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勇者を異世界召喚した皇帝達は、サシャが魔族と戦うと宣言した事によって、一段落着くと、今後の話に移る。
「あ~。ちょい待ち! 合コンの最中に呼び出されたから、飲み足りないんだしぃ。詳しい話は酒の席で聞くわ~」
いや。サシャの我が儘で、皇族専用の食堂で話を再開する事となった。その席でもサシャは我が儘の言い放題。酒が足りないだとか、ツマミが不味いだとか言って、宰相のこめかみに怒りマークが出来ていた。
皇帝は早々に退室して行ったが、サシャは長兄の説明には相槌を打っていたので、ちゃんと聞いているようだ。
「ふ~ん。町を焼かれたんだ~。でも、ひとつだけでよかったね。ウチの世界では、残された国なんて少なかったしぃ」
「勇者殿の世界は過酷だったのだな……」
「その呼び方やめてくれる? サシャって呼んでよ」
「そうか。では、私も愛称で呼んでくれてかまわない。ライナーと呼んでくれ」
「ライナーね、オッケー! ライナーも飲むしぃ」
サシャは酒瓶を持つと長兄のグラスに手酌でドボドボと注ぐ。そんな無作法な注ぎ方をされた事のない長兄は、渋々だが一気に飲み干す。
「お! いいね~。やっぱ男は酒を飲まなきゃね~」
「サシャは強いのだな」
「まぁね。なのに最近の男と来たら全然付き合ってくれないんだしぃ。ウチと飲み比べをしても、立っていられたのは……やめとこ」
「どうかしたか?」
「嫌な奴の顔を思い出しちゃったしぃ」
「嫌な奴?」
「なんでもないしぃ。それより、報酬を聞き忘れていたしぃ。魔王を討ち取ったら、何をくれるの?」
話を逸らすサシャに長兄は不思議に思ったが、報酬の話が出ると、少し考えてから口に出す。
「一生遊んで暮らせる金貨を支払おうか?」
「お金ね~……そういえば、ウチって元の世界に帰れるの?」
「現在、魔法陣に魔力を貯めているから、五年後には帰れるはずだ」
「すぐに帰れないんだ!?」
「すまないな。なにぶん異世界から召喚する魔法だから時間が掛かるんだ。それに十年以内に帰るか決断しないと、異世界との繋がりが消えてしまう」
「最低でも十年以内に魔王を倒せばいいってことね。楽勝だしぃ!」
「簡単に言うのだな」
「ウチは最強最高の美少女勇者サシャだかんね!!」
サシャはテーブルに足を掛けて叫ぶが、長兄はその称号が凄いのかわからず、どうしていいかわからなくなっているぞ? そして、恥ずかしくなって椅子に座り直すなら、やらなきゃいいのに……
「ゴホンッ。報酬の話だったしぃ。前は三年で倒したし、時間が余るしぃ……じゃあ、報酬はイケメンを揃えて!!」
「そのさっきから言っているイケメンとはなんだ?」
「いい男の事だしぃ。美男子をヨロ~」
「いいのだが、この世界に残るつもりなのか?」
「あっちの世界ではなかなか見付からなかったから、こっちで見付けたら残るかも?」
「そうか……」
「ライナーでもいいしぃ?」
サシャは誘惑するように下から見つめるが、長兄は酔っぱらいのテンションについていけないようだ。
「すでに妃なら娶っているのだが、サシャが求めるなら考えよう」
「ノー!! やっぱいらない! 他の女に唾付けられている男なんて、ノーサンキューだしぃ!!」
「そ、そうか……」
こうしてサシャの我が儘を聞きながら、食事会は終了とな……
「もっと飲めしぃ!」
「も、もう……ダメだ……」
いや、長兄が倒れたので終了となった。
食事会が強制的にお開きとなると、サシャは侍女の案内で用意されていた豪華な部屋に入る。それから侍女が出て行くとサシャはバルコニーに出て、夜空を見上げる。
(急にこんな所に連れて来られたけど、兄貴もこんな感じで消えたのかな?)
どうやらサシャは、双子勇者の顔を夜空に思い浮かべているらしい。
(キモッ! あんな奴の顔なんて思い出してしまったしぃ)
いや、思い浮かべて自爆したっぽい。
(ま、ここに滞在すれば、兄貴が元の世界に戻ったとしても、ウチとは一生会う事が出来ないから、ここに残るのもアリっちゃアリだしぃ)
双子勇者の片割れは、かなり嫌われているようだ。
(それにまた冒険が出来る! 男もろくな奴が居なかったし、ホント暇だったしぃ。さ、景気付けにもう一本空けるしぃ!!)
こうして異世界に召喚された双子勇者の妹は、一日目を終えるのであった。いや、酒瓶を十本空けてから、一日を終えるのであった。