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033


 姫騎士の追っ手と戦闘を開始した勇者は、剣が折られて呆気に取られている騎兵に近付くと、馬を押さえる。すると背後からコリンナが現れて、男の足にナイフを深々と突き刺す。

 傷を負った男は我に返り、痛みに驚いて馬から落ちる。それを確認して、勇者が押さえていた馬の尻を叩くと走り去って行った。


「さあ! 次は誰だ!!」


 勇者が大声をあげて挑発すると、近くにいた騎兵が突っ込んで来る。そして槍を前に勇者を貫かんとする。

 だが、勇者は一ミリも後退しないので、馬の推進力と反動によって、騎兵は馬から転落する事となった。そこをすかさず、コリンナがブスブスと両足にナイフを刺していた。

 その後、三騎の騎兵が勇者に迫るが、武器を折られて転落し、コリンナに足を刺されて戦線を離脱する。


「くそっ! 姫殿下だ! 姫殿下を確保しろ~~~!!」


 最初に怪我をした男は位が高いらしく、皆に大声で指示を出すと、騎兵は二人を避けて後方へ走り出した。


「コリンナ! 抱きつけ!!」

「へ??」


 それに合わせて勇者はコリンナをお姫様抱っこすると、馬を追い掛ける。普通の人間では追い付けないのだが……


「よっ!」

「な!?」


 勇者は追い付いた騎兵に軽く挨拶をする。すると驚いた騎兵は、馬と平行に走る勇者に蹴りを入れるが愚策。バランスを崩して馬から落ち、激しく体を打ち付けられて気を失う。そして、勇者は次の標的に追い付く。


「コリンナ。刺せ!」

「は、はい!」


 次の騎兵は勇者に気付かずに走っていたが、気を取り直したコリンナに足を刺されて悲鳴をあげる。だが、ギリギリ踏ん張って馬から落ちないように耐える。

 なので、勇者は力ずくで馬を止め、コリンナは何度もブスブスと刺しまくる。最後に馬の尻を叩いて急発進させると、騎兵は転げ落ちる事となった。


 これで動けなくなった騎兵は七騎。残っている十三騎の騎兵は、姫騎士達に迫る。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 騎兵が姫騎士達に迫る中、三少女が声を合わせる。


「「「え~~~い!」」」


 石の玉の投石だ。魔王が作った石の玉を拾っては投げ、拾っては投げと繰り返す。石の玉の命中率は低いが、なんとか三騎の騎兵や馬に当り、バランスを崩して落ちる事となった。

 それでも魔王達より多くの騎兵が残り、姫騎士の剣が届く距離へと近付く。すると……


「ただいま~」

「おかえりなさ~い」


 馬よりも早く、コリンナを抱いた勇者が戻って来た。相変わらず暢気な声で出迎える魔王だ。


「どうやったら、人を抱いて馬よりも速く走れるのだ……」


 姫騎士の呟きはもっともだが、騎兵が迫っている。勇者はそんな暇は無いと言わんばかりに姫騎士に声を掛ける。


「来たぞ! 一人で大丈夫か!?」

「愚問だ!!」


 姫騎士は大きな声で応えて駆ける。よく質問をはぐらかされるから、ちょっと怒っているみたいだ。

 そんな姫騎士は騎兵とスレ違い様に、数度剣を振るって、乗り手の足と手綱を斬り裂いて無力化する。


「ヒュー。やるね~」

「あ、あの……アニキ?」


 勇者は姫騎士の剣筋を見て褒めていると、抱いていたコリンナがモジモジと声を掛ける。


「そろそろ降ろして欲しいんだけど……」

「ああ。そっか。いきなり抱いて悪かったな」

「い、いや。そんな事は思ってないわ。あのままでもよかった……」

「マズイ! コリンナ、行くぞ!!」


 勇者がコリンナを降ろすと、コリンナは少し残念そうにするが、三少女の投石を掻い潜った騎兵が後方から回り込んで魔王に迫っている。危険を感じた勇者は走り出し、コリンナも渋々続いた。


「ごめんな~」


 そして魔王の前方に立つと、謝りながら両手を開く。その瞬間、勇者は馬に引かれる。当然、頑丈な勇者は無事で、馬は衝撃でフラフラと倒れた。

 馬に乗っていた騎士はと言うと、手綱を握りながら一回転して背中を強く打ち付けられる。そして、追い付いて来たコリンナにブスブスと足に穴を開けられた。



「あ! 姫騎士さんが囲まれています!!」


 後方で全体を見ていた魔王の叫びを聞いた勇者は、安心感のある声で応える。


「あのぐらいなら大丈夫だろう」

「わ! 一瞬で馬から人が落ちました」

「あと三騎か……どう出るかな?」


 勇者は魔王達に歩み寄って騎兵の行動を眺める。すると、コリンナも近付いて来て声を掛ける。


「仲間を置いて逃げるみたいね……」

「みなさん生きているのですよね?」

「たぶんね」

「置き去りなんてひどいです」

「アイツらなんて、そんなもんよ」

「人族の方は冷たいのですね……」

「人族??」

「いえ、なんでもないです」


 魔王達が固まって話し合っていると、姫騎士も駆け寄って合流する。


「すまないが、騎士の手当てを手伝ってくれないか?」

「はい!」

「はい!?」


 姫騎士の言葉に、魔王とコリンナは同時に返事をするが、意味は違うようだ。


「襲って来た敵よ? そんな奴がどうなろうと知った事じゃないわよ!」

「それでも、我が国民なのだ」

「オレ達を犯そうとしたのよ! オレは反対よ!!」

「そんな事を……ならば、私が顔と名前を覚えておく。必ず軍法裁判で裁くから、命だけは助けてやってくれ」

「……勝手にして!」


 コリンナは三少女の元へ行くと、腰を降ろして塞ぎ込む。その様子を見ていた魔王は、心配そうな声を出す。


「コリンナさん……」

「騎士に恨みがあるようだな」

「姫騎士さんは、他人事みたいに言うのですね」

「いや、私の罪だと理解している。この件が終われば、責任を取るつもりだ。親兄弟を敵に回す事になっても……」

「そうですか……」

「それで、手伝ってくれるか?」

「私はかまいません」

「俺もいいぞ。その前に、テレージア。俺とぶつかった馬を助けてくれないか?」


 勇者が魔王の肩で暇そうにしていたテレージアに頼むと、シュパパパーと空を舞って、テレージアが叫ぶ。


「あんたの願い。このテレージア様が、ズバッと解決してあげるわ!!」


 テレージアの決めボーズに、皆は呆れて呟く。


「そのポーズは必要なのか?」

「前もやっていましたね」

「急いでいるのだが……」

「うが~! そんなこと言うなら、治してあげないわよ~!!」


 この後、テレージアを宥めるのに、皆が骨を折ったのは言うまでもない。


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