046
作戦会議の翌日、勇者が牛舎からログハウスに顔を出すと、皆、疲れ切った顔で動き回っていた。
「あ、お兄ちゃん! いいところに来ました」
勇者の姿を見た魔王は小走りに寄って来る。
「どうした?」
「お兄ちゃんに持ってもらいたい物があります。こっちに来てください」
勇者は魔王に手を引かれ、気持ち悪い笑顔で表に出ると魔王の指差す物を見る。そこには、ログハウスに入る時に見た農具の山があった。
「これ、お兄ちゃんの収納魔法に全部入りますか?」
「ああ。入ると思う。でも、鍬や鎌なんて、農業でもするのか?」
「違います! 武器が足りないから、これを使うしかないんです」
「そっか。ドアーフに頼んだのは昨日だもんな」
「お願いしますね!」
魔王はそれだけ言うと、ログハウスに走って行った。勇者が魔王を見送って、大量の農具をアイテムボックスに入れていると、姫騎士が外に出て来た。
「おはよう」
「おはよう。姫騎士も徹夜したのか?」
「ああ。雑用をしていたよ」
「姫様が雑用とは変わっているな」
「まぁな。それにしても、武器なんて持っていないと言っていたが、槍はあったんだな」
「これはピッチフォークと言って、刈り取った牧草なんかを持ち上げたりする農具だ」
「農具なのか……三又の槍だと思ったよ。それに頑丈そうだ」
「そうだな。あのドアーフが作ったんだから、伝説級の農具かもな」
「確かに強そうだ」
二人で軽口を叩きながら農具を入れ終わった頃、魔王が四天王とコリンナ達を引き連れて外に出て来た。
「お待たせしました! では、最前線の町、パンパリーまで行きましょう!!」
魔王の元気な言葉を受けて、一行は歩き出す。すると、ログハウスの窓から蝶の群れのようなモノがずらっと出て来た。
「ちょっと~! 置いて行かないでよ~~~!!」
妖精女王のテレージアだ。仲間を引き連れて追い掛けて来たようだ。
「あ……すみません。起こすのを忘れていました~」
「魔王! あんたがついて来いって言ったんでしょ~。もう治してあげないわよ!」
どうやら魔王は、薬箱を忘れたようだ。そのせいで、テレージア激オコである。
「ごめんなさい。テレージアさんを忘れるなんて、どうかしてました」
「フンッ。つぎ、置いて行ったら言うこと聞かないからね!」
なんとか落ち着いたテレージアや妖精達を一行に加え、今日も巨大ホルスタインアルマが引く馬車に揺られてひた走る。初めて乗る四天王も最初は騒いでいたが、徹夜の影響で、すぐに眠りに落ちたようだ。
元より移動時間を使って寝ようと考えていたらしい。勇者の許可は取らずに……
馬車の中は静かなもので、妖精達は暇なのか、キッチンを漁ってお菓子を貪り食っていた。もちろん勇者の許可なんて取らずに……
馬車の移動は順調で、途中、指示のあった町に寄り、魔王は農具やスライムを受け取る。それらを乗せた二台の馬車を繋いで出発すると、時々同じ方面に向かう馬車を追い抜き、昼過ぎに、パンパリーの町が見えて来る。
アルマを牛舎に預けると勇者は馬車を引き、町の門まで軽く駆ける。急ごしらえの壁に取り付けられた門に着くと、驚く門兵のブタ鼻の男に止められた。
なので勇者は、門兵に事情を説明すると馬車に入り、魔王一行を降ろしてアイテムボックスに仕舞い込む。
魔王の姿を見た門兵は丁寧に挨拶をし、町長のオークロードの屋敷まで案内してくれた。
「これはこれは魔王様。お待ちしておりました」
「町長さん。お疲れ様です。さっそくですが、進捗状況を聞かせてください」
「はい。指示通り、取り掛かっております。ですが、なにぶん人手が足りておりませんので、まだまだと言ったところです」
「わかりました。それではこれより、私が指揮を取ります。その参謀にコリンナさんを置きますので、コリンナさんの指示に従ってください」
「はい……え?」
町長はコリンナを見て、姫騎士や勇者に目を移し、観察するように見る。
「その者たちは、人族ではないのですか?」
「人族ですが、快く我々の味方になってくれた人族です。もしも、コリンナさん……姫騎士さんや勇者様を害する様な事が起きれば、魔王の私が許しません。わかりましたね?」
「は、はい!」
町長は疑問を口にしたが、穏和な魔王が珍しく語気を強めた事で、あっさりと引き下がる。その後、軽く昼食をとった魔王一行は、さっそく壁の建設作業現場に向かうのであった。