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 お風呂に入って旅の汚れを落としていた魔王一行は、ひと悶着はあったがお風呂を済ませる。勇者もお風呂から上がると、魔王の部屋に戻った。


「姫騎士は、もう寝たのか?」

「はい。泣き疲れて寝てしまいました」

「泣き疲れた?」

「先ほど少し話をしまして……」


 魔王はお風呂での会話を勇者に聞かせる。


「ふ~ん」

「それだけですか?」

「いちおうは協力してくれるって事だろ?」

「返事はしてくれませんでしたが、おそらくは……」

「じゃあ、よかったじゃないか」

「そうですけど、お兄ちゃんはもっと興味を持ってくれていいと思います!」

「その顔もいいな~」

「そう言う興味の持ち方は要りません!」


 魔王が怒れば怒るほど、勇者は気持ち悪い顔になる。なので、呆れた魔王は話を変える。


「それでさっき、お風呂から大きな音がしたのですが、何をしていたのですか?」

「ああ。サシャを覗こうとして、コリンナに止められたんだ」

「はぁ……そんなところだと思いましたよ。でも、女の子と一緒に楽しそうに入っていたのですよね?」

「サシャが嫉妬してる!?」

「違います!!」

「いいんだ。お兄ちゃんは、わかっているよ」

「何もわかっていません! もういいです。私も寝ます!!」


 魔王は勇者との会話が面倒になったのか、布団を被って眠りに就く。勇者はその布団に潜り込もうと近付くが、やはり何も出来ずに、布団を壁に付けてから眠りに就き、テレージアは舌打ちをしてから魔王の布団に潜り込んだ。




 翌朝……


 魔王が目をこすりながら体を起こすと、目の前には正座をした姫騎士が待ち構えていた。


「ふぁ……おはようございます~」

「おはよう。今日より魔王殿の剣となり、仕えさせてもらう。宜しく願う」

「は~い。それでは、朝食を食べに行きましょうか。ふぁ~」


 魔王は姫騎士の(かしこ)まった挨拶を、軽く受け取る。寝惚けている魔王では、まだ頭が回っていないようだ。


「ちょっと待て! 私は人族を裏切る行為を、腹を(くく)ってしたんだぞ。もう少し、言い方があるってものだろ!!」


 そりゃ適当に言われたら、姫騎士も怒るだろう。


「え? あ……失礼しました。ふつつかな魔王ですが、末長く、宜しくお願いします」


 魔王も正座をし、手を付いて返すが、それもおかしい。


「結婚の挨拶か!」


 姫騎士のツッコミは正しい。だが、魔王はポカンとして、的確なボケが出来ないみたいだ。

 その後、勇者を起こすのだが、魔王は寝惚けた勇者に抱き締められる事となり、完全に目が覚める。


「お、お兄ちゃん! 離してくださ~い!!」

「う~ん。サシャ~……ちゅ~~~」

「ちょっ!? 寝惚けているのですか! 起きてくださ~い! ……あ、夢の中でもキスは出来ないんですね……」

「このヘタレーーー!」


 勇者は魔王を抱き締めたまま口を尖らせるが、魔王との距離はまったく縮まらない。おっさんテレージアは、怒りの妖精キックを炸裂させるが、顔に当たってもまったく効かないようだ。


「何をしてるんだか……」

「姫騎士さん。お兄ちゃんを起こしてくれませんか?」

「この変態をか……」

「お願いします!」

「わかった。フンッ!」


 姫騎士は勇者の顔面を踏みつける。すると勇者は……


「サシャ!?」


 何故か名前を呼びながら、飛び起きた。


「お兄ちゃん。朝ですよ」

「ん? 朝か……しかし、懐かしい起こされ方をしたような……」

「懐かしいって……まさか妹さんに、踏まれて起こされていたのですか?」

「ああ。優しいだろ?」

「どこがですか!!」

「靴ではなく、裸足だったからだ。さっきのもう一度やってくれないか?」

「ヒッ……」


 勇者が顔を姫騎士に向けると、姫騎士は小さく悲鳴をあげる。姫騎士だけでなく、一同ドン引きだ。あのテレージアでさえドン引きするとは……


「もう! 姫騎士さんを困らせないでください! 行きますよ!!」

「あ! 待ってくれ~」


 魔王はぷりぷりして部屋を出る。隣の部屋に行くと、コリンナたちはまだ寝ていたので起こし、はだけた浴衣を直してから宴会場に移動する。

 そこで食事をとりながら今後の予定を話し合うようだ。


「最低でも六日後に人族が攻めて来るのですが、どうしたらいいでしょうか?」


 魔王が皆に質問すると、姫騎士が答える。


「防衛に使っている町で、籠城戦をしたらどうだ?」

「あの町には、入り切らない人数の魔族を集めているのです。それで籠城は出来るのですか?」

「あ……確かにテントがずらっと並んでいたな。我が軍の十倍以上の人数がいたから、進軍を止めたってのもあったんだった」

「スベンさんの作戦が効いていたのですね!」

「スベンさんが誰かわからんが、一応はな。でも、魔族が戦う気配が無いとわかっているのだから、魔族より半分少ない兵でも圧倒できるだろう」

「そうなんですよね~。どうしましょう~」


 魔王が地図を広げてボヤくと、コリンナが地図を指差して声を出す。


「ここ。湖と崖が近くない? 壁を作ったらどう?」

「地図では近く見えるが、何キロもあるぞ。何日どころか、何年掛かるか……」

「そっか~」


 コリンナが案を出すが、姫騎士に即座に否定されて諦める。だが、魔王は何やら思い付いたようだ。


「……出来るかもしれません」

「本当か?」

「あ、でも農業大臣のスベンさんに相談しないと、実際はどうか……」

「出来るのなら、少しは光が見えるな」

「人数も必要ですから、一度、魔都に帰らないといけませんね」

「魔都か……」


 姫騎士は、魔都をどんな場所か想像するが、たぶんその想像はハズレだ。


 食事が済み、魔王達の話が(まと)まると席を立って宴会場を後にする。部屋に戻ると浴衣から服に着替え、旅館を出ようとするが、ドアーフの集団と会計が重なって待たされる事となった。



「サシャさんって、魔王よね? 順番待たなきゃダメなの? 急いでいるんでしょ?」


 なかなか終わらない会計に、コリンナが苛立つ。


「あ……そうですね。譲ってもらいましょう」

「そこはタダとかツケにしたらいいじゃない」

「あ~……聞いて来ます!」

「ちょっと待て。この人だかりって、ドアーフか?」


 魔王が女将に声を掛けに向かおうとすると、姫騎士が止める。


「そうですけど、どうかしましたか?」

「絶滅したと聞いていたのだが、ここには多く居るのだな」

「人族の土地から移住して来ただけですよ」

「そうだったのか……でも、これだけ居れば、武器も量産できるのではないか?」

「武器ですか……」

「どうした?」

「ドアーフさん達は、武器を作るのが嫌で移住して来たらしいので……」

「そんな事を言っている場合ではないだろう! 武器が無ければ戦えないじゃないか」

「そうでした! 相談して来ます」


 魔王はドアーフの一番年長者を見付けると、武器作りを掛け合う。そうして皆が見ていると魔王は渋い顔をし、しばらくすると、笑顔で帰って来た。


「どうだった?」

「それが武器を作るには作り方がわからないとおっしゃりまして、ダメでした」

「ドアーフが武器を作れない? じゃあ、なんで嬉しそうな顔で帰って来たんだ?」

「すごく揺れない馬車をお兄ちゃんが持っていると言ったら、ノリノリになって作りたいってなったんです!」

「「武器を作らせろ~!」」


 どうやら魔王は武器よりも、新しい馬車をご所望らしい。戦争中だと言うのに、そんな物の発注をすれば、そりゃ、姫騎士とコリンナに息の合ったツッコミをされるわけだ。


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