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 食糧をアイテムボックスに入れた勇者は、魔王を背負って魔都から離れる。しばらく喋りながら走っていたが、魔王から返事が無くなった。

 どうやら魔王は眠ってしまったらしい。なので勇者は揺らさないように気を付けて急いで走り、夕方にはミニンギーの門を潜る。


 それから魔族軍中枢が滞在している役場に着くと、勇者は魔王を揺すって起こす。


「ん、んん~」

「サシャ。着いたぞ」

「……え? すみません。また寝てしまいました~」

「いいんだ。少しでも休めたのなら、俺も嬉しいからな」

「お兄ちゃん……。ありがとうございます」


 魔王は勇者に抱きつこうとするが、昨夜の事を思い出して固まり、勇者も直立不動となる。数秒見つめ合うが、それも恥ずかしくなった魔王は、走って役場の中に消えて行った。

 勇者は残念がる声を出していたが、魔王が抱きついていたら、破裂していただろう。感謝の声を出してしかるべきだ。


 その後、夕食とお風呂を済ました勇者は、役場の一室を借りて眠りに就く。




 勇者が眠りに就いてしばらく経つと……


「「「!!?」」」


 三人の女性が、ドアの前で鉢合わせた。


「「「………」」」


 パジャマ姿の、魔王、姫騎士、コリンナだ。皆、無言で火花を散らしたのは一瞬で、顔を赤くして自分の割り当てられた寝室に消えて行った。


「今日は無しか~」


 もちろん、妖精は見ていたが、何も起こらない事に残念がって、仲間の寝室に消えて行った。




 翌朝……


 魔族軍一万二千人は、ウーメラの町に向けて進軍する。内訳は魔族兵、九千人。人族兵、ミニンギーで姫騎士が口説き落とした兵士を足して三千人。

 次兄兵の考えられる兵力は、およそ二千人。六倍の兵力差は完全にオーバーキルだが、町を取り返した後、兵士の居ないキャサリの町まで進むので、防衛にあてる考えのようだ。


 今回の進軍も、種族間の摩擦によってのいざこざは起きずに四日後……ウーメラの町を視野に収める。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



「なんだと!? 魔族が攻めて来ただと!!」


 伝令から報告を受けた次兄は、焦った声を出す。元より次兄は、長兄からミニンギーの町は消したと聞かされ、ウーメラの町の防衛も、魔族が攻めて来る可能性はゼロだと思っていたのだ。


「敵の兵力はどれぐらいだ!」

「目測ですが、一万人を超えているとの事です」

「一万だと!?」


 現在、ウーメラの町の人口は三千人。兵士が二千人で、残り千人は兵士の世話をさせる奴隷。奴隷の使い道も、兵士を楽しませる性処理用で連れて来た女性。圧倒的な戦力差だ。


「ろ、籠城(ろうじょう)だ! 兄貴が戻って来るまで立て(こも)るぞ!!」

「し、しかし、壁の穴がほとんど塞げていません……」

「なんだと! 今まで何をしていたんだ!!」

「魔法使いは、ほとんど先の決戦で連れて行かれていまして、残っていた魔法使いも町の機能を優先していたので……」

「貴様! 言い訳するのか!!」

「い、いえ。申し訳ありません!」


 次兄が非難するのはお門違いだ。どうせ魔族は攻めて来ないだろうと、壁の修復を後回しにしたのがいけない。その命令も、次兄がしていたのだからな。


「くそ……。ならば、打って出るぞ! 相手は腰抜けの魔族だ。俺様の出陣にビビッて逃げ出すはずだ」

「相手は、あのベルント将軍を打ち破ったのですよ?」

「防衛戦でだろ? ベルントはもう年だ。地の利のある、相手の罠を見破れなかったのだろう」

「それだけではありません。非道な兵器を用いるかも知れません!」

「ああ。それなら問題ない」

「ですが!」

「なんだ? 俺様の決定が不服なのか?」

「いえ……」

「さっさと出陣の準備をしろ!」

「はっ!」


 次兄の言葉を聞いた騎士は、部屋を出ようと走るが、次兄は何やら思い付いたようだ。


「待て! 確かに兵力差があり過ぎるのは、相手にナメられてしまうな。奴隷を盾に使え」

「え……全員でしょうか?」

「わかっているじゃないか。急げ!!」

「は、はっ!」


 次兄は騎士を見送ると、嫌な笑みを浮かべながら呟く。


「フッ。一万の兵を倒せば、妹の弔い合戦と相まって、民衆が俺に味方するだろう。その声を使えば、兄貴を蹴落とせるかもしれないな。アーハッハッハッハ~」


 次兄は希望に満ちた笑い声をあげ、戦線に向かう。そして町の外に出て、陣形を組ませると本陣でふんぞり返る。



 しばらくして、一人の男が馬にも乗らずに駆けて来た。すると、兵士達が騒ぎ出すので次兄には声が届かず、男の言葉を聞いた兵士から報告を聞く事となる。


「あ、あの……」

「なんだ? 相手はなんと言っていたんだ!」

「それが……」

「ひょっとして、俺様が町から出て反撃をしようとしているから、降伏して来たのか?」

「いえ……」

「一字一句もらさず、さっさと言え!!」

「は、はい!」


 兵士は次兄の剣幕に押され、言われた通りの言葉を言ってしまう。


「バーカ、バーカ。なに町から出て来てるの~? 戦をした事がないんじゃな~い。こんな布陣を敷くなんて、バカのする事よ。バーカ!!」

「なっ……」


 うん。そりゃ言いたくもなくなるな。でも、兵士も、そのまま言えと命令されても、オブラートに包めばいいのに……


「き、貴様~~~!」

「わ、私じゃございません! 男が駆けて来たと思ったら、妖精が顔を出して言って来たのです!!」


 まぁテレージアが言いそうな事ではあるな。


「ぐぬぬぬぬ……ナメやがって~。全軍前進だ! ふざけた魔族どもを根絶やしにしてやる~~~!!」



 かくして、次兄軍は足並みを揃え、魔族軍に向けて前進するのであった。


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