042
ドアーフに対して武器の交渉をしていた魔王だったが、馬車の発注をして帰って来たので担当を外される。なので、姫騎士が交渉に向かった。
「どうだ? 作れないか?」
「そうは言っても、この二百年、武器なんて作って来なかったからな~。作り方を知っている奴がいないんだ」
「そんな事を言っている場合しゃないぞ。それがないと戦えないんだ!」
「しかしな~……」
ドアーフは何か気付いたのか、姫騎士をマジマジと見る。
「あんた人族か!?」
「ああ。そうだ」
「なるほどな。魔王様が剣なんて作れと、なんで言うのかがわかった。野蛮な人族に唆されたわけか」
「野蛮? どう言う事だ!」
「俺らの先祖は、人族に作れと言われて武器を納品したのに、その武器を向けられて、金すら払ってもらえなかったんだぞ。その上、同族で戦争ばかりして血を流していたんだから、そりゃ、野蛮だと思うってもんだろ?」
「確かに我が国の歴史は、戦争の歴史で出来ているが……」
人族を野蛮と言われて声が大きくなった姫騎士であったが、ドアーフに論破され、声が小さくなっていく。その二人のやり取りを聞いていた魔王は、姫騎士を助ける為に間に入る。
「ドアーフさん。いまはそんな事を言っている場合ではないんです。武器を取らないと、我々魔族が滅びてしまう瀬戸際です。どうにかなりませんか?」
「魔王様……。確かに協力しないといけませんか。そうだな……せめて見本があれば打てると思います」
「本当ですか!? お兄ちゃん!」
魔王は勇者と話し合うとドアーフ達にも先に出ているように言って、会計に走る。外に出た勇者は魔王に頼まれた通り、馬車と剣を数十本取り出して待機すると、ドアーフに取り囲まれる。
「ふ~ん。変わった馬車だな。ここは……」
どうやらドアーフ達は、剣より馬車に興味津々のようだ。そんな中、一人剣を手に取る姫騎士の姿がある。熱心に剣を見る姿を気になった勇者は、姫騎士に近付く。
「ドアーフより、剣に興味を持っているな」
「その言い方はやめてくれないか?」
「騎士なら当然だろ?」
「まぁそうなんだが、ドアーフと言えば剣だと思うのだが、私がおかしいのか?」
「いや。俺の世界のドアーフは、剣と酒にしか興味が無かったから、俺も変だと思うぞ」
馬車にしか興味を持たないドアーフを見た二人は共感する。勇者と話し合っていた姫騎士だが、ひと振りの剣が気になったのか、鞘から抜く。
「変わった形の剣だな。片刃か」
「それは刀と言うらしい。妹のお気に入りだ」
「妹さんの物なのか?」
「ああ。妹の収納魔法に収まらなかった物を預かっているんだ」
「そうか。なら、私が借りる事は出来ないか」
「刀が気に入ったのか?」
「この刀身は素晴らしいからな」
「刀は扱いが難しいらしいぞ。剣とは違う切り方をするらしい」
「なるほど……」
姫騎士は軽く振って、刀の性能を確認する。それだけではわからないようなので、何か切ってもいい物を出してくれるように勇者に頼む。
勇者は少し考えると、アイテムボックスから木の棒を取り出し、片手に持って構える。
準備が整ったと見た姫騎士は一言掛けると、横一閃に刀を振るう。しかし、姫騎士の思い浮かべる結果にはならなかったようだ。
「確かに剣とは違うのだな。それぐらいの棒なら、剣で軽々と両断できるのだが、止まってしまった」
「だろ? でも、妹はこの刀でワイバーンの首を刎ね落としていたな」
「私には扱えないと言う事か……」
勇者と姫騎士が刀について話していると、ドアーフの一人が近付いて声を掛ける。
「引くんじゃないのか?」
「引く? どう言う事だ?」
「包丁だって、当てただけでは切れないだろ? まぁ重さで叩き切る方法はあるけどな。普通の包丁は引くか押すかして野菜を切るんだから、それと一緒じゃないか?」
「角度を付けて、引けばいいのか」
「たぶんな」
「ちょっとやってみる」
ドアーフのアドバイスを聞いた姫騎士は、何度か素振りをするとコツを掴んだのか、勇者に棒を構えるように頼む。
そして刀を斜めに振り下ろす。
「「……? お、おお!!」」
姫騎士の刀は、ひと振りで棒を通り過ぎた。斬れていない事に、勇者達が不思議に思った瞬間、棒の上部はゆっくりと斜めに滑り落ちた。
「凄い切れ味だな。斬った感触すらなかった」
「ちょっと貸してくれ!!」
姫騎士が刀身をジックリと見つめていると、ドアーフが大きな声を出す。姫騎士は不思議に思いながらも、刀を手渡す。
腐ってもドアーフ。刀の切れ味を見て、興味を持ったのであろう。ドアーフは刀をいろいろな角度から見て興奮した声を出す。
「この技法を使えば、包丁がさらに切れ味を増すぞ!!」
うん。腐っていたドアーフ。勇者と姫騎士も、最強の剣を作りたくなったと思っていたのか、目を見合わせて苦笑いをしているぞ。