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061


 ミニンギーの町へ向けて魔族軍と共に前進していた魔王は、南門に向かった勇者の動向を注視していた。


「あ! もう壁に通路が出来ました」

「あの分では、中はパニックになっているだろうな」


 姫騎士の予想は正解だ。人族軍は開いた穴を塞ごうと、馬車に家財道具を集め、必死に塞ごうとしている。さらに走り回る勇者も追い掛けないといけないので、てんてこ舞いになっている。


「あとは弓矢をかわして、穴に辿り着くだけですね」

「それもコリンナの策で問題ないだろう」


 前進する魔族軍は、馬車や荷車を押して進んでいる。ただし、馬車の後部と上部には、土魔法でコーティングしてある。荷車には、中心に土魔法の壁を乗せてあるので、弓矢では穴を開ける事は難しい。



「あ! あそこ。魔法を使おうとしているよ」


 魔族軍が順調に前進していると、目のいいフリーデが声を出す。


「エルフさん達が間に合ったみたいですね」

「枝を切るだけの魔法と言えど、便利なものだな。威力は弱いが無詠唱で数を撃てるから、強力な魔法の邪魔が出来る」


 魔族の盾を破壊しようとした魔法使い達は、エルフの風魔法【剪定(せんてい)】に邪魔をされ、呪文が一旦止まったようだ。背の高い木に付いた実や枝を落とす為の魔法なので、壁の上にいては、格好の的になっている。


「そろそろだな」


 南門に迫る中、姫騎士が呟く。


「ですね。姫騎士さん。お願いします!」

「おお!」

「俺達も行くぞ!」

「うんだ!」


 魔王の言葉を聞いた姫騎士とレオン、ミヒェルは、ゆっくり前進していた本陣から駆け出し、馬車や荷車を盾に使いながら最前線に移動する。

 そこは南門の目の前、弓矢の雨が降る危険地帯。そこへ到着した姫騎士は、大声で指示を出す。


『お前達、出番だ! 突撃~~~!!』

「「「「「おおおお!!」」」」」


 魔族軍に加わった人族兵は、馬車の中から飛び出すと盾を構え、一気に門に向けて走り出す。四天王の二人も負けじと声を張りあげ、ミヒェルは大鍋を盾に、レオンは大剣を盾にして弓矢に耐えながら走る。

 一番先頭を走るのは姫騎士。驚く事に、迫り来る弓矢を刀で斬り落として進んでいる。


 当然、一番乗りは姫騎士。刀を構え、必殺技を繰り出す。


「奥義……【真空突き】!!」


 姫騎士が放つは、突進突き。突きによって真空を(まと)った刀は、穴を塞ぐ馬車を軽々と貫き、余波の突風で辺りを吹き飛ばす。

 吹き飛ばされた人族兵はすぐに立ち上がり、姫騎士を取り囲もうとするが、少し遅い。魔族軍が続々と穴を通り、姫騎士を守るように立つ。


 その後乱戦となるが、素早い姫騎士の動きに翻弄(ほんろう)され、魔王軍が優勢に戦う。レオンは大剣の腹で人族を吹っ飛ばし、ミヒェルも(くわ)で吹っ飛ばす。

 どちらも直接斬る事は出来ないようだが、それでも力が強い二人は、強力な戦力となっているようだ。


 その乱戦の間も、南門に魔族軍が進入して行き、余裕が出来た姫騎士は私兵を連れて壁を駆け上がる。

 そうして弓隊を斬り伏せ、町へと突入する魔族軍の援護に回るのであった。




 一方その頃勇者は、西門に向かう途中、指示のあった壁に数ヵ所穴を開け、西門の左右にも穴を開け終わる。

 それが終わると東に走る。その間も人族兵に抱きつかれるが気にせず走り、東門にも穴を複数開け終わる。


「ふぅ。これで穴は終了だな。魔族も近くまで来ているし、俺も次の仕事に移るか」


 勇者は独り言を呟くと、四方から抱きついている兵士に語り掛ける。


「なあ? 無意味な事はやめてくれないか?」

「無意味な事とはなんだ!」


 勇者の言葉に、兵士は怒声で応える。


「ほら? 穴に魔族が近付いて来たぞ。それに壁にも魔族が登っているから、攻め落とされるのも時間の問題だ」

「くっ……」


 兵士は迫り来る魔族軍に目を向けて、悔しそうな声を漏らす。


「ところで、長兄が何処に居るかわかるか?」

「誰が言うか!!」

「そうか~……あまりこんな事はしたくないんだがな~」


 勇者はそう言うと話をしていた兵士を引き剥がし、脇から手を入れ、高く持ち上げる。


「な、何をする!」

「たかいたかいだ。親父にしてもらった事ないか?」

「それがなんだと言うんだ!」

「こう言うことだよ。たかいたか~い!」

「ぎゃ~~~!」


 勇者は暢気な声を出して、兵士を空高々と放り投げる。すると兵士は叫びながら空を飛び、声は急速に離れて行く事となった。


「それで、誰か長兄の居場所を知らないか? それとも、同じ事をされたいか?」


 勇者が空を見上げる兵士に質問を投げ掛けるが、返事がない。仲間が何処に行ったか気になって、それどころでは無いようだ。

 しばらくして兵士達は空を指差し、視線が下がる事となる。放り投げられた兵士が落ちて来て、勇者の腕にすっぽりと収まったからだ。

 落ちて来た兵士には、勇者が腕と膝をクッションにして受け止めたので、体へのダメージは軽微だったが、心へのダメージは大きく、失神してしまったようだ。


「あちゃ~。気絶したか。お~い、起きろ~」


 勇者がぺちぺちと頬を叩くと、兵士は飛び起きる。


「ぎゃ、ぎゃ~! ……ん? さっきのは……夢か」


 どうやら空を飛んだ恐怖は悪夢だと、脳が言い聞かせているようだ。心底ホッとしている兵士に、勇者は追撃を仕掛ける。


「覚えてないのか? じゃあ、もう一回だな」

「……へ?」


 勇者が再度、兵士の脇に手を入れて持ち上げると、兵士は脂汗を(したた)らせて記憶がフラッシュバックしたようだ。そんな兵士は無情にも、高く放り投げられる。

 ただし、今回は5メートぐらいで留めたが、それだけで刻まれた恐怖を思い出し、地に足を着けた兵士はぺらぺらと長兄の居場所を語る。


 そのおびえた姿を見た兵士達は、次は自分かと恐怖し、勇者を取り囲むだけで触れる者がいなくなった。


 勇者が東門で騒いでいたおかげか、魔族軍は労せず町へと入り、数の有利を使って人族兵を制圧していく。


「おっと、ゆっくりし過ぎたな。急ごう」



 勇者は雪崩れ込む魔族軍を横目に、町の中央に向けて走るのであった。


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