表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/187

071


 勇者は立ち上がった長兄に声を掛けて歩み寄る。


「それじゃあ、行こうか」

「待て! 貴様が本当の魔王だな! 油断させる為に、あの女に嘘を言わせたのだな!!」


 勇者が近付くと、長兄は喚くように捲し立てる。


「いや。正真正銘、魔王はあっちだ」

「では、お前は……」

「どうせ信じられないし、言う必要ないだろ? さっさと行くぞ」


 勇者はさらに歩みを進めると、長兄は大きく後ろに跳んで、首に掛かったネックレスを握る。


「言いたくないと言う訳か……。ならば、ここまでだな」

「やっと諦めたか」

「情報を引き出すのは諦めただけだ」

「情報?」

「次に会った時には教えてもらおう」


 長兄はそう言うと、ネックレスを引きちぎって叫ぶ。


「【転移】!!」

「しまっ……」


 長兄の叫びと共に、ネックレスから光が(あふ)れ、収まる頃には長兄の姿は消え去っていた。


「はぁ。やられた……。転移マジックアイテムか」


 勇者はため息を漏らすと空を仰ぐ。それからテレージアの元へ戻ろうとするが、残った兵士に剣を向けられて囲まれてしまった。


「俺の用は終わったんだが、お前達は、まだ俺に用があるのか?」

「当たり前だ! 殿下の敵と成り得る者を逃がすわけがないだろ!!」

「ふ~ん……お前達を無能と呼んだ奴を、まだ守ろうとするんだ。それに捨て駒にされた事に気付いてないのか?」

「そんなわけは……」


 勇者のまっとうな意見に、兵士は口ごもる。


「そういえば、お前達は姫騎士が死んだと思っているだろ? 生きてるぞ」

「姫殿下が!?」

「あの場に居た俺が証人だ」

「嘘をつくな! ここから爆発のあった町まで、何日かかると思っているんだ!」

「嘘だと思うなら、引き返して魔族の町で待っていろ。姫騎士は、兵士を募集しているからな。長兄より、お前達を大事にしてくれると思うぞ」


 勇者の言葉に兵士達は顔を見合わせ悩み始めた。そうして兵士の殺気が薄れる中、勇者はテレージアの元へ走り出す。兵士はそれを追うかも悩み、足が出なかった。

 勇者はテレージアと合流すると(きびす)を返し、また兵士の集団に向かって駆ける。兵士は何事かと剣を構えるが、勇者は凄い速度で東に消え、兵士はポカンとして剣を落とした。




 勇者が兵士達と別れた後、しばらく走ると木の壁で出来た砦を発見する。そこでテレージアを空に逃がし、勇者は壁を飛び越え強襲する。


「何者だ!」

「何処から入った!」


 勇者が着地するや否や、兵士が剣を抜いて取り囲む事態となった。勇者は、兵士の質問に少し悩んでから答える。


「そうだな……姫騎士の使いってところだ」

「姫殿下は、もうお亡くなりになったのだぞ!」

「生きてるぞ」

「え……」

「それで通信マジックアイテムを預かりたいんだが、何処にあるんだ?」

「お前のような怪しい奴に、誰が言うか!」

「そりゃそうか。勝手に探させてもらうよ」


 勇者は納得したが歩き出し、兵士は静止を呼び掛ける。それでも止まらない勇者に剣を振り下ろす。

 兵士は剣がまったく効かない勇者に驚くが、勇者は気にせず歩いて建物に入る。数戸あった建物は、兵士の宿舎、食堂、倉庫、それと会議場となっていた。

 目的の物がなかなか見つからない中、勇者が会議場に入ると、ミニンギーの町で見た通信マジックアイテムに似た物があったので、その前に立つ兵士を押し退け、アイテムボックスに入れてしまう。

 その後、他にも無いかと倉庫を漁って予備を見付けると、それもアイテムボックス行き。勇者はホクホク顔で倉庫から出るが、怒り顔の兵士に取り囲まれる。


「貴様~! マジックアイテムを返せ~~~!!」

「その焦り様……これで全部みたいだな」

「まだあるぞ!」

「そうなのか? それも渡してくれるか?」

「誰が渡すか!」

「じゃあ、この砦を破壊しないといけないな。そうなったらいつ魔獣に襲われるかわからないから、ここで滞在するのも難しいだろうな~」

「うっ……」


 勇者が嫌らしい物言いをすると、兵士は黙り込む。先ほど、斬っても掴んでも、まったく歯が立たなかったのだから、砦を壊すぐらいわけがないと悟ったのであろう。


「それで、本当にまだあるのか?」

「くっ……もう無い」

「そうか。でも、また嘘を言っているかもしれないし、壊して行くよ」

「ま、待て! 待ってくれ!!」


 兵士の焦る声に笑顔で返した勇者は走り出し、壁を飛び越えて砦を出て行った。残された兵士は安堵の表情と困惑の表情を同時にし、これからどうしたらいいかを話し合うしかなかった。


「通信マジックアイテムが無いと、この砦が機能しないぞ」

「一度人界に戻って、ありのまま報告するしかないか」

「責任者の首が飛ぶかもしれないな……」


 兵士達は、この砦の責任者の騎士を一斉に見つめる。すると……


「「「「「ぎゃ~~~!!」」」」」


 一斉に悲鳴をあげる事となった。


「そんなに驚くなよ~」


 勇者が騎士の後ろに立っていたからだ。そりゃ出て行って、ホッとしているところに戻って来たら、誰でも驚くだろう。


「なんで戻って来てるんだ!」

「伝え忘れがあってな。姫騎士は兵士を募集しているから、志願するなら、森を出た所にある魔族の町で待っていてくれ。それじゃあな~」


 勇者の伝言の後、砦では連日の会議が執り行われたそうだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ