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 勧誘を失敗してムキーっとなったテレージアを、勇者と魔王が宥めていると、姫騎士が歩く速度を落とし、勇者達と並んで歩く。


「仲間を求めて……その前にいいか?」

「ん?」

「それはなんだ?」


 姫騎士は魔王達が仲間を求めている理由を聞きに下がって来たが、魔王が乗っているモノを尋ねずにはいられなかったようだ。


「サシャが疲れないようにする乗り物だ」

「そ、そうか……お嬢様のようだな。お前達は、どこかの小国の者なのか?」

「まぁそんなところだ」

「なるほど。だからスカウトしているのか」


 どうやら姫騎士は、他国の要人か何かと勘違いして、スカウトしている理由を決め付けたみたいだ。それならチャンスかと、勘違いに乗っかって勇者は質問する。


「それでどうだ? 来てくれないか?」

「私は帝国の皇女だぞ? どこの小国の貴族かは知らないが、さすがに笑えない冗談だ」

「だよな~」

「だが、恩のある身だ。私のツテで探してやろう。どんな者が希望なのだ?」

「本当ですか!? でしたら、戦う事に慣れていて、軍隊なんかも指揮できる人が欲しいです」

「軍隊??」


 魔王の前のめりの人選に、姫騎士は目を鋭くする。


「軍隊なんか指揮して、どうしようと言うのだ?」

「えっと……それは……」

「ああ。今は魔族と戦争中だろ? 我が国からも兵を出したいが、指揮できる者が倒れてしまって困っているんだ。他の者だと、ちと都合が悪くてな」


 魔王がしどろもどろになったところを、勇者が適当な言い訳を交えて助ける。すると、怪訝な表情をしていた姫騎士は、なるほどと頷く。


「小国でも、ゴタゴタがあるのだな」

「まあな」

「さすがに軍を指揮できる者となると厳しいな」

「武器を扱える者や、作戦を立てられる者でもかまわないのだが」

「武器ぐらいなら……それならば、なんとかなるかもしれない」

「お! やったな」

「はい!」


 勇者と魔王が喜んでいるとコリンナが近付いて来て、魔王が楽をしている事にツッコミ、休憩をすると告げる。


 ほどなくして街道から外れた岩影で、一行は休む。


「はい。姫騎士。食べなさい」


 コリンナは、肩から掛けたカバンの中から堅いパンと水袋を取り出すと、自分の仲間の三少女と姫騎士に手渡す。


「おい。あの二人と妖精の分が無いぞ?」

「勝手について来たんだから知らないわよ」

「ならば私の分を……」

「それはダメ! 四日は歩くんだから、依頼主に倒れられたら困るんだからね」


 二人が言い合いを始めると、テレージアが喧嘩腰に割って入る。


「そんなまずそうな物はいらないわよ!」

「ハッ! 食べ物をうまいまずいで考える奴なんかに、頼まれたってやるか!」

「こっちだって頼まれたって、あげないんだからね!」

「あんな小さなカバンに何が入っているのよ。とても食料が入っていると思えないわ」

「それを言ったら、あんたのカバンだって小さいじゃない!」

「これは収納カバンです~。この人数なら十日分は入っています~」

「勇者だっていっぱい持ってます~。大きな肉だって入ってます~……ムゴッ!」


 何やらコリンナとテレージアがケンカを始めたので、魔王はテレージアを両手で掴まえて離れさせる。


「お兄ちゃん。食材を出してくれますか?」

「どうするんだ?」

「パンだけでは栄養が偏りますので、私が皆さんに手料理を振る舞います!」

「あ、ああ。わ、わかっ……」

「ムゴー! ムゴー!!」

「い、いや。やはり俺が作ろう」


 勇者はテレージアの必死の訴えに、命の危機に気付いたのか、自分ですると提案し、食材を出してスープを作り始める。すると皆が集まり、調理をジッと見つめる。

 姫騎士までもが不思議そうに見つめ、調理する勇者に質問をしている。


「それは、生の野菜か? そんな物を持ち歩いては腐るのでは?」

「コリンナだっけ? アイツの袋は腐るのか?」

「そうだ。収納バッグも収納魔法も、長期間保管すると腐ってしまう」

「ふ~ん。この世界でも、そんなモノなのか」

「この世界?」

「お兄ちゃん!!」

「あ、なんでもない」


 勇者は魔王が首を横に振っているので、気持ち悪い顔で見つめてから話を戻す。


「収納魔法だったな。どうも俺の収納魔法は特別で、腐ったりしないんだ」

「そんな魔法があるのか!?」

「どうなっているのかは、俺もわからないんだけどな。あははは」


 勇者は笑って誤魔化しながら、野菜を切り終える。それを鍋に入れて石組み(かまど)の上にセットすると、魔王を呼ぶ。


「サシャ。水と火を頼む」

「わかりましたけど、次は私が調理しますからね?」

「う、うん……」

「絶対ダメって言ってるでしょ! 野営の料理は勇者担当。それ以外はあたしが許さないんだからね!!」


 サシャの手から抜け出したテレージアは、凄い剣幕で魔王に詰め寄る。その剣幕で魔王は渋々諦めていたが、適当に言っていたから、いつかテレージアに一服盛る気だろう。

 テレージアとのやり取りを終えた魔王は呪文を唱え、二つの鍋に水を入れ、片方の鍋の下にある薪に火をつける。すると、魔王の魔法を見ていた姫騎士が驚いた声をあげる。


「おお! サシャ殿は、魔法使いであったか。これほどの量の水を難無く出せるとは、なかなかお強いのではないのか?」

「いえ。私は生活魔法ぐらいしか使えません。だから、強いと言われてもわからないですね」

「そうなのか? 魔法を覚えるだけでいいのに、もったいない」

「なるほど……私でも習えば、強い魔法が使えるのですね。魔法使いさんも、スカウトしちゃいましょう!」

「魔法使いは貴重だから、私のツテでは用意できないな」

「そうですか~」


 魔王が姫騎士の言葉にしょぼんとしていると、スープのいい匂いがして来た。お腹が減っていた魔王はスープの匂いに誘われるが、誘われたのは一人ではなく、三人の少女もスープの匂いに誘われて来た。


「もう少しで出来るから、ちょっと待ってな」


 魔王と少女達はコクコクと頷くが、テレージアが怒った声を出す。


「アイツらは、自分の分を食べるって言ってたんだから、あげないでよ!」

「多く作ったんだからいいだろ」

「そうですよ。みんなで食べた方が美味しいですよ」

「ダーメ!!」

「よし。出来た。みんな取りに来い」

「聞きなさいよ!! ムゴッ」


 またしても魔王に捕まったテレージアは、身動きを取れずにムキーっとなる。その隙に勇者は少女達にスープを振る舞う。

 皆、受け取ると叫ぶように食べるので、勇者は照れながら配膳する。姫騎士や魔王とテレージアにもスープを注ぎ、魔界産パンも皆に渡す。

 皆の食事を食べる姿を確認すると、勇者はスープとパンの乗った皿を持って、一人で堅パンをかじっていたコリンナの隣に座る。


「ほい」

「いらないわよ」

「みんな食べているんだから、遠慮するな」

「遠慮じゃないわ。女のプライドよ」

「ふ~ん。仲間には、そのプライドを押し付けないんだな」

「聞いてたでしょ? ケンカしていたのは私だけ。仲間は関係ないわ」

「じゃあ、このスープも関係無いな。俺とはケンカしていないしな」


 勇者は皿を押し付けるように手渡すと、コリンナの頭をポンポンと叩いて、離れて行く。

 勇者を見送ったコリンナは、ぽつりと呟く。


「あ、ありがとう……」


 それを見ていた三少女は、ニヤニヤした顔でコリンナに近寄る。


「あれ? お(かしら)~。顔赤いよ~」

「ひょっとして、お兄さんに惚れた?」

「ばっ! そんなんじゃないわよ!!」

「スープ美味しいもんね~」

「そ、そうよ!!」

「「ホントかな~?」」

「??」


 一人にぶい少女が居るが、コリンナはスープを食べながらも勇者を見つめて茶化されているので、そう言う事だろう。


 コリンナ、十五歳の春であった。


 ただし、見つめていた勇者は、気持ち悪い顔で魔王を見つめていたのだが……


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