表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/187

032


 二十騎の騎兵に迫られた魔王は、寝惚けた声を出す。


「焼きナス……ムニャムニャ……」


 いや、もう一度、夢の世界に旅立った。


「魔王! 起きなさい!!」

「いたっ! いたいです~」


 眠りに落ちた魔王を見たテレージアは、苛立ちのあまり魔王の頬を引っ張って目覚めさせる。


「なにをするのですか~」

「魔王が悪いのよ!」

「どうかしたのですか?」


 ムキーとなるテレージアに、のほほんと質問する魔王。勇者はかわいいな~と聞いていたが、騎兵が視界に入ると魔王を降ろして優しく話し掛ける。


「敵が来たみたいだ」

「敵ですか!? どうしましょう? 大変です!!」

「なぁに心配するな。サシャは俺が絶対守ってやるよ」

「お兄ちゃん……」

「いざとなったら、抱いて逃げるから大丈夫だ」

「だから戦いなさいよ!!」


 勇者は優しく微笑むが、テレージアがムキーとなっていたので、乱暴にツッコまれた。

 その姿を見ていた姫騎士とコリンナが、冷ややかにツッコむ。


「真面目にやってもらいたいのだが……」

「そうよ。敵はそこまで来てるのよ!」


 もっともな言い分なので、遊んでいた三人は苦笑いだ。


「それで戦力を確認しておきたいわ。アニキの武器は何?」

「武器なんて使わない」

「素手で戦うスタイルか……」

「いや、戦う事も出来ない」

「え……時間が無いわ。サシャは魔法が使えたわよね。それで遠距離攻撃して」

「私も攻撃魔法を使えないのですが……」

「は? 二人とも戦えないの??」

「おう!」

「はい!」


 二人はいい返事をするが、コリンナは頭を掻きむしるしか出来ない。もちろんテレージアも、ため息を吐いている。


「もう! じゃあ、使える魔法を教えて!」

「いちおうは、生活魔法で使える全属性使えますよ」

「全属性……土もいける?」

「はい」

「それじゃあ、石の玉をいっぱい作って。それを投げて遠距離攻撃するわ」

「わかりました」

「姫騎士はみんなを守って。私は走り回って、少しは数を減らすわ」

「じゃあ俺も、コリンナについて行こうかな?」

「アニキもみんなを守ってちょうだい」

「一番危険なのは、コリンナだろ? 盾になってやるよ」

「それじゃあアニキが……」

「ほら、もう来てるぞ」

「……わかった。みんな、いつも通り、投げまくって!」

「「「うん!」」」


 コリンナは三少女に指示を出すと、騎兵に向けて走り出す。その後を追って、勇者もついて行く。

 そうして皆から十分距離が空くと、コリンナは止まって騎兵が来るのを待つ。そのすぐ後に、騎兵が現れて停止し、声を荒げて問い掛ける。


「貴様達が姫殿下を誘拐したのか!」

「誘拐? 助け出してくれて、感謝してくれてもいいでしょ?」

「助けるだと?」

「姫騎士様から直接に頼まれたんだからね」

「そんな馬鹿げた嘘など聞けないな」

「嘘じゃないわよ。本人に聞いてくれたらわかるけど、その本人は剣を構えているわよ? まさか殺せとか言われてないわよね?」

「そんな指示は受けていない」

「じゃあ、交渉しましょう」

「交渉?」

「金貨百枚で姫騎士を説得してあげるわ。誰も怪我をしなくて安上がりでしょ?」

「おい!」


 黙って聞いていた勇者だが、コリンナの物言いに声を出す。


「姫騎士は逃げたいんだろ? そんな約束していいのか?」

「アニキには悪いけど、仲間の命が掛かっているわ。それと姫騎士と約束した金額が受け取れるなら、オレ達は満足よ」

「じゃあ、さっきの作戦はなんだったんだ?」

「……念の為よ」


 コリンナと勇者のやり取りを見ていた騎兵達だったが、答えを出してニヤニヤと笑う。


「残念ながら、その交渉は無意味だな。次兄殿下からは、誘拐犯は皆殺しにして来いと言われているからな」

「だから誘拐じゃないって言ってるでしょ!」

「そんなのどちらでもいいんだ。女ばかりだから、この仕事は美味しい思いが出来そうでラッキーだ。少し幼いが、それはそれでアリか」

「くっ……」


 下品な笑みで見られたコリンナは、後退(あとずさ)る。すると勇者は前に出て、コリンナを騎兵の視線から隠す。


「と言う事は、当初の作戦通り行くんだな? よかったよかった」

「あ、お前が剣が効かない男か?」

「次兄からなんて言われたか知らないけど、そうじゃないかな?」

「殿下も可笑しな事をおっしゃる。剣が効かないなんて有り得ないだろう」

「やってみたらわかるよ」

「あはははは。なら、死ね!」

「アニキーーー!!」


 騎兵は馬上で剣を抜き、勇者に振り下ろす。だが、勇者は仁王立ちで動こうともしないので、コリンナは悲鳴をあげる。


「なっ……嘘だろ?」


 勇者に接触した剣は折れ、くるくると空を飛んで地面に突き刺さった。


「ほら! ボサッとしてないで、作戦通り動こうぜ」

「あ……うん」


 剣で斬られても痛そうにしない勇者に、呆気に取られるコリンナ。しかし、呆気に取られている場合ではないと意識を戻し、戦いは始まるのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ