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 魔獣の出没が解決すると、勇者はブラッディーベアと切り倒された木をアイテムボックスに入れて、エルメンヒルデの元へ走る。そこで、意外な人物に遭遇した。


「あれ? テレージアが働いてる。どうしたんだ?」


 魔界の穀潰(ごくつぶ)し、テレージアだ。人族の魔法使いと共に詠唱していた。


「ちょっと休憩するわよ~」


 勇者を見掛けたテレージアは休憩を宣言して、パタパタと勇者に寄り、怒りの妖精チョップを入れる。


「あたしだって、やる時はやるのよ!」

「ああ。お疲れさん」


 ムキーとなってるテレージアは面倒だから、勇者は適当に労う。そこにエルメンヒルデが会話に入って来た。


「暇そうにしていたから手伝ってもらっていたのです。なのに、何度も逃げようとするのですよ」

「無理矢理働かせるからじゃない!」

「皆さん働いているじゃないですか。それに、テレージアさんの集合魔法のほうが、仕事がはかどりますからね」


 どうやら乾燥魔法をテレージアに教えれば、一人で済むとエルメンが楽をしたようだ。テレージアを働かせる苦労のほうが大きいと思うのだが……


「勇者~。疲れたよ~。おやつちょうだ~い」

「そういえば、勇者様を探していたのも、おやつの催促でしたね……」

「もう! 働いたんだから、報酬じゃない!」

「皆さん、働いています。それなのに、一人だけいい思いをするのは、違うと思います!」


 二人が口喧嘩を始めると、勇者はため息を吐きながら喧嘩を止める。


「まあまあ。テレージアも頑張ったんだから、おやつぐらい食べさせてやろう。他の人にも出したらいいだろ?」

「……仕方ないですね」

「テレージア。ほいっ!」

「わっ!」


 勇者はアイテムボックスから取り出したドーナツを、テレージアに向けて無造作に投げる。小さい妖精相手にそんな事をするものだから、テレージアは穴にはまり、拘束されて墜落する。

 勇者はすぐに、やってしまったと気付き、ドーナツに追い付いて墜落するテレージアを助ける。


「もう! 危ないじゃない!!」

「すまんすまん。どうもテレージアと話していると、人間と接してるように感じてしまうんだ」

「ひょっとして、あたしに惚れたの~?」

「そうかもな~」

「へ?」


 勇者は適当に答えただけなのに、テレージアは不意を付かれて顔を赤くする。


「どうしました? 顔が赤いですよ? フフフ」

「な、なんでもないわよ!」


 どうやら茶化すのは得意だけど、茶化されるのは慣れていないようだ。テレージアは恥ずかしさをまぎらわす為にドーナツをバクバク食べるが、自分より大きな物をペロッと完食しやがった。


「おかわり!」

「まだ食うのか……晩ごはん食べれなくなるぞ?」

「おかんか!!」


 テレージアのツッコミは的確だが、勇者の心配も聞いたほうがいいと思う。お腹パンパンだぞ。

 それでも要求して来るテレージアに面倒くさくなった勇者は、この場に居る人数に行き渡るようにドーナツを取り出す。そして、魔王に報告があると言って逃げ出した。


 今回は魔王の居場所を知っていたので真っ直ぐ向かい、建物に入って大声で呼び出す。


「お兄ちゃん。今度はどうしたのですか?」

「サシャに報告があってな」

「報告ですか?」


 勇者は魔王の指示を完璧にこなしたと、鼻高々に報告する。


「えっと……それだけですか?」


 当然、たいした報告でもないので、忙しい魔王は顔を曇らせる。勇者は褒められると思っていたので、慌てて付け足す。


「あ、あと、おやつも支給したらどうだ?」

「テレージアさんみたいな事を言うのですね……」


 魔王はさらに、顔を曇らせた。きっとテレージアは、魔王の前でも駄々をこねたのだろう。勇者もその事に気付いて弁明する。


「いや……甘い物を食べたら、やる気が出るんじゃないか? 効率が上がるはずだ!」

「それも、テレージアさんが言っていました……」


 よっぽど、テレージアの駄々はうるさかったのであろう。優しい魔王を怒らせるぐらいに……


 魔王にジト目で見られた勇者は、しゅんとしてその場を離れたが、夕食時には気分が晴れる。

 ブラッディーベアを夕食に出すと、魔王は出汁が取れると喜んだからだ。人族も、精進料理から離れられ、嬉しそうに頬張る。それを見ていた魔王は、人族との食の摩擦があるのかと、おやつも用意する方向で話を進めていた。

 テレージアはおやつが出るのは嬉しいのだが、今まで却下されていた事に腹を立てていた。ドーナツを二つ食べて、夕食まで完食し、腹は真ん丸だったが……



 そんなこんなで日にちは過ぎ、キャサリの町に、およそ五千人の魔族が到着する。ここから町の発展は、さらにスピードアップ。

 まず手を付けたのは壁の建設。町をぐるっと囲む壁を作り、町の拡張と防御に使う。それと同時に畑の手入れ。壁の中に畑を作り、籠城戦が起きた場合でも兵糧の確保にあてられる。

 この拡張案は、スベンとコリンナの合作。壁を建設すると聞いたコリンナが、どうせなら畑も入れたらと提案して了承された。どちらかと言うと、魔族は畑を守れる事が嬉しいようだ。

 だが、建設する壁は長距離となったので、かなりの時間を要する事となった。


 そして、家の建設も同時並行で行う。これは魔族の大工の主導のもと、人族兵も習いながら建てていく。ひとまず簡易的な家を建てるようだが、多く建てないといけないので、こちらも時間が掛かる。


 それから数日、キャサリの町の元住人、三千人が到着する。その住人も汗を流して壁建設から七日後。ついに壁が繋がった。



「ようやく完成しました~」

「ようやくって……こんなに早く終わるなんて信じられないぞ」


 勇者と魔王は町の外から壁を眺め、お互いの感想を述べる。


「人族の方がいつ攻めて来るかわからないので、急ぎましたからね。まだ手直しが必要な箇所があると、スベンさんが言っていましたよ」

「立派な壁に見えるんだけどな~」

「スベンさんは完璧主義者ですからね。さて、そろそろ行きましょうか」

「え? ……サシャに外に連れ出されたって事は……デート??」

「ち、違います! 食糧を取りに行かないと、各町に足りないのです」

「違うのか~~~」


 心底残念がる勇者。でも、魔王がデートしようと言ったら、ヘタレ勇者は緊張して喋る事も出来ないだろう。


「じゃあ……デートって事にしちゃいましょうか?」


 あ……魔王が上目使いで勇者を誘惑してる。それはやってはいけない!!


「ボンッ!!」


 ほら~。勇者が破裂した。その後、揺すられ、踏まれて起きた勇者は、その都度、破裂していた……


「魔王……あんた、勇者を殺すつもり?」

「テ、テレージアさん!?」


 当然、妖精は見ていたが、もう少し早く出て行ってあげたら、勇者がひどい目にあわなかったのに……

 その後、テレージアが勇者に水をかけろと命令し、魔王の水魔法によって目を覚ました勇者は、記憶喪失になっていた。

 そして、例の如く、背負子で背負われた魔王は湖に向かうように頼んで出発する。


「フフフ」

「どうした?」


 しばらく走ると魔王が笑うので、勇者は不思議に思って質問する。


「いえ。懐かしいと思いまして……魔都を出発した時も、このメンバーだったじゃないですか」

「あ~……あれから一ヶ月半ぐらいかな?」

「勇者もいい加減、魔王に慣れたらどうなの?」

「慣れてるじゃないか」

「じゃあ、おんぶしてくれるのですか?」

「え……それは……」

「ほらね。なんだか、あの時よりヘタレになってない?」


 テレージアの言い分はもっともだが、魔王が変わった事も原因のひとつだ。最近、押しが強くなっている。


「でも、お兄ちゃんは頼りになりますよ」

「まぁなんだかんだで、誰よりも先頭に立って戦ってくれているわね」

「いや、戦っているつもりはないんだが……」


 確かに勇者は戦っていない。敵将を肩車したり、壁に穴を開けたり……。走って人を跳ねる事はあったが、攻撃をして誰かを傷付ける事はしなかった。


「そんな事は無いです。やっぱり、お兄ちゃんは勇者様です! これからも、ずっと私の側に居てください!!」

「魔王!?」

「プ、プシュー……」

「あ……」

「あ~あ……」


 魔王のプロポーズっぽい言葉に、勇者は煙を吐いて、ロボットが燃料を切らしたように、ゆっくりと動きを止めるのであった。


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