004
巨大ホルスタイン、アルマの体当たりを喰らっても平気な勇者に、四天王の三人は魔族を救ってくれと懇願するが、勇者は即座に拒否する。
だが、三人のおっさんは諦めきれずに説得を繰り返す。
「その強靭な肉体があれば、人族ぐらい簡単に捩じ伏せられるだ!」
「そうだな。剣を使えないのなら殴ればいいんだ!」
「きっとやりようがありますよ!」
勇者は困り、頭を掻きながら三人の質問に答える。
「いや、俺は暴力が嫌いなんだ。だから、元の世界に帰る」
三人が説得を繰り返すが、勇者は聞く耳持たず。歩き出してしまった。三人は歩調に合わせて説得していたが、一向に止まる気配の無い勇者に、ついに実力行使に至る。
勇者の体に触れ、掴んで止めようとするが、力の強い勇者に引きずられる事態となった。
そのやり取りを見ていたテレージアは、魔王に指示を出す。
「魔王も行きなよ」
「ですが、帰りたい人を無理矢理留めるのは……」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! アルマの直撃を受けてピンピンしているなんて、四天王でも無理よ。間違いなく戦力になるわよ!」
「あ、アルマちゃん! さっきの衝撃で死んでしまったかもしれません。助けないと!」
「アルマはあたしが診るから、あんたは勇者を引き止めなさい。絶対に連れて戻るのよ!」
「……はい。アルマちゃんをお願いします」
魔王が勇者の元へ駆け出すと、テレージアはアルマに近付く。
「うっわ~。大きなたんこぶ。まぁ生きてるみたいだし、治す事は出来るわね。みんな、行くわよ~。集合魔法【癒しの風】」
テレージアが治療魔法を使うと、アルマのたんこぶはみるみる小さくなっていく。それと同時に勇者に追い付いた魔王は、説得の輪に加わる。
「勇者様、お待ちください。もう一度、我々魔族の話を聞いてくれませんか?」
「興味無い。いまはサシャの元に帰る事しか考えられない」
魔王の問い掛けは、勇者にバッサリと切り捨てられる。どうやったら引き止められるか悩んだ魔王は、空を見上げる。その瞬間、名案が浮かんだようだ。
「もう日が傾いております。いま出ますと、少し進んだところで野宿になりますよ?」
「向かう町は魔族が作ったんだろ? 人族の俺が泊まれないし、このままでいい」
「そうですけど……明日、私がお供すると言うのでどうですか? それでしたら、町で英気を養う事が出来ます」
「う~ん……」
「召喚してしまったお詫びに、食事やお風呂、寝室も用意させていただきます」
「そういえば、腹が減っていた……」
「決まりですね!」
「いや、アイテムボックスの中に……」
「さあ、行きましょう!」
魔王は勇者の腕を組むと、強引に歩き出す。ミヒェルとレオンが同じ事をしても通じなかったのに、さすがは魔王。二人の巨漢よりも力持ちだったみたいだ。
(む、胸が腕に当たってる! そういえば、この胸を揉んだんだったんだな……柔らかかったな~。いかんいかん。俺にはサシャがいるんだ)
……どうやらスケベな気持ちで、ついて行っている模様だ。
(あのだらしない顔……使えそうね)
テレージアはその姿を見て、何やら画策しているみたいだ。リビングアーマーでは表情は読み取れないが、人間の顔で言えば悪い笑顔を浮かべているのだろう。
こうして勇者は魔王城と呼ばれるログハウスに連行されるのであった。
魔王城に着くと、勇者はさっそくお風呂を勧められる。その間に、魔族は勇者を引き止める策を練るようだ。
円卓に着き、まずは四天王の三人から考えを述べる。
「やっぱり、必死でお願いするしかないだ」
「それはさっきやっただろ?」
「褒美を取らせましょうか……勇者様が喜ぶような物が魔界にあればですが」
「食べ物でどうだ?」
「一級品のメロンを贈れば、勇者も首を縦に振るだろう」
「いや、そんな物で喜ぶのなんて、お前達だけですよ」
「一級品のメロンだぞ?」
「相手は勇者様ですよ? 食べ飽きているに決まっています」
「それじゃあ何に喜ぶだ?」
「やはり伝説の剣や鎧ではないですか?」
「そんな物、どこにあるんだ?」
「古文書によると、ほとんどが鍬や農具に変わったと聞きましたが、鎧ならここに」
四天王の三人は、リビングアーマーのテレージアを見る。
「ちょ! 何よあんた達!!」
「それを勇者様に贈ろうと言う話ですよ」
「この見た目の割りにショボい鎧を? 昔は呪いや魔法で強化していたんでしょうけど、リビングに鎧を千年も飾っていたから、効果は抜けているわよ」
「残念です……」
テレージアは鎧を守れてホッとすると、代案を出す。
「それより、勇者を仲間にする、もっと効果的な方法があるわよ」
テレージアは意地悪そうな声で、勇者勧誘の方法を語り出すのであった。