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006


 魔王にお兄ちゃんと呼ばれた勇者はご満悦。にこにこと今後の話に移った。


「あとは、お風呂も一緒に入ろう!」

「え……」

「ダメなら、俺は魔族は救えないな~」

「……わかりました」

「寝室も一緒にしよう!」

「さすがにそれは……」

「兄妹なら一緒に寝ても不思議じゃないだろ?」

「兄妹?」

「そうだ。俺は妹と一緒にお風呂に入って、一緒に寝たいんだ」


 四天王の三人は勇者の我が儘に拳を握り込んでいたが、頭にクエスチョンマークが浮かんで手が広がった。


「えっと……私達の関係は、兄と妹なのですか?」

「その方が結婚する時に燃えるだろ?」


 勇者は質問するが、その変な質問にどう答えたらいいのか、魔王は考え込む。


(兄妹の振りをする必要があるのかな? すぐに結婚の話になると思ったのに……)


 魔王が黙っていると、勇者が次なる指示を出す。


「それと敬語は禁止な! 俺達は兄妹なんだからな」

「は……うん。わかったです」

「まだ敬語になってるぞ~。サシャはお兄ちゃんの事を敬ってくれているんだな~」

「う、うん。あはは……え? サシャ??」

「あ、名前は、なんて言うんだ?」

「お兄ちゃんがサシャの方がしっくり来るのなら、私は改名しま……しよっかな~」

「う~ん。そこまではしなくていいよ。サシャってあだ名にしよう」

「そう。わかったわ。お兄ちゃん」

「うっ。尊い……」


 勇者は魔王の会心の笑顔を喰らい、膝を突く事となった。心配する四天王の三人は、どう扱っていいかわからず、テレージアはニヤニヤと眺めるだけであった。




 夕食はとっくに終わっているので、魔王は各自解散を言い渡し、四天王の三人は城から出て行き、テレージアはフリーデを寝室に寝かせる為に部屋から出て行く。

 残された二人はリビングで静かにくつろいでいたが、魔王は立ち上がる。


「ね、寝るのか?」

「ううん。お風呂に入って来るね」

「そ、それなら俺も!」

「さ、さっき入ったじゃないですか!」

「また敬語……いや、それはそれでアリか。やっぱり敬語で話してくれ」

「はあ……でも、本当に一緒に入るのですか?」

「い、いいんだ。背中を流してやるよ」

「……あ、ありがとうございます。それじゃあ、一緒に入りましょう」

「お、おう!」


 ぎこちない会話をした後、勇者と魔王は風呂場へ向かう。そして勇者はババババっと服を脱ぎ捨て、先にお風呂に入って行った。

 残された魔王は、緊張しながら服を一枚ずつ脱ぐ。


(うぅ。恥ずかしいよ~。男の人の前で裸になるなんて、子供の頃にお父さんと入ったとき以来。でも、魔族の未来のため、行かなきゃ!)


 魔王は服を脱いで裸になると、顔をパンパンと叩いて、お風呂の扉を開く。そこには(ひのき)作りの大きな湯船に浸かった勇者の姿があり、魔王は恥ずかしそうに体を手で隠して歩く。

 そしてシャワーの前に座ると、勇者に声を掛ける。


「あ、あの……お兄ちゃん。背中を流してください」

「あ、ああ。いま行く」


 勇者は湯船から出て歩き出す。魔王は振り返らず待っていると、後ろから声が聞こえる。


「ん……どこだ?」

「お兄ちゃん?」

「あ、そっちか」


 勇者は再び歩き出すが、今度は湯船にドボーンと落ちる音が聞こえ、魔王は恐る恐る振り返る。


(あ、タオルで隠してくれてる。でも、また変な方向に歩いて行ってるけど……目を(つぶ)ってる? 自分から言い出したのに、私の裸を見たくないの? そんなに見るに耐えないモノなの!?)


 魔王は気を落とし、自分のお腹や二の腕をプニプニと揉んで確認する。すると、よけい落ち込む事になったようだ……

 だが、勇者は一向に近付く気配が無いので、気分を紛らわす為に鼻歌を歌う。そうこうすると、やっと勇者が後ろに立ち、魔王に触れる。


「あ、そこは……」

「うわ!?」

「??」


 勇者は魔王の頭に触れるが、すぐに手を離す。その行為を不思議に思った魔王は

問い掛ける。


「どうしたのですか?」

「いや、なんでもない……あ! 角はどうしたんだ?」

「アレは魔王の威厳を出す為に被っていたのです」

「魔王は直に生えているんじゃないのか?」

「昔は生えていたらしいです。でも退化して、無くなったみたいです」

「ふ~ん……」

「そろそろ背中を流してくれますか?」

「あ、ああ」


 勇者は目を瞑りながら手を伸ばすが、魔王の肌に触れると飛び退き、ドボンと湯船に落ちる事となった。


「あの~……背中を流してくれるんじゃんなかったのですか?」

「えっと……いいお湯だから、浸かっていたくなったんだ! 気持ちいいな~」

「そうですか……」


 勇者は何やら言い訳をして、魔王の声と反対に体を向ける。魔王は勇者の態度が気になったが、勇者に洗われるよりいいかと割り切り、体や髪を洗い流すと湯船に浸かる。

 しばらく無言が続く中、静寂に耐えられなくなった勇者が口を開く。


「そういえば、この世界の魔族は人間みたいな姿なんだな」

「それも退化のせい……いえ。進化かもしれません」

「進化?」

「千年前までは、もっと獣に近い魔族がいたようです。でも、勇者様が先代魔王様になってから、魔族は野菜を食べるようになって、人族の体に近付いたと歴史書に書かれていました。まだ少し、元の姿を残している魔族はいますけどね」

「なるほど」

「それにしても、異世界の勇者様なのに、言葉が通じてよかったです」

「そういえばそうだな」

「先代魔王様は、言葉が通じなくて苦労したと言われていましたけど、同じ言葉を使っている異世界があるのですね」

「不思議な共通点だな」


 勇者と魔王は裸の付き合いをして打ち解けたのか、本当の兄妹のように話が弾むのであった。……勇者は最後まで、目を開ける事はなかったとさ。


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