表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/187

072


 魔の森にある砦を後にした勇者はテレージアと合流すると、背中に太陽の光を受けながら、東に向けてひた走る。そうしてかなりの距離を走ったところで、テレージアがショルダーバッグから顔を出した。


「ぐっ……止まって~~~!」


 勇者の走る速度は速いので、テレージアは顔を歪めながら声を出す。テレージアの行動に、勇者は不思議に思って走るのをやめる。


「どうした?」

「ちょっと付き合ってくれない?」

「俺とテレージアが!? 俺にはサシャが……」

「なに言ってるのよ! 行きたい所があるのよ!!」

「行きたい所?」

「ちょっと行き過ぎたから戻って」


 勇者はテレージアの指示のもと、速度を落として走る。少し戻り、道から外れると森の中を進み、しばらく走れば、テレージアの目的の場所に着いたようだ。


 その場所で、テレージアはパタパタと空を飛び、辺りを見渡して寂しそうな顔を見せる。


「ここは……森が焼けた跡か?」


 勇者は大きな木の焼け落ちた痕跡を見て、テレージアに質問する。


「あたしの実家よ。そこの木が住みかだったんだけどね。人族に焼かれたのよ」

「ふ~ん。大きな木だったんだな。もったいない」

「ホント馬鹿よ。この木の葉は、怪我や病気を治せたのに、あたし達を炙り出す為に燃やすなんて……」

「もしかして、世界樹か?」

「そうよ」


 テレージアは名残惜しいのか、燃えた大木の幹の周りを、パタパタと飛び回る。


「あ……勇者! こっち来て!!」


 テレージアは何かを発見したのか、焦った声を出す。その声に勇者が近付くと、そこにはうっすらと光る木の苗があった。


「それは……」

「世界樹の苗よ!」

「おお~。初めて見たよ」

「よかった~。崩れ落ちる前に、命を繋いでいたんだ~」

「嬉しそうだな」

「だって長年あたし達、妖精を見続けてくれた木だもん。親みたいなもんよ」


 テレージアはそう言うと、苗木に抱き付いて頬擦りする。


「そのままでも、また大木になるのか?」

「どうかな? 少し元気がないかも」

「なら、エルフに育ててもらったらどうだ? 果樹園もやっているみたいだから、出来るんじゃないか?」

「確かに……持って帰ってくれる!?」

「ああ。ちょっと待ってな」


 勇者は苗木に近付くと、スコップを取り出し、根を傷付けないように慎重に掘り起こす。それが終われば大きめの鉢に移植し、リュックサックに入れて背負う。


「まだ、何か用があるか?」

「ううん。ありがとう。チュッ」

「ん?」

「感謝のしるしよ」


 テレージアは勇者の頬にキスをして、照れているのか、顔を赤くしてリュックに入って行った。どうやらおっさんテレージアも、自分でやるのは恥ずかしかったようだ。

 勇者はと言うと、何をされたのかわかっていない。小さな妖精では、キスをされても蚊に刺された程度であったのだろう。

 それから元来た道を戻り、広い道に出ると東に向けて走る。


 そうしてその少し後、森が切れた。



「ここが人界か~」


 勇者が感慨深い声を出すと、テレージアがリュックから顔を出す。


「魔界とほとんど変わらないな」


 あ、ただの独り言だったようだ。


「数百年前は、ここも森だったみたいよ」

「ふ~ん。どうして森が無くなったんだ?」

「人族が切り開いたみたい。それでエルフは住みかを追われて、魔界に逃げたみたいよ」

「そうなんだ」

「それで、どうしてここまで来たの?」

「長兄が何処まで逃げたか探したかったんだけどな~」

「匂いで終えないの?」

「サシャ以外の匂いなんて、嗅ぎ分けられるわけがないだろ」


 相変わらず気持ち悪い勇者だ。テレージアも「キモッ!」て顔をしているぞ。


「妹の場合は、転移魔法を使っても追ってたじゃない? その方法でわからないの?」

「妹の時はただの感で、行きそうな場所をしらみ潰しに探したからな~」

「最悪のストーカーね……」


 うん。テレージアの言う通りだ。褒め言葉ではないのだから、勇者は照れないで欲しい。


「何処に逃げたかわからないし、偵察はここまでだな。帰ろう」


 勇者は踵を返して走り出すが、道から逸れ、森に入る。すると、テレージアが焦ったように勇者に声を掛ける。


「ちょっと! 何処に行くのよ!!」

「ん? 森を突っ切ったほうが早いだろ?」

「そっちはヤバイんだって!」


 勇者はテレージアの剣幕に、走るのをやめて質問する。


「ヤバイ?」

「お婆さんに聞いた話だけど……」


 テレージアは昔話を語り始める。


 この森は魔の森と呼ばれ、森の中央には死の山と呼ばれる場所があるらしい。そこは草木も生えぬ死の世界。生者が辿り着くと命は吸われ、森の栄養分になると言われて恐れられている。

 さらにその周りには狂暴な魔獣が縄張りを作り、死の山に近付く事さえ出来ないと言われている。


「ふ~ん……狂暴な魔獣が居るのに、なんで命を吸われるって知っているんだ?」

「お婆さんはグリフォンから聞いたらしいわよ。そのグリフォンは元々、死の山の近くに縄張りがあったみたいだけど、北に移住して来たみたい」

「グリフォン? 妖精と仲良かったのか?」

「まぁね……人族が攻めて来た時も、一匹で、ずっと戦ってくれてたの」

「守り神みたいだな」

「もう死んじゃったけどね」

「それも人族にか?」

「ううん。寿命よ」

「そっか。他にも死の山から離れた魔獣はいるのか?」

「同時期に、ドラゴンも南に飛び立ったと聞いたけど、どうなったかはわからないわ」

「なるほど。わかった」


 わかったと言いながら、勇者は森を南西に向けて駆け出す。


「わかってないじゃない!!」


 当然、テレージアから苦情は出るが、勇者はさらにスピードを上げて声を遮るのであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ