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082


 次兄が空に浮かぶ星となった直後、その場に居た者は空を見上げて言葉を失う。そしてしばらく空を見上げていると、黒い点が見え始める。

 森の中では正確な落下点に移動出来ないと判断した勇者は、高く跳んで木に登る。

 その後、落下して来た次兄は勇者に空中でキャッチされ、着地すると勇者の足は地面に埋まる事となった。


 大きな音を出して着地した二人を心配して、姫騎士や次兄の騎士も勇者の周りに集まる。


「勇者殿! 足は大丈夫か?」

「ああ。ちょっと埋まっただけだ」

「ちょっとって……膝まで埋まっているじゃないか」

「思ったより地面が柔らかかったな。よっと」


 勇者は地面から力ずくで足を抜き、抱いていた次兄を降ろして縄で拘束する。騎士達は次兄を救い出そうと考えるが、自分が空を飛ぶ事を想像してしまい、足が出ないようだ。

 それを見兼ねた姫騎士は、騎士達に語り掛ける。


「騎士として、仕える主君を守るのも結構だが、すでに勝敗は決した。諦めて降参してくれないか? 頼む」


 姫騎士が頭を下げると騎士達は頷き合って、剣を差し出す。姫騎士はその剣を笑顔で受け取り、感謝の言葉と共に握手をする。その時、騎士は顔を赤くしていたが、こんな時に何を考えているんだか……

 念の為、騎士の腕は縛り、テレージアにイーナを呼び寄せてもらって合流すると、勇者が次兄を担いで森の出口に向かう。


 森はそこまで深く入っていなかったので、すぐに森から出る事が出来た。ここで勇者は馬車を取り出して皆を乗せるが、騎士達の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。

 馬が居ないのに、どうやって動かすのか……もちろん勇者だ。凄い速さで移動する馬車に、さらに多くのクエスチョンマークを付ける騎士達。ちなみにイーナは自分より速く走る勇者を睨んでいた。


 ウーメラの町が見えて来ると、門に向かって走る。魔族軍はすでに町を占拠していたので、門兵に挨拶してそのまま中に通してもらう。門兵は何か言いたげだったが、馬車馬の勇者の事だろう。

 すれ違う魔族から魔王の居場所を聞いた勇者は、町の中央にある役場に馬車を横付けして皆を降ろす。



 魔王達が会議をしている会議室に案内してもらった勇者と姫騎士は、捕虜の兵士をどこで拘留しているかを聞くと、騎士達の処置をする為に、姫騎士だけ会議室から離れる。

 その後、勇者とテレージアの前に、お茶が並ぶと魔王が音頭を取って会議を執り行う。


「まずは、町の壁をなんとかしないといけませんね。スベンさん。何日ぐらい掛かりますか?」

「ミニンギーと同じくらいの穴の数なら、二日ってところでしょう」

「でしたら、二日の滞在の後、進軍となりますか……」


 魔王達の会議をお茶をすすって聞いていた勇者は、進軍と聞いて珍しく案を出す。


「魔界に居る人族兵はこれで全部だし、少ない人数でいいんじゃないか?」

「あ、そうでした。お兄ちゃんが町の人に説明してくれたのでしたね」

「そうだ。まぁ酒場のオヤジしだいだけど、姫騎士が居れば、町の者も素直に話を聞いてくれるだろう」


 勇者の案に納得した魔王は、キャサリの町に連れて行くメンバーを話し合って決める。そうしていると姫騎士が会議室に戻り、会議に参加する。

 明日の朝、出発するメンバーが決まると、姫騎士が奴隷だった者と次兄の処置を提案する。


「奴隷魔法を使える者に、奴隷を解放してもらいたいのだが、いいか?」

「はい! 皆さんが自由になれるなら、私に許可なんて必要ありませんよ」

「いや。私は現在、魔族軍に所属しているのだから、最高責任者の魔王殿を立てないわけにはいかないだろう」

「私達の関係は友達でもいいのですが……」

「有り難い申し出だが、これだけは譲れない」

「そうですか……わかりました。許可します」


 魔王が残念そうにすると姫騎士は笑顔で返してくれたので、魔王は少し気分が良くなったみたいだ。


「それと同時に、兄様には奴隷魔法を使おうと思うのだが、どうだろう?」

「お兄さんをですか。どうしてですか?」

「兄様は奴隷を軽んじているようなので、同じ気持ちを味わってもらいたいのだ。もちろん、それで刑罰は軽くするつもりはない。事が済めば、裁判を開くつもりだ」

「そうですか……わかりました。姫騎士さんの好きにしてください」

「はっ!」


 仰々しく返事する姫騎士に魔王はあわあわとやめてくれと言うが、姫騎士は魔王の焦った顔を見る為に、わざとやったようだ。魔王の友達発言が嬉しかったのであろう。

 それからも、時々魔王の困った顔を見る為に、仰々しい態度で接する姫騎士であった。


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