030
昼食を終えた姫騎士一行は、片付けを済ませると、隣町へ向けて歩き出す。コリンナと三少女は固まって先頭を歩き、姫騎士は魔王を背負った勇者と隣あって歩く。どうやら、何か聞きたい事があるようだ。
「そういえば、私達にすぐに追い付いて来たが、収納魔法みたいに追跡するような魔法も持っているのか?」
「いや。サシャが居るから、すぐにわかったんだ」
「なるほど。マジックアイテムを渡していたのか」
「いや。匂いを辿っただけだ」
「え?」
勇者の答えに姫騎士が驚いていると、テレージアと魔王が気持ち悪いモノを見る目で、会話に入って来る。
「だから言ったでしょ。こいつは気持ち悪い特技を持っているのよ」
「お兄ちゃん……私って、そんなにくさいのですか……」
「違う! サシャも妹と同じで、いい匂いだ!」
「褒めてるみたいだけど、それはそれで気持ち悪いんだからね?」
「私も同感だ」
「そ、そうなのか? サ、サシャ??」
「え、その……私はそこまでは……」
「まお……サシャはあんたに弱みを握られているんだから、本当の事を言えないのよ。察してあげなさい!」
「そ、そんな……」
魔王が気持ち悪いと思っていると知って、勇者は肩を落として歩く。すると、最前列を歩いていたコリンナが下がって来て、勇者に担がれている魔王に鼻を近付ける。
「くんくん……確かにいい匂いね。どうしたらこんな匂いに……」
「あ、あの……コリンナさん?」
「くんくん……え?」
「そんなに私はにおうのですか?」
「い、いや、その……そいつが匂いで追って来たって聞いたから、他にもそんな事が出来るか確かめていたのよ!」
「お兄ちゃんは特別です! くさくないんです~」
「え、ええ。こんなに薄い匂いじゃ、誰も追って来れないわ。あははは~」
コリンナはそれだけ言うと早足で最前列に戻り、三少女にからかわれる。その行動を見ていたテレージアは、ピキーンと閃いたのか、悪い顔で見ていた。
一行はひたすら歩き、日が暮れ出すと追っ手から隠れられそうな岩場に移動し、野営の準備に取り掛かる。
例の如く、寝床の準備をする皆を差し置いて、勇者はアイテムボックスからベッドルームを取り出して、ツッコまれていた。
「まあまあ。早く食事の準備をしないと、完全に日が落ちてしまうぞ」
「だがな……」
「あ、お兄ちゃんが忙しいなら、私が作ります!」
勇者が皆を宥めていたると、魔王がチャンスとばかりに手を上げる。だが、テレージアは手をパンパンと叩き、注目を集めて冷静に語り出す。
「は~い! 質疑応答はあとでやりま~す。だから、みんなも手伝ってくださ~い」
「なんでオレ達が、お前の言う事を聞かなきゃいけないのよ」
「お願い! 協力して!! サシャにだけは料理させないでよ~~~。わ~~~ん」
「うわ! 号泣!? なんかよくわからないけど、そこまで言うなら……」
冷静に話していたテレージアは、突如ガチ泣きし、ケンカをしていたコリンナも渋々手伝う事を了承する。またしても魔王は頬を膨らませて、魔法で水と火を作る担当となった。
「スープも飽きただろうし、焼き肉でもするか?」
「それなら焼き野菜にしましょう! まだまだありましたよね?」
「サシャは本当に野菜が好きだな~」
「美味しいんですもん!」
魔王と勇者が仲良く話していると、コリンナがジッと見つめる。そこをテレージアがパタパタと近付く。
「へ~。あんなのがタイプなんだ~」
「ち、違う!」
「じゃあ、なんで見てたの~。ぐふふ」
「違うって言ってるでしょ! 焼いて食っちゃうわよ!!」
「へ~。あの二人の関係を教えてあげようと思ったのに、そんな事を言うんだ。へ~」
「二人の関係……兄妹じゃないの?」
「それが違うんだな~。ぐふふ」
コリンナはぐふぐふ笑うテレージアにムカつく。だが、兄妹だと思っていた二人の関係が気になったのか、大きな声を出す。
「知りたい! 教えて!!」
「ふふん。条件があるわ」
「条件か……」
どうやら、コリンナは勇者の事を聞きたいようだ。これもテレージアの策略。このネタを使って、策略が上手そうなコリンナのスカウトを潤滑に執り行うのだろう。
「さっきも言ったけど、サシャにだけは料理をさせないで~~~!」
さすが妖精女王……え? そっち?? テレージアは、どうしても魔王に料理をさせたくないみたいだ。
「そんなにひどいの?」
「毒よ! 猛毒よ! においを嗅いだだけで気を失うのよ!!」
「嘘でしょ?」
「本当よ! 勇者だって死にかけたんだからね」
「勇者? あの男か……あ、それで二人の関係は??」
「サシャは、とある理由から勇者の言う事を聞いているだけで、完全な勇者の片想いよ」
片思いと聞いて、コリンナは表情が暗くなる。
「片想い……それでも、あの女が好きなんだ……」
「まだチャンスはあるわ! 勇者はヘタレだから、サシャに指一本触れられないでいるの。だから、あんたの方から押し倒して既成事実を作っちゃうのよ~!」
「お、おお! ほ、他に有効的な手段は無いの?」
「どうも妹が好きみたいだから、お兄ちゃんと呼ばせるのが好きみたいね。あんたも呼んでみなよ」
「お、お兄ちゃん……やってみる!」
コリンナはテレージアの言う事を何故か信じて、勇者の元へ駆けて行った。すると、一部始終を見ていた三少女がテレージアに話し掛ける。
「アレで上手く行くかな~?」
「まぁ無理でしょうね」
「じゃあ、なんであんなこと言ったの?」
「三角関係……その方が面白そうでしょ?」
「うん! どうなるんだろ~」
「ドキドキするね~」
「「「ぐふふふ」」」
「ペコペコ~」
一人を除いて、嫌な笑い方をするテレージア達であった。