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 精鋭騎士は一斉に斬り掛かると、剣は勇者の頭に当たり、肩に当たり、腕に当たり、足に当たり、硝子が割れるが如く、(ことごと)く砕け散る事となった。


「なるほどな。そんじょそこらの剣では傷も付かないわけか。ならば、わしの愛剣で相手をしてやろう」

「そんな古びた大剣でか?」

「これは彼のドアーフが打ち出した大剣だ。ドラゴンをも一刀両断に切り裂いたと言われる名剣。皇帝陛下から授かってからも、手入れを(おこた)った事はない!」

「ふ~ん……」

「とくと味わえ~~~!」


 ベルントは大剣を振りかぶると勇者の頭に落とす。勇者はいつも通り避けな……あ、避けた。勇者が避ける事によってベルントは空振りするが、力業で大剣を止めると、今度は地面と平行に大剣を振るう。


「フフ。やはり避けるか……」

「まあな」


 ベルントは避けられたにも関わらず笑い、勇者も素直に応える。そのやり取りの後、ベルントは気を引き締め、何度も剣を振るうがそれも当たらない。


「なかなか速いな。だが、これはどうだ! 【ブースト】」


 ベルントは攻撃が当たらないと見ると、肉体強化魔法を使ってスピードを上げる。そして、倍ほど上がった速度で、縦、横、斜め、勇者を何度も斬り付ける。

 しかし、勇者はその速度の中でも大剣を避け、徐々に間合いを詰める。


 かすりもしない攻撃に、ベルントに焦りが生まれたその時、勇者が行動に移す。

 ベルントが両手で振りかぶって大剣を落とそうとした瞬間、勇者は懐に入り、大剣の内側、頭に腕が当たる位置にまで接近する。

 すると、ベルントは止める事は出来ずに、腕を勇者の頭にぶつけ、大剣の重みもあり、両腕は逆に曲がる事となった。


「ぐあ~~~!」

「ごめんな~」


 ベルントが痛みに悲鳴をあげると同時に、勇者は小さく()びを入れる。そして、ベルントの手放した大剣を拾い、アイテムボックスに保管する。


「あんたのおかげで、いいお土産が出来たよ」


 どうやら勇者は、ドアーフの作った大剣を回収する為に避けていたみたいだ。

 その後、痛みにのたうち回っているベルントに近付き、薬草のような物を口に突っ込み、飲み込ませる。それが終わると咳き込むベルントを肩車をして担ぎ、両足を持って動けないようにする。


「痛みが引いた??」

「じゃあ、行こっか」

「何処に……うわ~~~!」


 ベルントは質問するが、勇者は答えずに走り出す。いや、答えはすでに言っている。


 勇者は魔王の待つ、パンパリーの町に向けて走り出したのであった。





 一方その頃魔王達は、押し寄せる人族兵を押し返し、大穴の開いた壁の修復に勤しんでいた。

 姫騎士は刀を振るい、人族兵を傷付け、ミヒェルは片手に大鍋の盾、右手に(くわ)を持って振り回す。フリーデは素早く動いては蹴り飛ばし、魔王とエルフは風魔法で傷付ける。その他の魔族もフォークを振って応戦している。


『姫騎士さん! ミヒェルさん! もう間も無く壁が閉じます。戻ってください!!』


 スベンから報告を受けた魔王は、撤退の指示を出す。


「ミヒェル殿。先に行ってくれ!」

「でも、姫騎士どんが~」

「私は大丈夫だ! 急いでくれ!!」

「す、すまないだ……みんな、壁に飛び込むだ~~~!」


 魔族が壁に続々入り、最後に塞ぐように盾を構えたミヒェルが飛び込むと、壁は完全に閉じてしまった。

 姫騎士はたった一人残され、人族兵に囲まれる。


「全員入ったな。奥義……【真空斬り】!」


 姫騎士が放つは、剣速を使った真空の刃。本来ならば鎧を着込んだ人間を真っ二つに出来る技だが、刀の峰で振るったおかげか、囲んだ兵士が吹き飛ぶ程度で済んだ。だが、骨は折れたのか、立ち上がる兵士は居ない。

 それを見て姫騎士は壁に走り、壁を蹴って飛び上がると、急いで戻って来たミヒェルによって引き上げられる。


「姫騎士どん。ありがとな~」

「礼を言うのは、まだだ。勝ってから、いくらでも聞いてやる」

「そ、そうだな。モォーーー!」


 ミヒェルは礼を遮られると、迫り来る人族兵に石を豪速球でぶつける。そのやり取りを見ていた魔王だが、周りの戦況を見て決断するかを悩む。

 人族兵は壁まで辿り着き、魔族のフォークや鍬で攻撃を受け、壁から弾き飛ばされている現状。

 残るか、引くか……魔王が悩んでいると、コリンナが叫びながら走り寄って来た。


「魔王さ~ん! もう無理~~~!!」


 その声を聞いて、魔王は決断する。


『全軍撤退! 足元に気を付けて、撤退で~~~す!!』


 魔王の指示を聞いた魔族は、徐々に壁を飛び降り、パンパリーの町に向けて列を組んで走り出す。壁に残った者は、登って来る兵士を撃退していたが、人族兵も魔王の言葉を聞いていたからか、壁を登る事をやめて兵士の損耗を減らすようだ。

 魔王達は動きの止まった人族兵を見て、壁から一斉に飛び降り、パンパリーの町に向けて必死に走る。殿(しんがり)に四天王や姫騎士を起き、エルフの風魔法で牽制しながら走る。


 人族は壁に梯子(はしご)を立て、仲間を踏み台にして壁を越えると、人員が(そろ)うのを待って、ゆっくりとパンパリーの町に向けて歩を進める。


 ついに魔族は壁を越えられ、戦いは最終局面を迎えるのであった。


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