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053


「皆さん! 配置に就いてください!!」

「「「はっ!」」」

「「おお!」」


 人族軍が前進する中、主要メンバーに指示を出した魔王も配置に就く為に、陣の後方に向けて動く。だが、ジッと見てる勇者に気付き、声を掛ける。


「お兄ちゃん。あとは頼みます。でも、怪我をしそうなら、逃げてくださいね」

「心配するな。任せておけ」


 勇者の言葉を聞いた魔王は頷き、ニッコリ笑って走り出す。勇者は……魔王の心配する言葉に感動してるっぽい。言ってくれるのを見つめ続けて待ってたくせに……




 しばらくして配置に就いた魔王は、音声拡張マジックアイテムを使って、魔族に攻撃の指示を出す。


『ぜんぐ~~~ん! こうた~~~い!!』


 はい? 後退するの? あ、魔族は列を組んで壁に向かって後退して行った。四天王も隊長達も、足元に気を付けて後退するように声を張りあげている。


 魔族の後退を見た人族は、歩調を速めるが、隊列を崩さないように進む。そんな中、勇者は一人、人族軍に向かって真っ直ぐ走る。


 魔族の軍が全て壁に入り終わると、壁を土魔法で塞ぎ、上に登った魔族が遠距離攻撃に備える。


 魔族軍の準備が着々と進む中、人族軍も着々と壁との距離が近付く。そこに、走っていた勇者が迫る。




 人族兵は一人で走っている勇者に気楽に構えて笑っていたが、最前列の兵士が接触するのを見て、慌てる事となる。勇者は槍を突き立てられても、走る速度を落とさず、吹き飛ばしながら進んで行くのだから、慌てても仕方がない。

 槍を受けても、剣で斬られても、火魔法で燃やされても、まったく止まらない勇者に慌てていた人族兵であったが、ついに冷静な指示が出る。


「攻撃は効かない! 掴め! 倒せ! 力で押し返せ~~~!!」


 小隊長の命令を聞いた人族兵は、剣や槍を降ろし、勇者に飛び掛かる。服は既に燃え尽きていたので、腕を掴み、足を掴み、腰に絡み付き、必死で押さえ付けようとするが、それでも勇者のスピードは落ちない。

 しかし、勇者の進撃を止めなくては、本陣に届いてしまう。だから人員を割き、行く手を阻む事しか手段が無い。




 勇者の突撃によって、人族軍中央は総崩れ。だが、五千人の兵の一部の者だ。両翼は勇者を無視して進み、壁へと近付く。


 すると、両翼でも動きがあったようだ。


「アハハハハ。なに、アレ~~~」


 両翼で起きた事態を見て、テレージアの高笑いが響く。テレージアを肩に乗せていた魔王は、うるさくていい迷惑のようだ。


「テレージアさんは会議に居なかったから知らないんですね。アレも作戦の一環です」

「兵士が勝手に、こけてるのが作戦なの? あ! あそこ将棋倒しになった。アハハ」

「そうです。コリンナさんの指示で土を軽く掘って、あの辺から壁まで、(つまず)きやすくなっています」

「あ~。だからみんな、気を付けて歩けって言っていたのね」

「はい。と言っても、魔族の皆さんは土に慣れていますので、こけそうな場所は見分けがつくようです」

「ふ~ん。人族がアホなだけなのね」

「アホかどうかはわかりませんが、こちらの兵を逃がしたので、焦って追って来たのも気付かない要因になっているはずです」

「コリンナって、こすい事を考えるのね」

「そんな事を言ったら、コリンナさんに悪いですよ!」


 テレージアの台詞に、魔王はコリンナを擁護するが、作戦会議の席で魔王達がそっくりそのままコリンナに言った台詞だ。だが、コリンナを怒らせた事には反省しているようだ。




 人族兵がこけては歩きを繰り返していると、今度こそ魔王が攻撃の指示を出す。


『射程に入りました! 皆さん、発射準備~~~!』


 魔王が突如叫ぶものだから、テレージアは耳を押さえるが、さすがにこの状況では文句を言う事はなかった。

 魔王の叫びを聞いた魔族兵は、壁の上に立ち、弓を引き、石を握り、遠距離攻撃の準備をする。


『放て~~~!!』


 そして、魔王の合図で、弓矢や石礫が人族軍に降り注ぐ。


『二射目、三射目、各自の判断に任せます! 撃って撃って撃ちまくってください!!』

「「「「「おお!!」」」」」


 魔王の指示を聞いた魔族は、とにかく撃ちまくり、投げまくり、人族軍は滅多撃ちとなって倒れる者が現れる。

 だが、人族軍もやられているばかりではいられない。


 反撃だ。


 盾に隠れ、弓を引き、魔法を放つ。その攻撃にさらされた魔族は壁から落ちる事となった。


 魔王は姫騎士と、ミヒェルの持つ大きな鍋の盾に守られるが、魔族の倒れる姿を見て、唇を強く噛み、次の指示を出す。


『重症者は下げて交代要員、壁に上がってください! テレージアさんは妖精さん達と、手当にあたってください!!』


 魔王は矢継ぎ早に指示を出すと、戦況を見守る。テレージアは妖精達と合流し、【癒しの風】で重傷者を治す。だが、数が多いので、本当に危険な者だけを治し、残りは魔族の回復魔法が行える者に応急処置を任せ、完全回復はあとに回す。

 壁の上から数が減った魔族は、後方から走って壁に登り、遠距離攻撃に加わって人族に石を投げる。



 魔族、人族ともに、遠距離攻撃で徐々に損耗する中、人族は徐々にだが壁に迫る。


「魔王殿! 合同魔法が来るぞ!!」


 壁に近付いた人族は射程範囲に入ったのか、魔術師が集まり、魔力が集まる。姫騎士は相手の戦術を知っていたので、会議の席でやりそうな事は魔王に伝えてある。


『六班! 飛び降りて伏せて~~~!!』


 それだけ言うと、魔王達も壁から飛び降り、頭を抱えて伏せる。その直後、合同魔法が完成した魔術師から【破城槌(バッティングラム)】が放たれる。


「きゃ~~~!!」


 風を巨大な槍に変えた【破城槌(バッティングラム)】によって、魔王の悲鳴と共に、壁に大穴が開く事となるのであった。


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