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047


 壁の建設作業現場に向かった魔王一行は、さっそく建設の打合せに取り掛かる。


「コリンナさん。壁の厚みはこれでいいですか?」

「う~ん……次の作業もあるし、いまは薄くしてスピードアップ出来ないかな?」

「スベンさん、出来ますか?」

「確かに作戦を成功させるには、目眩ましが必要ですね。ギリギリの強度で急がせます」

「こちらはスベンさんに任せますね。テレージアさん達も、お手伝いお願いします」

「はっ!」

「わかったわ。この妖精女王様に任せなさい!」


 スベンと妖精達を残して魔王一行は次に移動する。壁は一キロは出来ていたので、その後方で作業をするようだ。


「ミヒェルさんは年輩の農夫さんと、スライムさん達と作業をしてください。通路を作る事は、忘れないでくださいね」

「わかっているだ。いつもやっている事と変わらねえだ~」

「あ、そうでしたね。では、あとは頼みます」

「おうよ!」


 四天王のミヒェルとも別れた一行は、町長に集めてもらった兵士と成り得る農夫の魔族達の前に立つ。

 総数二万。これで武器が扱えれば兵力になるのだろうが、残念ながら戦う事は出来ない。人族の兵士が四千人も居れば、易々と打ち破られるだろう。

 そんな魔族の前で、壇上に上がった魔王は備え付けの音声拡張マジックアイテムを使って演説を行う。


『皆さん、こんにちは。皆さんも知っての通り、魔界は人族の侵攻を受け、未曾有(みぞう)の危機となっております。今日より五日後、進軍の止まっていた人族が進軍するという情報を得ました』


 魔王の言葉を静かに聞いていた魔族は、進軍の言葉にざわめき出す。


『皆さんの不安な気持ちはわかります。私も不安です……ですが、強力な助っ人を雇いました。勇者様方。壇上に来てください』


 勇者達は出番があるとは知らずに(ほう)けていたが、魔王の見つめる目に負けて、壇上に上がる。


『こちらのお三方は人族でありながら、我々魔族に知恵を貸してくれる事となりました。コリンナさんが作戦を考え、姫騎士さんが、皆に戦い方を教えてくれます。さらに異世界から召喚した勇者様が見守ってくれます。だから大丈夫です! 皆で魔界の平和を取り戻しましょ~~~う!!」』


 魔王の演説に魔族は拍手喝采で応える。皆が静まるのを待って、小隊を結成するにあたり、隊長を募集し、魔族の為にやってくれる者は残るようにお願いして解散となる。


 残った者はおよそ百人の若者。ゴブリン、トロール、オーク、オーガ。オーガも人間とほぼ変わらず、立派な角は退化し、コブぐらいの角があるのみ。なので、帽子にファッション感覚で角を付けている。

 その若者達に武器を持たせ、軽く訓練し、二万人の兵を分けた隊で、訓練させようと考えたようだ。

 魔王は姫騎士を紹介すると、勇者と四天王のレオン残るように言って、壁の建設に向かう。




「では、ピッチフォークを使った攻撃方法を教える。皆、フォークを持ってくれ」


 姫騎士の言葉に魔族の若者はフォークを持ち、バラバラに集まる。準備が整うと姫騎士もフォークを持ち、実演を交えて槍術を見せる。

 姫騎士の実演は、実に簡単。突くと横薙ぎのみ。槍術を初めて使うのだから、難しい事は教えないようだ。皆もそれぐらいなら出来るようなので、素振りを続けさせる。


 姫騎士は歩きながら、振り方が悪い者にはアドバイスをし、一時間ほど続けさせると休憩。その後、勇者に作らせていた(わら)の人形の元へ皆を集める。


「皆の動きは良くなっている。しかし、人間を突くとなると勝手が違って来る。皆が優しい心を持っているのは理解しているが、相手は殺す気で剣を振って来る事もわかって欲しい」


 姫騎士は、顔が強張る魔族に優しく語り掛ける。


「いまから相手の動きを見せるので、その動きを目に焼き付けてくれ。勇者殿。宜しくお願いする」


 姫騎士は勇者に剣ほどの長さの棒を投げ、自分は槍の長さの棒を構える。


「俺は剣なんて使えないぞ?」

「わかっている。妹殿の見様見真似でいいので、打ち込んでくれたらいいだけだ」

「それぐらいなら……」


 姫騎士はお辞儀をしてから開始を告げる。勇者も真似をしてお辞儀をすると、剣を振り上げて構え、ゆっくりと姫騎士に近付く。すると、姫騎士の棒が勇者の胸の前でピタリと止まる。


「このように、剣を振り上げている状態は無防備に近い。そこを突ければ敵は止まる。次は振ってくれるか?」


 姫騎士は説明しながら勇者と離れる。距離が空くと勇者は先程より早く動き、剣を振り下ろす。すると姫騎士は後ろに下がって剣をかわし、剣が通り過ぎると同時に槍を突き出して止める。


「剣を振り終わった後も隙が生まれる。よく覚えておいてくれ。では、今の動きを頭に入れて、藁人形に槍を刺してくれ」


 姫騎士は喋り終わると藁人形の前に一列に並ばせ、号令と共に突進させる。魔族たちは汗を流し、一所懸命突進を繰り返す。そんな中、勇者は姫騎士に近付き話し掛ける。


「フォークは槍のように使うとして、(くわ)はどうするんだ?」

「問題はそれだな。振り回して使ってもらうしかあるまい」

「それしかないか~」

「……少し立ち会ってくれないか? 使ってみない事には、使い道もわからんからな」

「わかった」


 勇者は棒を持つと距離を取り、姫騎士は鍬を両手で持って構える。魔族は何か始まるのかと、手を止めて見つめている。


 姫騎士は一声掛けると距離を詰め、鍬を縦に振るう。勇者は喰らったとしても効かないが、鍬が壊れてもいけないかと素早く後ろに避ける。鍬が空を切ると姫騎士は止めきれずに、土に突き刺してしまう。

 鍬の尖端の重さに、姫騎士は少し考え、今度は短く持つと勇者の腹に突きを放つ。勇者はこれも素早く避ける。

 それを見て、次は打ち込んでくれるように頼み、振り下ろした勇者の棒を鍬の先端で受けると、腹に突きを放つ。勇者はまた、素早くかわす。


 姫騎士は簡単に避けられるのが気に食わなかったのか、スピードを上げて連続で突きを放つが、これも避けられてしまう。突きではらちが明かないと感じた姫騎士は、コンビネーション攻撃に切り替える。

 突きを二度放ち、後ろに跳んだ勇者に追撃。遠心力を使った回転横薙ぎが勇者に襲い掛かる。だが、勇者は足が地に着くと同時に後方に大きく跳んで距離を取り、空振る思わなかった姫騎士は回転に足をを取られて転ぶ事となった。



「大丈夫か?」


 勇者は姫騎士の元へ行くと、手を差し伸べて声を掛ける。すると姫騎士は手を掴んで起き上がる。


「ああ。それにしても、そこそこ速く動いたつもりだったが、かすりもしないとはショックだよ」

「アレで全力じゃないんだろ?」

「まぁな。でも、勇者殿も全力じゃないのだろ? 勇者殿に少し興味が出て来た。本気のお相手をしてくれないか?」

「いや。俺は戦えないからやめておくよ」

「まあまあ。そう言わず、少しは付き合ってくれてもいいだろ~?」

「ちょ、ちょっと待て……」


 勇者は止めるが、姫騎士は腰に帯びた刀を抜きながら怪しい笑みを浮かべる。どうやら姫騎士は、強い者と闘いたい欲求が強くあるようだ。


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