護衛に殺されそうになってたしぃ!!」


 長兄は事の顛末(てんまつ)は見ていなかったが、妹の姫騎士が似たような事をした経験があったので、瞬時にサシャの求める答えを導き出して謝罪する。


「どうやら、護衛が私の望まぬ行為を過剰にしたようだ。以後、同じような事が起きないように、全ての騎士に言って聞かせよう」

「いつもの事じゃないの?」

「正直、下級街で馬車から降りる事が少ないから、わからないのだ」


 長兄の言い訳は、嘘ではない。だが、おおよそは承知している。サシャも長兄の言葉は嘘ではないが、本当の事を言っていないと受け止める。


「つぎ、同じ事をしている人がいたら、ウチは容赦なく斬り捨てる。それでいい?」

「ああ。それでかまわない」

「……気分が悪くなったから帰るしぃ。椅子!!」

「はい……」


 サシャが命令すると、ヨハンネスは長兄が頷くのを見て馬車に乗り込む。サシャはヨハンネスに座り、長兄も馬車に乗り込み発車。無言のまま城に帰宅すると、食堂に用意された昼食を食べる。


「ウチの報酬は、お金でいいや……」


 食事を食べ終えたサシャは、ポツリと呟く。


「……わかった」

「と言う訳で、ヨハンネスはお払い箱。もういいしぃ」

「………」


 長兄は了承するが、ヨハンネスはギリギリと歯を噛み締め、サシャを黙って睨む。


「いや。報酬からは外すが、私の代理としてそばに付ける」

「お目付け役ってこと?」

「見ず知らずの男より、多少は話した事がある男のほうがいいだろう?」

「それなら姫騎士って子にしてよ。姫ってくらいなら女の子っしょ?」

「クリスティアーネか……」


 サシャの要望に、表情を崩す事の少ない長兄は、珍しく顔を曇らせる。


「どうしたしぃ?」

「妹は魔界に侵攻した際に、ヴァンパイアに殺されたと、命からがら帰って来た兵に聞いたのだ」

「あ……それは悪い事を聞いたしぃ」

「いや。妹の事だ。何処かで生きていると信じている」

「心配してるんだ……じゃあ、急いで助けに行くしぃ!」

「ああ。もう数日すれば兵も用意できるから、それまでゆっくりしてくれ」


 長兄は仕事があると言って食堂をあとにし、サシャもやる事がないので自室に戻る。しかし、ヨハンネスがついて来て、部屋まで入って来た。


「あんた……せめて入っていいかぐらい聞けないの?」

「殿下の命令だからな。目を離すわけにもいかない」

「それじゃあ、お風呂にもついて来るんだ~? 一緒に入る~?」


 サシャはヨハンネスのそばに寄り、誘惑する。美人のサシャに言い寄られたヨハンネスは、顔を赤くする。なかなかチョロイ男だ。


「誰がお前なんかと! 殿下の命令じゃなかったら、顔も見たくない!!」


 あ、怒っていたみたいだ。散々屈辱を味わわされたのだから、致し方ない。


「キャハハ。照れてるしぃ。かわいいとこあんじゃん」

「照れてなどいない!!」

「ま、冗談だしぃ。ちなみに(のぞ)こうなんてしたら、殺すしぃ」

「誰が……!?」


 ヨハンネスは反論しようとしたが、驚いて言葉が止まる。サシャがいつ抜いたのか、首筋に刀の刃を当てたからだ。さらに、さっきまでとは打って変わった殺気のこもった目に、ヨハンネスは恐怖に固まる。


「これも冗談。でも、気を付けるしぃ」

「………」


 サシャは刀を鞘に納めてニシシと笑うが、ヨハンネスは蛇に睨まれたカエル。息をするのがやっとで、返事は出来ないのであった。


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