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008


 勇者にドロップキックをお見舞いしたフリーデは魔王に抱きつき、「ピヨピヨ」と威嚇する。


「フリーデちゃんは、昨日、召喚の時に寝ていたからわからないのね。でも、勇者様を召喚するって言ったでしょ?」

「……うん」

「それで出て来たのが、お兄ちゃんよ」

「お姉ちゃんは、わたしのなの~」


 フリーデは魔王を抱き締めて離れる気配がない。その様子を見ていた勇者は、疑問に思った事を口にする。


「その卵の殻を被った女の子は、サシャと似ていないけど、姉妹なのか?」

「いえ。前四天王の娘さんです。フリーデちゃんが私から離れないから、お父さんと代わってもらったのです」

「……四天王って、強い奴がやるんじゃないのか?」

「昔はそうでした。いまは役職の名前になっているのです。役職はフリーデちゃんに継いでもらって、お父さんは元の要職のまま残ってもらっています」

「ふ~ん」

「そういえば、お兄ちゃんはアルマちゃんに……大きな牛とぶつかった時には微動だにしなかったのに、フリーデちゃんには飛ばされていましたけど、大丈夫ですか?」

「ああ。蹴られそうになったから、足を上げたんだよ。さすがの俺も、浮いていては耐えられない。それよりも、そのちびっこの足は大丈夫か?」

「フリーデちゃん。痛いところはない?」

「うん! でも、アイツ嫌い!!」

「私のお兄ちゃんになったんだから、仲良くしなきゃダメよ?」

「うぅぅ」


 魔王はフリーデを宥めるが、フリーデは納得がいかないみたいだ。そうこうしていると、四天王の三人がリビングに入って来て、会議が始まる。





「それでは、まずは現状を勇者様に聞いていただきましょう」


 フリーデを膝に乗せた魔王は地図を広げると、魔族がおかれている苦難を語り始める。


 この地は楕円形(だえんけい)の島で、その外には海が広がっている。海には大きな魔獣と突発的に起こる渦潮が有り、外海に出るには難しいこと。

 その楕円形の島のちょうど中央には、島を真っ二つに分けるように大きな森があり、東を人族が暮らす人界。西を魔族が暮らす魔界となっている。


 その昔、人族と魔族は何度も血を流し、島の覇権を争っていたそうだ。だが、千年前の勇者と魔王との大戦で、勝利した勇者が和解に走り、人族と魔族との不可侵条約を結んで平和に至る。


 しかし三ヶ月前、人族は不可侵条約を破って攻め込んで来た。突然の出来事で魔族は対応もできず、町を捨てて逃げ出したとのこと。

 北側の森を抜けて現れた人族は、森と大きな湖を挟まれた土地を北から南に侵攻し、キャサリの町、ウーメラの町、ミニンギーの町と順に落とす。

 そして現在、パンパリーの町に大量に集まった魔族と膠着(こうちゃく)状態になっているとのこと。



 魔王から長い話を聞いた勇者は……


「お兄ちゃん……聞いていました?」

「むにゃ……ああ! 聞いてたよ」


 うとうとしていた。


「もう! ちゃんと聞いてください~」

「すまない……要は人族が約束を破って、困っているんだろ?」

「そうです。町の通信マジックアイテムに連絡を入れているのですが、全然掛け合ってくれませんし、町もみっつも取られてしまいました」

「魔族は戦わなかったのか?」

「お風呂で少し話をしましたけど、野菜中心の食生活に変わってから、魔族は姿も変わったと同時に穏やかな種族になったのです。さらに千年も平和が続いたから、戦う事を忘れてしまったのです」

「でも、サシャは魔王なんだから、魔法は使えるんだろ?」

「いまは生活魔法ぐらいですね。一部の者は、水を多く作ったり、土を多く耕す事ができますけど……」

「それって……」

「農業特化です!」


 魔王は胸を張って誇るが、現状では、とても誇れる事ではないと思う……


「俺も、攻撃で活躍できないんだが……」

「あ……」


 そう。魔王は大事な事を忘れていた。戦う事のできない魔族と、戦う事のできない勇者が手を組んだのだから、事態は好転の兆しが見えないのであった。

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