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028


 勇者は次兄を外壁の頂上付近に張り付けると、走って屋敷に戻る。そこで、穴を開けた壁を調べて再び走り出す。

 そうしてしばらく町を走っていると酒場のオヤジを見付けたので、勇者は走り寄る。


「あ、あんた! まだこの町に居たのか!?」

「ああ。それより、姫騎士は生きていたぞ」

「やっぱりか! 町で見掛けたと言う奴がいたから探していたんだが、どこにいるんだ?」

「次兄から逃げていたみたいだから、もう町を出たんじゃないかな?」

「そうか……生きているなら、それでいいか。よかった……本当によかった」

「心配していたから教えてやったんだぞ。今度来た時は、一杯(おご)れよ?」

「一杯どころか、樽で奢ってやるよ!」

「ははは。楽しみにしておくよ。それじゃあ、俺は行くな」

「ちょっと待て!」

「なんだ?」

「服ぐらい着て走れ! さすがに見てられん!!」

「あ……あはははは」


 魔法使いに全身を燃やされて全裸になっていた事を、ようやく気付いた勇者はいそいそと旅人の服を着て、オヤジにお礼を言って走り出す。

 魔王達が辿り着いたであろう外壁まで来ると痕跡を見失ったが、外に出たと予想をつけて、外壁をひとっ飛びで飛び越える。

 その先で、思った通り痕跡を見付けた勇者は、軽く屈伸してから、とてつもない速さで走り出す。途中、追い抜いた馬車馬が自信を無くす程のスピードだ。


 その甲斐あって、すぐに魔王達に追い付く事となった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



「何か音がしない?」


 後方から聞こえて来る音に、真っ先に気付いたのはテレージア。その発言に、魔王以外の者が気を張り詰める。


「追っ手かも! みんな、あの林に走って!!」


 ドドドドと近付く音に、コリンナが逃げようと皆に指示を出すが、音は凄い速度で近付き、さらに大きくなる。

 皆が焦って駆け出そうとする中、魔王は暢気(のんき)な声を出す。


「あ、お兄ちゃんです。お兄ちゃ~~~ん」

「はあ? こんな速い足音、馬以外にないじゃない……え?」


 コリンナは否定するが、見えて来たモノに絶句する。勇者が「お~い」と言いながら手を振って走っていたからだ。

 程なくして魔王達に追い付いた勇者は、ガガーっと地を削って急停止する。


「お兄ちゃん。おかえりなさい」

「サシャ。ただいま」


 魔王の普通の出迎えに、勇者はモジモジしながら応える。その気持ち悪いやり取りを見ていた姫騎士が前に出て、剣を差し出す。


「こちらは使わなかったが、助かった。返却する」

「いいよ。姫騎士と言われているんだから、剣のひとつでも差していないと決まらないだろ」

「いいのか?」

「盗賊から没収したなまくらだ。もらっておけ」

「そうか……有難く使わせてもらう。それはそうと、あれからどうなったのだ?」

「次兄を、壁にぶっ差した棒に置いて来た」

「え?」

「アイツらが、どうやって救出するのか見物だったんだけどな~」


 姫騎士は勇者の言っている意味がわからないので、詳しく聞こうとするが、コリンナが割って入り、話を奪われる。


「そんな事より、追っ手は?」

「えっと~……お前はあの場にいた少女か。いまは取り込んでいるから、しばらくは追っ手を出せないかな?」

「絶対なのね?」

「絶対と言われると自信は無いが、外壁の上からも下からも届かない所に置いて来たから、確率は高いかな?」

「……わかったわ。行きましょう」


 コリンナも言ってる意味がわからなかったみたいだが、ツッコムよりも逃げる事を優先させて歩き出す。

 姫騎士も遅れまいと歩き出し、最後尾の魔王は疲れたと勇者に愚痴る。なので、また背負子(しょいこ)を背負った勇者に乗って移動する。


 そうして歩き出した勇者は、自身がいなかった間の報告を聞いて質問する。


「それで、姫騎士は仲間になってくれそうなのか?」

「まだスカウトしていません。どうも私達を見ても、魔王と勇者だとわかってもらえないみたいですので、どうしたものでしょう?」

「やっぱり妖精女王のあたしの出番ね!」

「何か策があるのか?」

「妖精女王よ! 偉いのよ! かわいいのよ!!」

「……だから?」

「あたしが頼めばいちころよ~」


 ヘヘンと胸を張るテレージア。だが、その策は愚策だろう。


「その偉さは伝わるのか?」

「見ればわかるじゃない!」

「かわいいってのは?」

「見ての通りよ!!」

「う~ん……じゃあ、魔族の事を秘密にして、口説いて来てくれ」

「任せなさい!!」


 テレージアはパタパタと空を飛んで姫騎士の肩に着陸し、耳元で勧誘を行う。それから数分後、ムキーとなって戻って来た。


「どうしてわかってくれないのよ~!」

「だろうな」

「でしょうね」

「ムキー!!」


 (あき)れる勇者と魔王に、テレージアはさらに機嫌を悪くする。


「荒れてるな。なんて言われたんだ?」

「妖精女王ってのは本当なのかとか、かわいいからで仲間になるわけないだろうとか……最後には頭を撫でられたのよ!」

「まぁ……」

「思っていた通りですね」

「ムキー!!」


 勧誘を失敗してムキーっとなっているテレージアを宥める事に、骨を折る勇者と魔王であった。


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