表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/187

064


 爆弾を抱えた勇者が井戸に飛び込んだ瞬間、ミニンギーの町に大きな爆発音が響き渡る。それと同時に、衝撃と真っ直ぐ空に伸びる光が現れた。


 そう。真っ直ぐに伸びる光……


 勇者は井戸に飛び込み、着水したと同時に片手で水を掻き、一瞬で水底まで到着。そこで全身を使って爆弾に覆い被さり、爆発に耐えた。

 しかし、威力を全ては押さえきれずに勇者から逃れた爆発は、井戸の壁を数メートル削り、空に力が逃げる事となる。

 驚く事に、勇者はその爆発を喰らっても、水底から離れずに動かなかった。これも頑丈な勇者たる由縁。スキル【頑丈】に付随する【不動】が発動し、下から受けた攻撃でも地に体の一部を付けて踏ん張れば、1ミリも動く事はないのだ。

 しかし、町を二つも吹き飛ばす爆発では、その【不動】が(あだ)となる……


「ふぅ……なんとかなったな」


 あ、ピンピンしてるんだ……。勇者は爆発の威力を全て耐えきって立ち上がる。


「でも、井戸が十倍くらい大きくなったか……これは、サシャに怒られるかな?」


 勇者はルンルンと井戸だった穴から這い出す。どうやら、魔王に怒られたいみたいだ。気持ち悪い……


 その後、町の破損に目をやりながら南に歩いていると、魔王と姫騎士が走って来た。


「お兄ちゃん! お兄ちゃ~~~ん!!」


 取り乱した魔王は走り寄ると、勇者に抱きつく。


「サ、サシャ? ど、ど、ど、どうした?」


 魔王に抱きつかれた事によって、ヘタレ勇者は凄く取り乱す事となった。


「うぅぅ……うわ~ん」

「姫騎士? サシャはどうしたんだ?」


 勇者は話の通じない魔王への質問を、姫騎士に変える。


「それだけ心配していたと言う事だ」

「そうなのか?」

「あの爆発の威力で、原型を留めているほうがおかしいのだからな?」


 姫騎士は勇者の頑丈さに呆れ気味。勇者はその言葉を聞いても、ピンと来ないみたいだ。


「それと……服を着ろ!」


 当然、爆発に巻き込まれた勇者の旅人の服は耐えられず、全裸となっている。姫騎士は目のやり場に困っているのだから、いつも気付かず歩くのはやめたほうがいい。


「サシャ? 少し離れてくれないか?」

「うわ~ん。無事でよかったです~~~」

「姫騎士~~~」

「少しそのままでいてやれ。私は魔王殿の代わりに、事の収拾にあたる」

「……わかった」


 姫騎士はそれだけ言うと、南に向けて駆けて行く。勇者はどうしていいのかわからずに、魔王に抱き締められて直立不動。緊張に気を失わないでいるのがやっとだ。

 しばらくその態勢で待っていると、魔王は徐々に落ち着き、涙を拭う。


「本当に、無事でよかったです……」

「心配かけてすまなかったな」

「いえ……」

「そろそろ離してくれないか?」

「え? きゃっ」


 魔王はようやく全裸の勇者に抱きついていた事に気付き、飛び退くが、そのせいで、勇者のアレを見てしまったようだ。


「す、すみません!」

「あ、ああ」


 勇者は目を逸らす魔王を横目に、アイテムボックスから取り出した旅人の服に袖を通す。

 着替えが終わると、魔王を気持ち悪いくらい舐めるように見てから話し掛ける。


「サシャは、怪我はなかったか?」

「はい。爆発が起こったら、姫騎士さんが覆い被さってくれたので、怪我はありませんでした」

「それじゃあ、姫騎士が……」

「あ、それも大丈夫です。偶然、瓦礫の間に入ったので、怪我は無いと言っていました」

「そっか……でも、町が少し壊れたな。もう少し、早く移動していたら……」

「そんなの直せばいいだけですよ! あの爆発で、これだけの被害だっただけでも幸運です。お兄ちゃん……ありがとうございます」

「あ……」


 魔王はお礼を述べると、勇者に抱きつく。当然、勇者は抱き締める事は出来ずに直立不動。こんな時ぐらい、ヘタレじゃないほうが絵になるのに……

 その後、魔王は戦の後始末に向かうと言うので勇者も同行し、魔族、人族関係なく、怪我の手当てにあたる。


 応急処置が終わると、人族兵は一時幽閉。魔族も疲れているので夕食をとると、見張りを残し、空き家にて眠りに就く。

 魔王や四天王も連戦にこたえたのか、会議を行っていた家で眠りに就いた。


 勇者は眠りに落ちた皆に、毛布を掛けて会議室を後にする。そして家の前に座り、アイテムボックスから取り出した薪に火を付ける。

 そうしていると、何度か魔族の者が報告にやって来る。勇者はその報告を聞いて指示が必要ならば、皆を起こさない為に独断で指示を出す。

 幸い、簡単な内容だったので、勇者にも対応できたようだ。



 こうしてミニンギーの戦いは終わり、夜が静かに更けていくのであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ