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068


 ウーメラの町を後にした勇者は、キャサリの町に向けてひた走る。だが、テレージアがブーブーうるさいので、途中でお昼休憩。腹を膨らませて満足したテレージアは、ショルダーバッグの中で眠りに就き、勇者は猛スピードで走る。

 そのしばらく後、キャサリの町が見え始め、湖側から大きく回り込んで北側の外壁から町に近付く。


 外壁に到着すると、テレージアを起こして人の有無を確認させる。報告を聞いた勇者は、目を擦りながらだったから若干の不安はあったようだが、壁に飛び乗り、安全を確認すると屋根伝いに移動して、次兄が居た屋敷を視界に収める。


「う~ん……」

「どうしたの?」

「兵士が全然居ないんだ」

「ラッキーじゃない」

「長兄を探しているんだから、兵士が居ないと不自然だろ?」

「あ、そっか。じゃあ、どうするの?」

「一軒、当てがあるから、そこを覗いてみるか」



 勇者はそれだけ言うと、人目がない路地から地上に降りて町を歩き、魔王と来た酒場の扉を潜る。


「食べ物ならないぞ~」


 勇者が酒場に入ると、カウンターで座っているスキンヘッドの男が、見もしないで面倒くさそうな声を出す。


「オヤジ。酒を樽で(おご)ってもらいに来たよ」

「あんたは……」


 勇者の発言に、オヤジは「なんだこいつ」と振り返るが、勇者の顔を見ると立ち上がって近付く。


「戻って来たのか!」

「ああ」

「それで、姫騎士様は……」

「大丈夫だ。安全な場所で(かくま)っているよ」

「おお! 死んだと聞いたが、生きてなさったのか!!」

「死んだ? 誰がそんな事を言ったんだ?」

「大きな爆発があっただろ? 魔族の非道な兵器に巻き込まれたと、長兄様が言っていたんだ」

「爆発か……」

「そんな所で立ってないで座れ」


 オヤジは勇者をカウンターに誘導して自分も中に入る。それから棚の奥をゴソゴソして酒瓶を取り出すと、コップに注いで勇者の前に置く。


「奢りだ。と言っても、樽で出せるほど余裕がなくてな。いまは一杯で我慢してくれ」

「別に酒を飲みに来たわけじゃないんだ」

「そうなのか?」

「長兄の居場所に心当たりないか?」

「長兄様か……。そんな事を聞いてどうするんだ?」

「姫騎士と仲が悪いみたいだから、話し合いをしてもらおうとな」

「確かに……一緒にいる姿を見たとか、あまり聞かないな。だが、遅かったな。兵士を集めると言って爆発があった日に、帝都に帰ったぞ」

「帝都にか~」

「次兄様なら隣町に居るから、そっちに行ったらどうだ?」

「まぁ気が向いたら会いに行くよ。それより、兵士も居ないみたいだけど、みんな何処に行ったんだ?」

「ああ。あいつらか……」


 オヤジ(いわ)く、次兄は魔族討伐の兵士を連れて、ウーメラの町に旅立ったとのこと。その時、町の食糧をほとんど徴収され、町の者達は人族の領域に帰ろうかと考えているらしい。

 だが、それも難しい。森には魔獣が出るので、護衛の居ない今、戻る事も出来ずに途方に暮れているとのこと。


「それじゃあ、食べ物はどうしているんだ?」

「俺たち飲食店が隠し持っていた物を皆に配っているが、それもすぐに切れるだろうな……」

「そっか……」


 勇者は苦しそうに話すオヤジを見て考え込む。しばらくの沈黙の後、勇者は口を開く。


「さっき言ってた爆発……長兄が姫騎士を殺そうとしたと言ったら、信じられるか?」

「長兄様がか!?」

「それに、魔族の侵攻は王族の自作自演だったと言ったら?」

「まさかそんなこと……」

「まぁ信じられないだろうな」


 勇者の言葉に、オヤジは頭を撫でながら考え込む。


「いや……自作自演の噂はあった。突如、魔族に襲撃されたのに、あの場に大規模な軍隊が集まり、誰も魔族を見ていなかったんだ」

「その噂は事実だ。その町で暮らしていた者の話も聞いた。姫騎士も嘘で踊らされていた事に後悔して、死のうとしたんだ」

「姫騎士様が……どうしてお前は、そこまで詳しく知っているんだ?」


 オヤジの質問に、勇者は酒を一気に飲み干し、声を出す。


「俺は、魔族に協力している人族だ」

「魔族に!?」

「テレージア。出て来てくれ」

「は~い」

「よ、妖精??」


 勇者がショルダーバッグを開けると、テレージアはパタパタと姿を現す。


「見ての通り妖精だ。それに魔界には、エルフもドアーフも魔族に助けられて暮らしている」

「魔族って、野蛮なんじゃないのか?」

「人族より野蛮じゃないわよ。千年間、戦争もしないで平和に暮らしていたみたいよ」

「喋った!」

「喋れるわよ!」


 どうやらオヤジは、妖精に免疫がないようだ。そのせいでテレージアがご機嫌斜めになり、宥めるのに時間を取られる勇者であった。


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