表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/187

037


 スカウトを成功させ、水竜のヒルデに乗り込んだ魔王一行の湖の移動は順調に……とは行かず、姫騎士が剣を抜いて魔王を問いただしている。


「サシャ殿! これはどういう事だ!!」

「移動手段ですかね?」

「そんな事は聞いていない! この水竜はなんだと聞いているんだ!!」

「えっと……友達と言いたいのですが、立場上、部下になります」

「部下……では、先ほどこの魔物が言った、魔王と言うのは間違いではないのか?」

「はい! 私が第三十三代魔王、シュテファニエです」

「なんだと……斬る!!」


 姫騎士はひとっ跳びで間合いを詰め、魔王に剣を振り下ろす。だが、隣に立っていた勇者が間に入り、剣を握って止める。二人の衝撃で剣は折れ、剣先は勇者の手の中に収まる事となった。


「邪魔するな~~~!」

「まあまあ。一旦、落ち着こうじゃないか」


 怒鳴る姫騎士に、勇者はのほほんと応える。


「落ち着いてられるか! 魔王が目の前にいるのだぞ!!」

「だから落ち着けって」

「そうよ。魔王が何か悪い事でもしたの?」

「したさ! 我が国の町をひとつ焼いておいて、何を言っている!」


 勇者が宥めるが、聞く耳持たず。テレージアも質問するが、火に油のようだ。すると魔王が、姫騎士の目をジッと見て語り出す。


「姫騎士さん。私ども魔族は千年前の条約に従い、平和に暮らしていました。なので、人族の皆様に迷惑を掛ける事は絶対にしておりませし、私がそんな命令をした事もありません」

「その様な言葉、信じられるか! 町に現れたゴブリンは子供を殺し、女を犯したんだぞ! トロールは男を殺し、町を破壊したんだぞ!!」

「我々魔族に、そのような野蛮な者は居ません! 畑を耕し、作物と語り、幸せに暮らしているのですよ!!」


 姫騎士は目に涙を溜めて魔族を非難するが、魔王も涙を溜めて魔族を擁護する。


「じゃあ、この水竜はなんだ! 隣の化け物はなんだ!!」

「ヒルデちゃんは、湖の管理をしてくれる職員です。優しい性格で、レタスが好物です」

「レタス?」

「お兄ちゃんは、私どもが異世界から召喚した勇者様です。ちょっと変わっていますけど、怖い人ではないと思います」

「勇者? いや、魔王が宿敵の勇者を召喚するわけがないだろう!!」


 姫騎士は、今度は目に見える化け物を非難するが、魔王の答えが思ったのと違い過ぎたのか、ややテンションが下がる。


「私は千年前に召喚された勇者様の子孫です。なので、異世界召喚の術も、受け継がれています」

「勇者の子孫が魔王??」


 姫騎士の疑問が膨らみ、ついに言葉が止まる。そこにテレージアが、口激に参加する。


「妖精女王のあたしも、その召喚に立ち会っているわ。でも、思っていたのと違う勇者が出て来てがっかりしてるのよ」

「がっかり?」

「だってそうでしょ? まったく攻撃できない勇者よ? だからこうして、わざわざスカウトにやって来たのよ」

「攻撃ができないのか……」

「それに魔族が森を抜けて人族に攻め行ったなんて、信じられないわ」

「ど、どこががだ!!」

「だって、私の実家を燃やしたのは人族よ。仲間も何人も捕まって、命からがら助けを求めたら、魔族は優しく助けてくれたんだからね」

「人族より魔族が優しい? そんなわけはない!!」

「ちょっといい?」


 姫騎士と魔王達の言い合いを、ポカンと見ていたコリンナが手を上げる。姫騎士は睨むが、魔王はどうぞと手を差し伸べる。


「オレ達は、燃やされたって言ってた町で、安い仕事を受けて生きてたんだよね。そこで変な男に依頼されてね。その依頼が体を緑色に塗って、町を練り歩けって依頼だったの」

「それって……」


 コリンナの言葉に、姫騎士は何かを気付いて顔を歪める。


「そうよ。オレは危険を感じて参加しなかったんだけど、緑色に塗られた友達は兵士に殺されたわ。さらにその兵士は何をしたと思う?」


 コリンナは一呼吸を置くと、姫騎士を睨みながら声を出す。


「町の者を殺して火をつけたのよ。オレ達はそれを見て、すぐに森に逃げたわ。きっとあんたが聞いた話通りになったんでしょうね!!」

「う、うそだ……」


 姫騎士は、コリンナの怒声に膝を突いて崩れ落ちた。当然信じられないのだろう。


 野蛮だと思っていた魔族が穏やかで、正義だと思っていた人族が悪だったのだから……


 姫騎士の絶望の顔を見た魔王は、掛ける言葉を失い、水竜に行き先を伝える為に離れる。勇者もコリンナに付き添い、優しい言葉を掛けている。




 水竜に乗ってどれぐらい時間が経ったであろう……


 ドボンと音が鳴り、皆は虫の報せか一斉に姫騎士を見るが、そこには姫騎士の姿は無かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ