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 会議室からポイっと追い出されたテレージアは、ムキ―っとしながら勇者を追い掛けて肩にとまる。


「なあ? さっきのみんなは、何があったんだ?」

「あ~。昨夜の勇者はお楽しみにだったから、妬いてるのよ」

「お楽しみ? ずっと寝てたんだけどな~」

「はあ? 何も覚えてないの?」

「疲れていたみたいだ」

「う~ん……。そうなんだ~」


 テレージアは昨夜の事を話そうとしていたが、思い留まったようだ。破裂してしまうとでも思ったのかもしれない。なので、話を逸らすみたいだ。


「そうそう! 世界樹、エルフの所にあるのよ。見に行こ!!」

「あ、ああ」


 テレージアはパタパタと先導するように飛び、勇者はその後を追う。しばらくして、エルフ達が井戸端会議をしている輪を見付けるが、そこには妖精達も集まり、皆、真剣に話し合っていた。

 テレージアはその輪の中心に飛んで行き、勇者はエルメンヒルデに話し掛ける。


「エルメン。おはよう」

「これは勇者様。おはようございます」

「何をしてたんだ?」

「皆で世界樹様のお姿を拝見していました」

「ふ~ん。神様みたいな言い様だな」

「その昔、エルフは世界樹様を(あが)めていましたからね。世界樹様が枯れてからと言うもの、苦難が始まったので守り神とも言えます」

「テレージアは家だと言ってたぞ。神様に住み着いてしまってもいいのか?」

「妖精は世界樹様に代々仕えていたと聞きますし、我々と役目は違いますので、その文化は尊重しております」

「害虫にしか見えないけどな」

「テレージアさんはですね」


 勇者とエルメンヒルデは軽口をして笑い合う。そうしていると、テレージアがパタパタと二人の前に現れる。


「それで、移植先は決まったの?」

「まだです」

「早くしてよね~」

「そう言いましても、より良い土地に移植しないと、すぐに枯れてしまいますよ」

「そっか……立派な木になるように頼んだわね!」

「エルフの誇りにかけて、探し当てます!」


 珍しく二人はケンカをせずに、和気あいあいと話すが、勇者は話について行けないようなので質問する。


「世界樹を育てるには、何か条件があるのか?」

「肥沃な大地、豊潤な魔力が無いと育たないと言われています」

「なるほどな。でも、難しそうだな」

「そうですね。昨日、世界樹様の話を聞いて、すぐに最長老様に連絡を取りましたので、魔界中を探してくれる事になりました」

「見付かるまでは、どうするんだ?」

「エルフ秘伝の栄養材と、土に直接魔力を注ぎ入れて乗り切ります。果物もこうして美味しく作っているので、なんとかなるはずです」


 さすがエルフと言いたいところだが、果樹園特化なエルフでは、勇者も微妙な顔になってしまった。

 世界樹見学の終わった勇者は、会議室に戻ろうかと悩むが、エルメンに昼食を誘われ、いたたまれない空気よりいいかとその場に残る。


 昼食にはまだ早かったので、エルフ達にチヤホヤされながら待ち、果物のジャムを付けたパンも、チヤホヤされながら食べる。

 その後、テレージアと一緒に会議室に戻ると、ちょうどよかったと会議に参加させられる。


「お兄ちゃん!」

「な、なにかな~?」


 語気の強い魔王の言葉に、勇者はだじたじとなる。


「キャサリの町に行ったのですよね?」

「う、うん」

「食糧が足りないとおっしゃっていましたが、この軍の食糧も少し足りないのです」

「あ……勝手な約束なんてして、すまない」

「怒っているわけではありません。足りないので、魔都まで取りに行ってもらえないかと、お願いしたいのです。お兄ちゃんなら今から行っても、夜には帰って来られますよね?」

「まぁ出来るけど、ミニンギーじゃダメなのか?」

「ミニンギーからも、一万の兵を移動させるので、あちらもそこまで食糧が無いのです」

「なるほどな。わかった。今すぐ立つよ。魔都についたら、誰に聞いたらいいんだ?」

「私も同行するので大丈夫です」

「え……ここの指揮はいいのか?」

「あとは準備だけですので、四天王さんと姫騎士さんが見ていてくれます」


 魔王のお願いを聞いた勇者は、了承して魔王と一緒に会議室を出る。誰からも反対意見が出なかったと言う事は、すでに決定事項だったようだ。

 外に出るとアイテムボックスから背負子を取り出し、魔王を背負って走り出す。町から出るまでは、魔王は恥ずかしそうにしていたが……


 そして、町から出ると魔王に気を使って徐々にスピードを上げる。だが、かなりスピードが上がると魔王からストップが掛かる。


「速すぎます~」

「ごめんな~。でも、夜までに戻るには、急がないと間に合わないぞ」

「うぅぅ。我慢します~」


 魔王は我慢すると言いながら、「キャーキャー」と叫んで、途中からは楽しんでいた。その甲斐あってか、片道十二日の道のりを、勇者は二時間で走破した。


「もう着いちゃいました……」

「まぁ走る勇者とも呼ばれていたからな」

「こんなに早く着くなら、あんなに飛ばさなくてもよかったんじゃないですか?」

「サシャが楽しそうにしてたから、ついな」

「楽しんでませ~ん」


 魔王が頬を膨らませると勇者は気持ち悪い顔になるけど、背負っているのに見えてるの? 甘えた声だけでそこまで想像できるとは、気持ち悪い事この上ない。


 それから魔王がいろいろと言い訳をしていると、魔王城と呼ばれるログハウスに到着する。そこで勇者は、魔王を降ろしながら辺りを見渡し、感嘆の声をあげる。


「すごい量だな」


 ログハウスには、米、麦、穀物類が山のように集められていた。


「これを全て、持てますか?」

「たぶん大丈夫だけど、魔都が困るんじゃないか?」

「魔都や町では、不作の場合を想定して、三年分の食糧を常に保管しているから大丈夫です。その気になれば、この量より多くを、一年で用意できますよ」

「へ~。さすが農業特化だな。でも、みっつの町を再開させたら、足りなくなるんじゃないか?」

「それも大丈夫です。他の町からも送ってもらうよう連絡しました。フリーデちゃんのお父さんが運輸の段取りもしてくれています」

「フリーデのお父さん?」

「あ、紹介していませんでしたね。フリーデちゃんのお父さんは、運輸大臣です」

「そうなんだ。ひとまず、入れていくか」


 勇者が手をかざすと、食糧の山はアイテムボックスに消えていく。魔王はそれを見ながら、驚きの声を……


「そちらの麦は、さっきの麦と違いまして……」


 いや。なにやら説明しながら、勇者の邪魔をしていた。勇者は苦笑いで説明を聞き、なんとか入れ終わると魔王を担いでミニンギーに向けて走るのであった。


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