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 風を巨大な槍に変えた【破城槌(バッティングラム)】によって、壁に大穴が開く事となり、壁から飛び降りた魔王達は瓦礫の下敷きになるのであった。




「魔王様~!」

「お姉ちゃん!」


 土埃の上がる中、ミヒェルとフリーデは心配する声をあげる。


「ミヒェルさんが守ってくれたから、大丈夫です~」


 魔族側の地面は、壁の建設時に材料にする為の土を少し掘っていたので、【破城槌(バッティングラム)】は魔王達の頭上を超えて霧散した。

 魔王が気の抜けた返事をすると、二人はホッとするが、安心している時間は無い。魔王は立ち上がるとすぐに指示を出す。


『先ほど攻撃した集団に近い人は、集中攻撃~~~! エルフさんも攻撃に参加して、穴に近付けないようにしてくださ~い!!』


 魔王は焦りながら指示を出す。すると、魔法使いの集団に弓矢と石が降り注ぎ、次の詠唱の邪魔をする。

 しかし、大穴が開いた壁には、多くの人族兵が駆け寄って来る。その者には、エルフの風魔法、【剪定(せんてい)】と言う名の枝切り魔法が襲い掛かる。

 人族は軽傷だが、多くの枝を切る為の魔法なので数が多く、迫り来るスピードは落ちた。


「姫騎士さん。穴が塞がるまでお願いします!」

「わかった!」

「オラ達も行くだ~!」

「うん!」

「「「「おお!!」」」」


 姫騎士に続き、ミヒェルとフリーデ、ピッチフォークを持った魔族が壁から飛び出す。ミヒェル達は壁の穴を塞ぐように並び、姫騎士は人族兵の先頭集団に駆ける。

 ちなみにレオンは、遠くの壁で指揮を取っているので手一杯。壁に手を掛ける人族兵がちらほら現れたので、動けないようだ。



「魔王様! お待たせしました!!」

「スベンさん! さっそく取り掛かってください。私も防御に力を注ぎます」

「はっ! 皆、やるぞ!!」


 魔王は壁に駆け上がると、【剪定】を近付く人族に放つ。魔力が多い魔王の【剪定】は、大きいので複数の兵士が吹き飛ぶ事となるが、習ったばかりで切れ味は低いようだ。


 スベンは両端に土魔法の使い手を配置し、徐々にだが壁を修復していき、その穴が塞がる速度に合わせて、壁の前に立つミヒェル達の並びも狭くなっていく。

 そんな中、人族兵の先頭集団に斬り込んだ姫騎士は、手足を狙って刀を振るい、戦闘不能に追い込んでいく。





 一方その頃勇者は、全裸のまま兵士を引きずって走りながら、最高指揮官である長兄を探していた。怒号の響く中、さらに走ると人族の本陣に辿り着く。


「えっと~……どれが長兄だ?」


 長兄を見た事のない勇者は素直に聞くと、周りから非難する声を浴びせ掛けられる。そこを髭を生やした男が声を出して止めた。


「静まれ~!」


 男の声に、兵士からピタリと声が消える。


「お! あんたが長兄か?」

「わしは長兄殿下ではない。将軍のベルントだ」

「違うんだ。じゃあ、用はないな」

「用はないだと?」

「ここで一番偉い人と会わないと、この戦いは終わらないだろ? 出来たら、長兄の居場所を教えてくれないか?」

「フッ。ナメられたものだな。帝国にベルント有りと恐れられているわしに、その様な口を聞くとは……」

「人族相手だろ? 魔族は、あんたの事は知らん」

「フハハハハ。確かにそうだ。だからこそ志願したんだったな」

「笑っているところすまないんだが、急ぎの用があるから俺は行くな」

「待て!!」


 勇者が走り出そうとすると、ベルントは大声で止める。


「なんだ?」

「一人で本陣に斬り込んで来るお前ほどの男が、わしを素通りするのか?」

「いや……だから自慢されても、偉い人にしか用がないんだ」

「この軍を率いている、最高責任者がわしだと言ってもか?」


 再び走り出そうとした勇者は、その言葉を聞いて、ベルントをジッと見て質問をする。


「長兄はどうしたんだ?」

「長兄殿下は、すぐに白旗を上げる魔族など相手にしないんだと。わしに必ず町を取って来るように命令なさった」

「と言う事は……あんたを降参させれば、この戦いは終わりって事か?」

「いや。すでに命令はしてある。町を取るまでは帰る事は許されない」

「そっか~……でも、あんたがもう一度命令すれば、帰ってくれるんだろ?」

「わしは死んでも、そんな命令はしないがな」

「う~ん……あ!」


 勇者は腕を組んで考えると、何か閃いたようだ。


「とりあえず、こっちの代表の魔王と会ってもらうか。それから、帰るかどうか考えてくれ」


 自分で答えを出さずに、魔王に任せようと言う訳か……。まぁこの勇者では仕方がない。


「フハハハハ。敵陣真っ直中で簡単に言うのだな。貴様は強いようだが、そう上手(うま)く行くかな?」

「俺? 俺は弱いよ」

「歴史書で読んだ、四天王の最弱ってヤツか?」

「四天王でもないぞ」

「それほどの力があってか!?」

「その話はもういいだろ? 何か大きな音もしたし、急がせてもらう」

「フッ。ならばこちらも、命を差し出してもらおう。精鋭騎士!」


 ベルントの声に呼応し、勇者の前に五人の騎士が並ぶ。騎士は腰から剣を抜くと、勇者に向けて構える。


「あんたが来ないのか?」

「四天王でも無いのなら、わしが出る幕もないだろう」

「まぁいいや。さっさと連れて行く」


 勇者は、一歩、一歩ベルントに近付く。すると、精鋭騎士の一人が(うなず)いて、勇者に斬り掛かる。だが、勇者は避ける事もせずに、また一歩進む。


「なっ!?」


 もちろんそんな剣は勇者に傷すら付かず、簡単に折れ、ベルント達は驚きの表情を見せる。しかし、驚いたのも一瞬で、残りの精鋭騎士は一斉に斬り掛かるのであった。


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