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083


 ウーメラの町を取り返した魔王達は、会議が終了すると夕食を美味しくいただく。それから勇者は役場に設置されていたお風呂に入るが、よけいな者までついて来た。


「テレージア……何してるんだ?」

「な~んか面白そうな事が起きそうなのよね~」

「面白そうって?」

「魔王が入って来たり~?」


 ガタガタ


「いま、何か音がしたわね」

「そうか?」

「気のせいかしら……姫騎士が入って来たり~?」


 ガタガタ


「……コリンナが入って来たり~」


 ガタガタ


「そんなわけないだろ。でも、サシャが来てくれないかな~」

「う~ん。魔王とのやり取りは飽きたから、違う人がいいわね」

「いや、サシャで!!」

「だってあんた、魔王じゃ何もしないじゃない」

「そんなことはない!」

「じゃあ、魔王の胸を揉んだり出来るの?」

「プシュー!」

「早いわ!!」


 魔王の胸を揉む想像をした勇者はショートしてしまい、怒りの妖精ツッコミを受けてもなかなか戻って来ない。さらに、勇者の背中を流しに誰も来ないので、飽きたテレージアはお風呂から上がる。


 すると……


「あんた達……何してるのよ?」

「「「!!?」」」


 三人の女性が脱衣所に隠れていた。その三人とはもちろん魔王、姫騎士、コリンナだ。三人は勇者の背中を流しに来たのだが、お互いが止め合って、何も出来ないまま時間が流れていた。

 そりゃ、おっさんテレージアに冷めた目で見られるってものだ。


「もうさ~。三人で入ったら? ベッドも三人で一緒に勇者と寝たらいいじゃない?」

「「「………」」」


 テレージアの提案に、三人は何も言わずに脱衣所から出て行ってしまった。


「はぁ……ヘタレは勇者だけじゃなかったのね」


 心底残念がるテレージアは、体を拭いて自室に戻って行った。

 三人はと言うと、会議室にこもり、何やら画策していたようだが……




 その深夜、勇者の部屋にノックの音が響く。


「ふぁ~……こんな夜中に誰だ~」


 勇者が目を擦りながらドアを開けると、そこには魔王、姫騎士、コリンナの姿があった。


「サ、サシャ?」

「お兄ちゃん……失礼します!」

「プシュー!」

「お二人とも、お願いします!」

「「了解!」」


 勇者の天敵、魔王に抱きつかれた勇者は、突然の事に意識を失う。そこを三人がかりでベッドに運ばれ、添い寝付きで無理矢理就寝させられた。

 こうして、勇者暗殺は成功となったのであった。




「う~ん……なんか思ったのと違う~」


 今日も妖精は見ていたが、テレージアのお眼鏡に叶わなかったようだ……





 翌朝、皆より早くに目を覚ました勇者は、三人に抱きつかれていたので、もう一度、夢の世界に旅立ち、その後、記憶喪失となって起こされる。

 コリンナに起こされた勇者は、何故かご満悦。顔を踏まれたからだけど、誰でもいいのかと、三人プラス、テレージアに思われていた。


 そして朝食を済ませた一行は、アルマの引く巨大馬車に乗って、キャサリの町に向けて出発した。同乗者は、壁の修復に忙しいスベンを残した四天王と姫騎士。エルフから代表してエルメン。その他、料理の作れる魔族10人。

 魔族兵はウーメラの町に残り、三日の滞在の後、スベンの指揮のもと、進軍する予定だ。さらに、パンパリーからも進軍させ、取り戻した町に割り振る。

 人族兵は奴隷と、奴隷を解放する魔法使いを残して、魔王達と同時刻に進軍。これは姫騎士の居ない中、魔族との摩擦が起きないようにする為で、姫騎士私兵によって統括される。



 アルマに引かれた巨大馬車はひた走り、昼過ぎにキャサリの町が見えると停車。牧場大臣ミヒェルとアルマを残して再び発車する。

 これは巨大なホルスタインを見せると、人族が驚くから配慮したらしいが、どっちみち驚くぞ。町の門には自警団が警備しているが、巨大馬車を引いている勇者を見て、指を差してあわあわしているからな。


 そんな自警団を無視して、勇者は馬車の扉を開く。そこから一番手に降りるは姫騎士。自警団も姫騎士登場に目を輝かせ、勇者の事はどうでもよくなったようだ。

 続いて魔王も降りるが、自警団の数人がポッと顔を赤くしていた。絶世の美女の魔王を見たのならば、当然の反応と言える。

 そしてエルメンの美貌に目を眩ませた自警団は、次々降りる、魔王軍中枢の姿があまり気にならないようだ。



 自警団は少し呆けていたが、姫騎士が前に出ると背筋が伸びる。


「諸君。聞いていると思うが、ここは魔族の町だ。返却しなくてはいけない。連れて来た私がこんな事を言うのはおかしいと思うだろうが、申し訳ない」


 突然の姫騎士の謝罪に、自警団は恐縮して焦ってしまう。そのやり取りを見ていた魔王は、姫騎士の隣に立って微笑みながら話し掛ける。


「行くあてがないのなら、魔界の住人になっていただいてもかまいません。でも、元々ここに住んでいた魔族の家は、返して欲しいのですが……ダメですか?」


 今度は魔王のお願い攻撃に、自警団はどうしていいかわからず、モジモジする。


「魔王殿。そこは返さなければ、命を取ると脅すところだ」

「そんな酷い事は出来ません! かわいそうじゃないですか!」

「フッ……このように魔王殿は優しい。諸君らも、わかってもらえただろう。そろそろ、我々を中に通してくれるか?」

「は、はい」


 どうやら姫騎士は、自警団に魔王の人となりを見せる為に、ひと芝居打ったようだ。魔王の見た目と優しさを見た自警団は警戒を解き、次兄が住んでいた住居に案内する。

 ここは、元、治療院。広い庭には壁も無く、開放的な魔族の憩いの広場であったが、次兄が勝手に壁を付けたので、立派な屋敷となっている。

 この屋敷に町の者を集めるように姫騎士は頼んでいたのだが、姫騎士帰還の噂を聞いた町の者には必要のない事であった。



 魔王達は治療院のバルコニーに移動すると、人族の集まる庭を眺め、音声拡張マジックアイテムのスタンドマイクを設置する。演説の準備が完了すれば、姫騎士はマイクを握り、言葉を発する。


『諸君! 我々人族軍は、魔族軍に大敗した。よって、この戦争はおしまいだ~~~!!』



 姫騎士の終戦の言葉によって、人族による魔界侵攻は、一時、食い止める事に成功した魔族であった。


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