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 ぷりぷりするテレージアを宥め終わった勇者は、酒場のオヤジに目を移す。


「とりあえず、魔王がこの町を見た時の処置をしておくな」

「魔王の処置……」


 オヤジは立ち上がる勇者を、ゴクリと唾を呑んで見守る。そんなオヤジを気にせず、勇者はカウンターの上に、アイテムボックスから取り出した食糧を並べ、呆気に取られるオヤジに笑顔を見せる。


「たぶん魔王がこの町を見たら、食糧を配布するはずだ。な?」

「そうね。魔王はお人好しだからね」

「魔王がお人好し……」

「オヤジはこれを配ってくれるか?」

「い、いいのか!?」

「ああ。おそらくだが、十日以降後に魔王と姫騎士の連合軍がこの町に到着する」

「姫騎士様が戻って来るのか!」

「そうだ。でも、魔族は戦う事が苦手だし、この町までは距離があるから正確な日付はわからない。到着する時には、温かく受け入れて欲しい」

「魔族は少し怖いが、姫騎士様がいるなら……。いや、事実を皆に広めておくよ」

「頼んだぞ」


 この言葉の後、勇者はオヤジに必要な食糧の量を聞いて、さらに床に置く。ほとんどが未解体の魔獣の肉であったが、仲間で解体と加工をすると言って、オヤジは久し振りの肉に喜んでいた。

 それが終わると、また来ると言って別れを告げるが、オヤジはあとを追って酒場から出て来た。


「おい! あんたはいったい何者なんだ?」

「俺? 俺は頑丈な……」

「こいつは、魔王が召喚した勇者よ! フフン」


 オヤジの質問に、勇者が返答しようとしたが、テレージアがしゃしゃり出て台詞を奪う。きっと、頑丈な勇者と言っても通じないと思っての配慮だろう。


「魔王が勇者を召喚した??」


 よけい混乱させる事とは露知らず……



 オヤジがフリーズしてしまったが、勇者は気にせず走り出す。路地に入ると屋根を飛び交い、町から脱出すると、東に向かって走る。

 しばらく走ると木が切り倒され、道となった場所を発見する。勇者とテレージアは目を見合わせ、頷き合って、道を東に向けて走るのであった。



 小一時間ほど走るが、魔界に向かって来る者は居ない。その代わり、人界に向かう集団を見付けた勇者は、テレージアに空からの偵察を頼んで静かにあとをつける。

 しばらくすると、テレージアが戻って来て、勇者の肩にとまる。


「どうだった?」

「なんか豪華な馬車があったわ。兵士は二百人ぐらいかしら?」

「長兄か……」

「たぶんね」

「じゃあ、突撃して来る。テレージアは巻き添えにならないように、離れていてくれ」

「わかったわ」



 テレージアがパタパタと空を舞うと、勇者は気付かれる事も気にせず、豪華な馬車の一団に走り寄る。

 すると、勇者に気付いた兵士は止まり、剣を抜いて行く手を阻む。その兵士の前まで行くと、勇者は止まって言葉を投げ掛ける。


「なあ? 逃げて行った馬車に、長兄が乗っているのか?」

「貴様は何者だ!」

「質問しているのは、俺なんだが……」

「答えたくないと言う事か!」

「う~ん……まぁいいや。馬車を止めてから聞くよ」

「貴様~~~!」


 勇者の答えが気に障ったのか、兵士は剣を振りかぶって勇者を斬り付ける。もちろん勇者にその剣は効かず、折れるだけ。勇者も剣が当たっても気にせず、人を跳ね、馬車に追い付くと並走し、扉を強引に剥がして乗り込む。


「よっ!」

「何者だ!!」


 勇者が軽く挨拶をすると、髭を生やしたオッサンが怒鳴って腰を上げる。勇者は馬車の中を見渡し、姫騎士と顔が似た男を見つめる。

 すると、髭を生やしたオッサンが勇者の肩を掴むので、長兄では無いと判断し、手を引っ張って馬車から退出してもらう。


 そして、長兄らしき男の前にドカッと腰掛け、相対す。


「それで、あんたが長兄か?」

「いかにも。私が帝国次期皇帝、ラインホルトだ」


 勇者の質問に、長兄は眉ひとつ動かさずに答える。


「ふ~ん……賊が目の前に居るのに、動揺すらしないんだな」

「貴様ごとき下賤(げせん)な者に、私が心を揺さぶられる理由がない。して、何用だ?」

「ああ。そうだったな。ちょっとお前にムカついていてな。誘拐しに来た」

「ムカつく? 誘拐??」


 勇者の不穏な言葉を聞いても、長兄は表情を崩さない。


「自分の妹を殺そうとしただろ? 妹なんて、かわいいかわいい天使だ。そんなかわいい妹を殺そうなんてするなんて、頭がおかしいんじゃないか?」


 うん。勇者は怒っているようだが、怒る理由が気持ち悪い。長兄もそのせいで、表情を崩して怪訝(けげん)な顔になった。


「殺そうとしただと……妹は生きているのか?」


 あ、勇者の発言に、姫騎士が生きている事を知って、表情を変えたようだ。


「やっぱり妹が心配だったんだな。かわいいもんな~」


 勇者……違う。そう言う質問ではないはずだ。


「ふざけるな……質問に答えろ!」


 ほら、怒られた。だが、勇者は長兄の怒りの表情を引き出せたようだ。その質問に、勇者はニヤケながら答える。


「生きてるに決まっているだろ? 時間稼ぎが上手(うま)いお兄さん」

「お前はあの時の……」


 勇者の挑発に、長兄は通信マジックアイテムで話した男の声を思い出したようだ。それと同時に、後方から追って来た騎兵によって、馬車は止められた。


「何故、生きている!」

「さてね。教えてやる義理はないだろ? 馬車も止まったみたいだし、行こうか」

「貴様!!」


 勇者は立ち上がると、長兄の胸ぐらを掴んで扉に移動する。すると、馬車を囲んだ騎兵に剣を向けられる。


「長兄殿下を離せ~!」

「まだわからないのか? そんな物、俺には効かないぞ」


 勇者は騎兵に言い聞かせながら、胸ぐらを掴んだ長兄と共に、馬車からゆっくりと地上に降り立つのであった。


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