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051


 姫騎士は勇者の捕らえて来た五人の兵士を牢屋に案内して鍵を閉めると、勇者の元へ戻り、声を掛ける。


「少し頼みがあるのだが……」

「頼み? また刀が欲しいのか!?」

「いや、今回は別の物だ」

「それでも何か取るんだな……」


 勇者は姫騎士のカツアゲに、ジト目で返す。その目にいたたまれなくなった姫騎士は慌てて弁解する。


「ちょっと変装したいだけだ。相手は私の顔を知っているから、バレると立場が悪くなるのだ」

「立場なんて寝返ったんだから、もう関係ないだろ?」

「ここだけの話にしてくれるか?」

「どんな服が欲しいかをか?」


 真面目な話をしているのに、勇者は茶化す。いや、親切に聞いているだけっぽい。だが、姫騎士は茶化されたと思って、怒るように声を出す。


「ちがっ! 戦争の終結の話だ!!」

「終結?」

「和解をするとして、父上と話し合うには間に入る人物が必要だろ? そのパイプが魔族と一緒に戦っていましたじゃ、父上だけでなく、国民にも示しがつかない」

「それならサシャに言ってもいいじゃないのか?」

「いや、私はあまり父上に好かれていないから、失敗する可能性のほうが大きい。その結果、落胆させる事になるかもしれない。でも、少しでも可能性があるなら、賭けてみたほうがいいだろう」

「なるほどな。わかった。秘密にするよ。でも、服がな~」

「どうせ妹殿に、いろいろ持たされているんだろ?」

「服は匂いを()ぎそうとか言われて、預けてくれなかった」

「あ……あ~~~~~」


 姫騎士納得。勇者が妹の服をクンクン嗅いでいる姿を容易に想像出来たようだ。


「あ! 和の国の着物ならいっぱいあったな。確か、色が綺麗でたくさん買ったけど、着付けが面倒とかで、いつか着るかもと預けてくれた」

「いつか着るなら絶対に着ないぞ! それを見せてくれ!!」

「そうなのか?」

「女性の常套句(じょうとうく)だ。貴族の娘なんて、そんな服ばかりでクローゼットを埋めているぞ」

「じゃあ、姫騎士もいっぱい持っているのか?」

「王族だから、まぁいちおう……ドレスなんかは、着ないままクローゼットの肥やしになっている」

「ふ~ん。そんなモノなのか~。でもな~」


 なかなか首を縦に振らない勇者に、姫騎士は最終手段をとる。


「わ、わかった! 踏めばいいのだろ!!」

「別にそんな事を言っているわけでは……」

「では、魔王殿にも着てもらうってのはどうだ? 私が説得してやろう」

「サシャに? 見たいかも! ……それって、俺が頼めば着てもらえるな」

「ゴチャゴチャうるさ~い!」

「あ、この感触……」


 勇者は姫騎士に蹴られるとご満悦になって、着物を十着ほど取り出す。どうやら、妹にケツを蹴られて喜んでいたようだ。

 それで喜ぶ勇者にドン引きしながら、姫騎士は着物を抱き抱えると、走って馬車に逃げて行った。よっぽど気持ち悪いのであろう。


 その後、勇者は余韻を楽しんでいると夜が来て、幸せな気分のまま壁で眠りに落ちる。





 その深夜……


「お兄ちゃん……お兄ちゃん……」

「ん、んん~……サシャ?」


 勇者は魔王に揺すられ、目を覚ます。


「起こしてすみません」

「サシャなら許すよ!」

「本物じゃないですけどね~」

「そうだな……。本物じゃないな……」

「あ! 本物になれるように頑張りますので、そんな顔をしないでください」


 魔王の言葉に勇者は顔を曇らせると、すぐに慰められる。しかし、魔王も同じように顔を曇らせてしまったので、勇者は話を変える。


「それより、こんな夜中にどうしたんだ?」

「たいした用事ではないのですが……」

「……もしかして、怖くて眠れないのか?」


 勇者は魔王の震える肩に気付き、質問する。


「……はい。魔族の為とは言え、私が人を殺す事を指示するなんて、怖いです……」

「そうか。サシャは俺と一緒だもんな」

「妹さんは、魔族と戦う事は怖くなかったのですか?」

「どうだろうな。妹は、俺に弱味を見せた事が無いからわからない」

「強いのですね」

「いや、昔は泣き虫で、いつも俺の後ろに隠れていたぞ」

「そうなのですか……。どうやって克服したのでしょう?」

「魔法の才能、剣の才能に目覚めてから、人々の為に戦うんだって張り切り出したかな? その過程で感謝され、さらに自信をつけて行ったと思う」

「感謝……魔族の皆さんからは感謝されるでしょうが、人族の方からは恨まれそうですね」

「だろうな。でも、約束を破ったのは人族だろ? サシャが気に病む事じゃない」

「そう割り切れたらいいのですが……」


 魔王は勇者と話ながらも、さらに落ち込んで行く。しばらく静寂が辺りを包み込む中、勇者が口を開く。


「すまないな」

「え?」

「俺じゃなくて妹が来ていたら、サシャの願いを一人で解決してくれたんだ。俺に戦う覚悟があれば……」

「お兄ちゃんのせいじゃないですよ! 本来なら、私が解決しなくてはならなかったのです。それを関係ないお兄ちゃんを巻き込んでしまって、謝るのは私のほうです!」

「サシャは優しいな……。こんな使えない俺にまで優しくしなくていいんだぞ?」

「そんな事ないです! お兄ちゃんが居なければ、姫騎士さんやコリンナさんに、手助けしてもらえませんでした。お兄ちゃんのお陰で戦う準備が出来たんですよ」

「いや……俺は……」


 勇者は頼りない自分を責めようとするが、魔王は言葉で遮る。


「それに、これで良かったのかもしれません。条約があるから平和が続くわけでは無いと学べましたので、これを機に、魔族も変われます。妹さん一人で解決してしまっては、次からも勇者様に頼ってしまいますからね」

「……フフ」

「どうしたのですか?」

「俺が励まそうとしたのに、逆に励まされてしまった。サシャは立派な魔王様だな」


 勇者の言葉に、暗い顔をしていた魔王の目が、決意のこもった目に変わる。


「……そうです。魔王なのです! 弱気になってはいけないのです!!」

「魔王だからって弱気になってもいいだろ? 頼りにならない勇者だけど、それぐらいの話なら聞けるよ。泣き言を聞いて欲しかったらいつでも言ってくれ」

「お兄ちゃん……」

「妹に頼られているみたいで嬉しいからな!」

「もう! いい話が台無しです~」

「あはは。その顔もかわいいな~」

「ですから~~~……プッ。あははは」


 いつも通りの勇者の態度に、魔王は笑い出した。


「笑った顔もいいな~」

「もう~……明日は早いですし、そろそろ寝ますね。……お兄ちゃんも一緒に寝ますか?」

「……俺はここでいい。ゆっくり休んでくれ」

「?? そうですか。おやすみなさい……」

「おやすみ」


 魔王はモジモジしてベッドに誘ったが、二つ返事で誘いに乗ると思っていた勇者に断られ、不思議に思いながら馬車に戻る。


 魔王を見送った勇者はと言うと、最愛の妹に似た魔王に誘われた事によって、心ここに在らず。ほぼ気絶した状態で、会話を続けていたらしい……


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