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『皆さん。お疲れ様です! 我々魔族の完全勝利で~~~す!!』

「「「「「わああああ」」」」」


 掃討戦も滞り無く終わり、向かって来る人族が居なくなると、魔王は勝利宣言を告げる。すると魔族達は喜びの声をあげ、隣の者と抱き合う。


『喜んでいるところ申し訳ありませんが、もうひと働きしてください。泥で動けない人族の方の救出、壁の外で怪我をした人族の方の手当て。四天王の皆さんの指示を聞いて、手分けして取り掛かってください』


 勝利で浮かれる魔族に対して、敵であった人族の手当てを優先させる魔王。攻められ、怪我をした者が居る魔族だが、元より優しい性格なので素直に従い、親身になって人族の手当てにあたる。

 各魔族のメイジは魔王主導で泥を固める作業にあたり、足場を固めてから人族を救出する。泥から救出された人族は、一人あたり魔族が四人で対応。両脇から抱える二人と、ピッチフォークを構えてもしもの反抗に備える。

 壁の外で倒れている人族には、勇者と姫騎士が護衛にあたり、ミヒェルとレオンの指示の元、命の危険な者にはテレージアたち妖精が直接治療し、そうでない者は回復魔法で応急手当て。その後、担架に乗せて運ばれる。


 連行される人族は、怪我の無い者は百人一組で土の檻に入れられ、怪我を追っている者は応急手当をされて、違う檻に入れられる。

 その時、魔族が人族に一声掛けていたが、(さげす)む言葉ではなく、「汚れたまま入れてごめんなさい」とは、どこまでも優しい種族だ。


 そうして日が完全に落ちる前に作業が終わり、約三千人の人族が檻に入る事となった。


 魔族は宴会といく気分では無いのか、しんみりと夕食をとり、見張りを残して、早々に就寝して行く。



 その様子を見ていたコリンナが、魔王に質問する。


「こう言う場合って、浮かれて宴会とかするんじゃないの?」

「そうなのですか?」


 魔王は聞かれてもわからないのか、姫騎士と勇者に振る。


「まぁ戦で勝利を掴んだら、酒を振る舞ったりするから、自然と宴会になるかな?」

「俺も勝利した夜は、遠巻きに妹の酒に付き合っていたな~」

「勇者のそれは、一人で飲んでいるのと変わらないから!」


 テレージアのツッコミは的確で、皆は苦笑いで応え、勇者はしゅんとする。そんな中、魔王が口を開く。


「幸い、魔族の皆さんは傷を負っただけですが、人族の方々には死者が出てしまいました。とてもじゃないですけど、喜べません」


 魔王の発言に、四天王は(うなず)く。これが魔族の総意なのだろう。しんみりした空気の中、姫騎士がポツリと呟く。


「そうか……だが、それが戦争だ」

「戦争……人族の方は、どうしてこのようなひどい事が平気で出来るのですか!?」


 姫騎士の呟きに、魔王が声を荒げて質問する。


「欲しいのだろうな……」

「何が欲しいのですか!」

「土地、食糧、奴隷……全てだ」

「欲しかったら、奪っていいのですか!」

「ただ奪うのではない。大義名分を持って奪うのだ。今回ならば、魔族が侵攻して来たから、守る為に奪うのだ」

「そんな事はしていません!」

「わかっている。わかっているとも。ただ、欲している者は、大義名分と言う正義を持って奪うのだ」

「それの何処が正義なのですか……姫騎士さんも正義だと思うのですか?」

「私は……間違いだと思う。だが、人族は千年間、そうやって生きて来たのだ。奪い、奪われ、憎しみ合い、平定した。だが、平和が来ると、外に求めざるを得なかったのだろう」

「ひどい……」


 魔王は姫騎士の話を聞くと、大粒の涙を(こぼ)す。


「すまない……人族を代表して、謝罪する」


 姫騎士は立ち上がると、深々と頭を下げる。


「ぐずっ……違うんです」

「違う?」

「千年間も憎しみ合って暮らしていた事を想像すると、自然と涙が……。人族の皆様は、大変な苦労をして来たのですね。ぐずっ」

「……そうだ」

「姫騎士さんは、その様な歴史をどう思うのですか?」

「ひどいと思うが、積み重なって私が生まれた。要は、その歴史を繰り返さないようにするのが課題だろう」

「繰り返しているのですが……」

「私一人では限界がある。せめて男に生まれていれば、玉座に座って改革を行えたんだがな」


 姫騎士が諦めた様に笑うと、勇者が口を挟む。


「じゃあ、姫騎士が王様になったらいいんじゃね?」

「我が国は、男が王を継ぐのが決まっているのだから無理だ」

「別に男だ女だとか、決め付けなくてもいいだろ? サシャだって女なのに、立派に魔王をやっているし、何より国民が望んでいるじゃないか」

「国民が?」

「俺達が出会った町の酒場のオヤジは、姫騎士に王様になって欲しそうだったぞ」

「確かに人気はあるが……」


 勇者と姫騎士の話を聞いていた魔王は、何やら閃いたのか、突如、大声を張りあげる。


「それ、いいですね! 姫騎士さんが王様になれば、戦争が無くなります!!」

「いや、我が国の法律は男系嫡男であってな……」

「そんなの関係無いです! 国民に愛される人が成るべきです!」

「愛されていても、私には力が無い……」

「勇者様がいるじゃないですか! 微力ながら、私も協力させていただきます!」

「いや……」


 姫騎士は皆の期待の(こも)る目を見て困る。


「仮に私が立ち上がるとして、これは人族の問題だ。優しい魔族に、これ以上血を流させるわけにはいかない」

「もう流していますよ。それに、姫騎士さんの国に変わっていただかないと、もっと多くの血が流れてしまいます」

「魔王殿……」

「ですから、姫騎士さんが王様になってください。お願いします!」


 魔王は姫騎士の手を握り、決意の目で見つめる。しばらく見つめ合う二人。その目に負けた姫騎士は口を開く。


「フッ。女王ならば、なってもかまわない。こう見えて、私も女だからな」

「あ! うふふふ。そうでしたね」

「「「「「あはははは」」」」」


 姫騎士渾身のギャグに皆は笑う。いや、人族と魔族の明るい未来が見えて笑い出したのであろう。

 その笑いは長く続き、姫騎士は、自分は男に見られていたのかと悩んだらしい。


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