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 魔王に思考停止にさせらてた勇者はなかなか回復しないので、姫騎士達は勇者の事は放置して、ウーメラの町を取り戻す話し合いに移る。


 勇者から聞いたウーメラの状況を加味して、コリンナと姫騎士、参謀のベティーナで作戦を決め、魔王と四天王は魔族兵の配備を決める。

 そうしていると勇者が復活し、会議にまざる。


「サシャも姫騎士も、休めって言ったのに、また働いているぞ」

「昨日、いっぱい寝たから大丈夫です!」

「私も怪我を治してもらったから大丈夫だ」

「疲労はそう簡単に取れないぞ」

「そんなこと言って、お兄ちゃんのほうが働いているじゃないですか」

「俺は散歩に出ただけだ」

「町に穴を開けたり、人界まで長兄さんを追うのが散歩なんですか?」

「兄様とも戦って、大型魔獣に追われる事が散歩なのか?」

「俺からしたらな」

「お兄ちゃんこそ、働き過ぎです!」

「そうだ! 勇者殿はこの軍の要だから、しっかりと休んでもらわないといけないぞ」

「あ、ああ……」


 勇者は魔王と姫騎士に詰め寄られ、たじたじとなって会議室を抜け出す。ヘタレ勇者では、美人に詰め寄られると弱いみたいだ。

 いや、最愛の妹に似た魔王に積極的に前に出られる事は経験に無いので、どうしていいかわからないのだろう。



 会議室を後にした勇者は、魔族が経営していた銭湯に向かう。ここは現在、多くの兵士の憩いの場となっているが、人族兵と時間制で交代となっている。残念ながら、いまは魔族兵の時間だったようなので、勇者は次の時間を確認する。

 勇者が立て札の時間表を眺めていると、豚鼻の男と頭にコブのある男、オークとオーガが勇者の肩を叩いた。


「人族の時間は、もう少しあとだぞ?」

「ああ。そうみたいだな。出直して来るよ」

「あんたは……勇者様か?」

「まぁいちおうな」

「それなら言ってくれよ。ささ、入ってくれ!」

「いいのか?」

「当たり前だろ!」


 勇者はオークとオーガに肩を組まれ、裸の付き合いをさせられる。銭湯の中でもちょっとした騒ぎとなり、裸の男から感謝の握手とバグを受け、勇者は微妙な顔で受け答えする。

 どうやら男にも免疫が無いようだ。まぁそっちの趣味のない勇者にとって、拷問だったのだろう。


 フラフラとなった勇者は、会議が行われていた家の隣にベッドルームを取り出し、軽く昼食をとってから、魔王の残り香にくるまれながら眠りに落ちた。





 その深夜……。勇者はふと目を覚ます。


「ん……夜?」


 勇者は寝惚け眼で窓を見て、おおよその時間を確認する。


「寝過ぎたか。夜飯も食べ忘れてしまったな。まぁ休んでいるように言われたし、このまま寝てしまおう。ふぁ」


 勇者はあくびを噛み締め、寝返り打つ。すると勇者は……


「!!?」


 声も出ないほど驚く事となる。目の前に、すやすや寝ている魔王が居たからだ。その時の勇者の心境はと言うと……


(どうしてサシャが、隣で寝ているんだ? これは俺に襲えと言っているのか? よし!)


 良からぬ事を考え、狼にな……


(……無理だ~~~!!)


 ですよね~。緊張がマックスとなったヘタレ勇者はベッドから脱出するようだ。


(ん? 何か腰に絡み付いている……)


 勇者はモゾモゾとした違和感を覚え、布団を軽くめくると、女の子が腰に手を回していた。


(コリンナ? なんでこんな所に……そんな事より、いまは脱出を……うわ!)


 今度は魔王の反対側を見て驚いた。


(姫騎士まで、なんで俺と寝ているんだ~!)


 どうやら勇者は、慣れないハーレム展開に驚いて、いっぱいいっぱいのようだ。


 どうしていいかもわからず体をモソモソしていると、魔王が目を覚ました。


「ん、んん~……お兄ちゃん?」

「サ、サシャ? こ、これはいったい?」

「兄妹なんですから、一緒に寝てもおかしくないんじゃないですか? お兄ちゃんが言った事ですよ?」

「そ、そうだな……」


 どうやら魔王は、姫騎士とコリンナも一緒に寝ている事に気付いていないようだ。勇者もなんと説明していいかわからないので、乗っかる事にしたようだ。

 しかし緊張している勇者では、次の言葉が浮かばず、沈黙が流れる。ベットルームに音が無くなってしばらく経つと、魔王が照れたように声を出す。


「今日は、このまま寝させてくれませんか?」

「あ、ああ」

「……理由を聞かないんですね」


 勇者は緊張してそれどころではないから空返事をしただけなのだが、魔王は何か聞いて欲しかったようだ。なので、自分から喋り出した。


「戦争が始まって、いつもお兄ちゃんが近くに居てくれたので、昨日、一日、お兄ちゃんが居なくなって、急に怖くなってしまいました。ダメな魔王ですね」

「そんな事は……」

「ありますよ。本来なら、魔王の私が泣き言を言わず、魔族を鼓舞し続けなくてはいけないのですから」

「魔王だって、泣き言くらい言ってもいいんじゃないか? 四天王だって優しいんだから、聞いてくれるだろ」

「聞いてくれますが、おそらく寄り添ってしまいます」

「あ~……優し過ぎるもんな」


 勇者は三人のおっさんが魔王の泣き言に、一緒に泣く姿を想像し、若干気持ち悪くなる。


「まぁアレだ。サシャは、よくやってるよ」

「お兄ちゃん……」

「前にも言ったが、泣き言は俺が聞くから、いつでも話してくれ」

「……はい」

「だから、これからも頑張るんだぞ」

「頑張る……はい! 頑張ります!!」


 どうやら魔王は、頑張れと言われたかったようだ。孤独ではないが、魔王自身を鼓舞してくれる人は皆無。戦争をするにあたり、そんな存在を求めていたのだろう。

 聞きたかった言葉を聞いた魔王は、勇者に抱きつき、そのまま安心して眠りに落ちる。


「ボンッ!」


 もちろん勇者は、破裂して気絶するが、破裂音まで口に出さなくていいと思う。






「う~ん……なんだか思っていたハーレムじゃないわ~」


 そしてテレージア……「妖精は見た」は控えた方がいいと思う。


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