表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/187

035


 キレる姫騎士がようやく落ち着くと、勇者は屋根の無い馬車を取り出し、魔王にも手伝ってもらって馬を繋ぎ、皆を乗せて出発する。

 勇者が御者になって馬車が走り出すと先程に続き、魔王と姫騎士から質問がやって来る。


「お兄ちゃん! なんですかこの馬車は!?」

「揺れが全然しないぞ! 何処で買えるのだ!?」

「何処でと言われても……」

「なんでこんなに揺れないのですか?」

「そうだ。馬車なんて、お尻が痛くなるのだぞ!」

「サスペンションとか言うのが、ショックを吸収するとかどうとか……」

「サスペンション??」

「マジックアイテムの一種か??」

「俺もよくわからないんだよな~」

「またそれか……」

「お兄ちゃんの、わからない事をわからないままにする癖は、直した方がいいと思います!」

「うっ……」


 魔王に怒られてしゅんとする勇者。


「かわいい……」


 もとい、ぷりぷりする魔王を見て喜ぶ勇者。二人に責められても気持ち悪い笑顔で返すだけので、結局、諦める事となったようだ。




 その後、追っ手から距離を取る為、日が落ちるまで馬を走らせて、魔王の生活魔法の光を頼りに野営に取り掛かる。

 今日は余っているスープとパンで腹を満たし、馬の世話をしてから皆は眠る。魔王は頑張って見張りをしていたが、明け方が近付くと眠ってしまったようだ。


 だが、何事もなく朝を迎え、馬車を走らせる。眠ってしまった魔王は反省し、朝から眠ろうと頑張っていたがなかなか眠れないので、今夜からは当番制となった。

 当番をする者は、出来るだけ馬車で眠るようにし、勇者と姫騎士で馬の操縦を代わる。


 この日も何事も無く一日が終わり、翌日の昼過ぎ……


 馬車を手に入れてスピードアップした事によって、予定より早くに隣町を視界に収める。


「これで金貨百枚の報酬を貰えるのよね?」

「ああ。必ず払うから心配するな」


 コリンナは心配するように尋ねるが、姫騎士は力強く返す。


「まぁこの数日、あんたの事は見ていたから、信用は出来るわ」

「王族を簡単に信用していいのか? 王宮なんて、陰謀(うごめ)く毒蛇の巣だぞ?」

「やっぱり、オレたちを罠にハメる気なの!?」

「ははは。冗談だ」


 姫騎士の笑い声を聞いたコリンナは、意外そうな顔を見せる。


「……あんたでも笑うのね」

「当たり前だろ」

「初めて見たわ」

「そうだったか?」


 姫騎士は意見を求めるように皆の顔を見るが、頷く姿を見て、照れながら笑いを隠す。もったいないと皆に言われると、怒り出した。

 今まで気を張っていたのだろう。この三日間の旅で、勇者達と接している内に仲間意識が芽生え、逃亡生活が楽しい旅へと変わった事が、姫騎士の笑顔を引き出したのだ。




 そうして馬車の中では明るい声が聞こえる中、ウーメラの町に到着する。勇者は道沿いに馬車を走らせ、町の門にまで進ませると門兵に止められる。すると、姫騎士が一人で馬車から飛び降りた。


「姫殿下!!」

「ご苦労。私の私兵に会いたいのだが、案内してくれるか?」

「あ、あの……」


 姫騎士の顔を見た門兵は驚きと喜びの顔を見せたのも束の間、顔を暗くする。


「どうした? 何かあったのか?」

「その……現在、姫殿下には国家転覆の謀反の疑いがあると言うので、次兄殿下から、この町に来た場合は捕らえろとお達しが下っていまして……」

「謀反だと!? 私がそんな事をするわけがないだろう!!」

「わ、わかっています。何かの間違いですよね」


 姫騎士が怒りを(あらわ)にすると、門兵は申し訳なさそうに弁解する。


「すまない」

「い、いえ。私なんかに謝罪はいりません」

「……そうか。では、私兵を呼び出してくれないか?」

「姫殿下直属の騎士も長兄殿下の召集に、しばらく前に最前線の町へと立たれました」

「私の兵が……何故だ?」

「次の町への進軍の日付が決定しましたので、魔界に居るほぼ全ての兵を集める模様です。それで断れなかったのかと……」


 黙って姫騎士達の話を聞いていた魔王は、進軍と聞くと、身を乗り出して声を出す。


「進軍はいつですか!!」

「一週間後と聞いています。ですが、最初の町からの応援が遅れているようですので、少し延びるかも知れません……あ、そちらの方達は?」

「私を助けてくれた者だ。進軍となると、私も急がないといけないな」

「長兄殿下からも、謀反が本当かどうかわかるまで、この町に滞在させるように言われているのですが……」

「なんだと!? それでは私の兵が……」


 姫騎士が再度大声を出すと、今度はコリンナが話に割って入る。


「それで、オレ達への報酬はどうなっているの?」

「あ……すまない。私兵が居ないとなると、用立てが出来なくなっている」

「はあ!? 約束が違うじゃない!!」

「次の町まで行くしかないか……」

「姫殿下。そんな事をすると、ますますお立場が悪くなるのではないでしょうか?」

「約束を破るよりマシだ……と言いたいが、次の町に着いたとしても、拘束されそうだな」


 姫騎士は打つ手無しと悟ったのか、下を向く。コリンナもタダ働きにガッカリし、魔王も進軍と聞いてから考え込んでいる。

 先ほどの明るい雰囲気から打って変わり、静まり返る中、勇者は門兵に声を掛ける。


「ひとまず休むか。町の中に入ると、姫騎士はどうなるんだ?」

「おそらく、次兄殿下一派に拘束されるかと……」

「ふ~ん。あんたは姫騎士一派なのか?」

「いえ。私はしがない一兵です。姫殿下が謀反なんて起こしたとしても、それは民の為だと信じています」

「なんだか謀反を起こして欲しそうな言い方だな」

「な、なんでもないです!」

「ははは。俺も聞かなかった事にするよ。じゃあ、一度ここから離れようか?」


 勇者は皆に問い掛けるが返答は無い。だが、ここで止まっているわけにもいかず、馬を反転させて湖に走らせる。



 しばらくして、湖に着いた一行を馬車から降ろし、お茶とお菓子を出して気分を変えさせる。その時、魔王とテレージアを連れて姫騎士達から離れる。


「さて、戦争までのタイムリミットは一週間だ。どうする?」

「引いて兵を準備するか、スカウトを続行するかよね?」

「そうだな。最高責任者のサシャが決めてくれ」

「……スカウトしていると、戦争が始まってしまいます……」

「なら、帰るか?」

「それでは、逃げるだけなら出来ますけど、パンパリーの町が取られてしまいます」

「だな。じゃあ、やる事はひとつじゃないか?」

「……はい!」


 魔王は決意の目で、姫騎士達の元へ歩く。


「皆さん!!」


 下を向く姫騎士達に、魔王は大きな声を出して注目を集める。そして、深々と頭を下げる。


「私に雇われてください!!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ