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 魔族が壁建設を行って四日。準備に勤しんでいると、ついに人族が動きを見せる。馬に乗った兵士が数名現れたと報告を受け、魔王と主要メンバーは壁に移動する。


「三名だけですね。何をしに来たのでしょう?」

「戦場の偵察と言ったところだろう」


 魔王の質問に、姫騎士が答える。


「壁を見られましたけど、大丈夫でしょうか?」

「いきなり壁が出来ていれば驚くだろうが、壁があると報告を受けたら、対策は取るだろうな」

「では、どうしたら……」

「アニキ。全員捕まえられない?」


 魔王が心配する声を出すと、コリンナが勇者に指示を出す。


「かなり離れているからな~。全員となると運試しになる」

「一人でも捕まえられれば、新しい情報が手に入るし、それでいいよ」

「わかった。ちょっと行って来る」


 コリンナのお願いを聞いた勇者は壁から飛び降り、ゆっくりと騎兵に向けて歩く。騎兵は構えて逃げるかどうか悩み、一人で歩いて来る剣も帯びていない男なら、どうとでも対応出来るかと、ナメて動かず様子を見る。

 その様子を魔王達が眺めていると、勇者は片手を上げて挨拶をした。当然、怪しい男に対して騎兵は剣を向ける。だが、勇者はその剣を引っ張り、騎兵の一人は馬から落ちる事となった。

 すると、一人の騎兵が剣を抜き、勇者は斬られるが、まったく効かずにその男も馬から引き摺り降ろされる。

 最後の一人は、慌てて馬を反転させて駆け出すが、勇者のダッシュで追い付かれ、足を掴まれて地に降ろされた。


 馬から降ろされた兵士達は剣を構え、足を持って仲間を引きずっている勇者を斬り付けるが、それは愚策。剣は弾かれ、全員引きずられて魔王達の元へと連れて行かれる。



「一斉に別方向に逃げられたら無理だったけど、ラッキーだったな~」


 勇者はにこやかに戻って来たが、皆、微妙な顔で出迎える。


「ラッキーで片付けられる事なのか?」

「まさか無傷で捕まえて来るとは思わなかったわ」


 姫騎士は疑問を口にすると、コリンナが呆れて答える。


「お兄ちゃん! お疲れ様です」

「おう!」


 皆が呆れる中、魔王が(ねぎら)いの言葉を掛けると、勇者は気持ち悪い顔になり、さらにかっこいいところを見せようと、男三人を掴んだままひとっ飛びで壁に登る。

 また、皆に呆れた顔をされたが、勇者は気にしないでコリンナに話し掛ける。


「それでこいつら、どうするんだ?」

「素直に話してくれないなら、拷問でもして吐かせよっか?」


 コリンナの言葉に、青ざめる者がいる。そう……


「それはひどすぎるだ……」

「無抵抗の者をなぶるなんて、かわいそうだろう!」

「人族はなんて野蛮なのでしょう……」


 そう。捕まえた三人ではなく、四天王のおっさん三人だ。


「コリンナさん! それは人としてどうなのですか!」

「コリンナも、そっち側の人間だったのね……」


 ついでに魔王とテレージアも非難している。


「はあ? あんたたちの為にやるんでしょ! なんでオレが悪者になるんだ~! アニキー!!」


 さすがのコリンナもキレた。今まで無理難題を押し付けられていたのだから仕方がない。

 そして、勢いに任せて勇者に抱きつく。勇者がそんなコリンナを抱き締めると、嬉しくなって、誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)はどうでもよくなったみたいだ。


「はぁ。拷問の前に、対話をしてみよう」


 皆の慌てようを黙って見ていた姫騎士が、ため息まじりに口を開く。


「お前達、どこの部隊だ?」

「姫様!? どうして魔族の砦に居るのですか? まさか裏切り……」

「その通りだ。私は国を裏切り、魔族の側についた」

「何故、そんな事を……」

「それは……」


 姫騎士が自分の父親が犯した所業、魔族が優しい生き物だと懇切丁寧(こんせつていねい)に話すと、兵士は簡単に納得し、情報をペラペラと喋る。

 さらに自分も配下に入れてくれと言い出す始末。どうやら長兄よりも、姫騎士のほうがカリスマがあるようだ。


 魔王は捕まえた三人を姫騎士の下につけるが、コリンナが反対する。罠の可能性が否定できないと言うと、「疑い過ぎ」と四天王の三人から否定する声が飛んで来る。

 今回は姫騎士と魔王もコリンナの味方についたので、しゅんとしたのは三人のおっさんであった。


 念の為、捕虜の三人は新設した大きな牢屋に軟禁し、情報を仕入れた魔族は巨大馬車で会議を開く。


「どうやら、明日には本隊がお出ましになるようだ」

「予定通りですか……。確か、次兄さん達が遅れていると言っていませんでしたか?」

「上兄様は間に合わないと判断したのだろう。それ以前に集めていた兵士もいるし、戦わない魔族なら、余裕で勝てると考えているのかもな」

「そうですか……。では、明日に火蓋が切られるのですね」


 姫騎士と話し合っていた魔王は立ち上がると、皆の顔を見渡し、言葉を続ける。


「皆さん。明日は初めての戦闘です。怖いですよね? 私も怖いです。ですが、トップに立つ私達が怖がっていては、魔族の皆さんの士気に関わります。私も恐怖を押し殺しますので、皆さんも恐怖を顔に出さないでください。お願いします」


 魔王はそう言うと頭を下げる。その姿を見た四天王は顔を見合わせて(うなず)き、温かい言葉を掛ける。


「オラ達に任せるだ~!」

「俺も少し戦い方を習ったから大丈夫だ!」

「壁も、何度壊されても作り直してみせます!」

「お姉ちゃんは、わたしが守る!」

「皆さん……ありがとうございます。では、明日の作戦の最終確認をしましょう!」

「「「はっ!」」」

「お兄ちゃんは壁で待機して、また誰か来たら捕まえてください」

「わかった」


 魔王達が会議を続ける中、勇者は馬車から出て壁に向かう。テレージアも難しい話が嫌なのか、勇者に付き合うようだ。

 しばらく壁で待機していると、夕暮れ前に五人の騎兵が現れ、全員勇者に捕らえられて姫騎士に受け渡される。この兵士も姫騎士に(さと)され、寝返る事となるのであった。


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