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027


 次兄から逃げ出した姫騎士達と共に歩く魔王は、自己紹介をしたついでに質問をして情報を仕入れようとする。


「クリ……ティ……」

「長いか? 臣下には皇女様か姫殿下と呼ばれているのだが、親しい者からはクリスと呼ばれている」

「私はどちらでもないので、姫騎士さんとお呼びしてよろしいでしょうか?」

「かまわないが、クリスでもいいのだぞ?」

「いえ、そんな……」

「まぁいい。それでどうしたのだ?」

「姫騎士さんも、コリンナさんと初対面だったのですか?」

「ああ。地下牢から連れ出されたところを、偶然出会って助けてもらったのだ」

「じゃあ、コリンナさんもいい人なんですね!」


 魔王は嬉しそうにコリンナに尋ねるものだから、コリンナは面倒くさそうに振り返る。


「違うわよ。金や食料を盗みに入ったら、そいつを連れた兵士に見つかって、仕方なく眠らせたのよ。それでそいつが報酬を払うから外に連れ出せとうるさくてね。騒ぎが起きたから一緒に逃げてやっているのよ。せっかく兵士が減って、楽が出来ると思っていたのに、ついてないわ」

「じゃあ、悪い人なのですか……」

「そうよ。金の為ならなんでもやる、泣く子も黙る女盗賊団お(かしら)、策略のコリンナとは、オレの事よ!」


 コリンナが小さな胸を張ると、仲間の三人の少女が口々に声を出す。


「お頭はいい人よね」

「盗んだお金も食料も、食べられない子供にあげるもんね」

「泣く子も笑うお頭」

「「そうそう」」」

「ちょっ! あんたたち~~~!」


 コリンナは少女達の言い分が気に入らなかったのか、ぷりぷりと怒り出す。


「やっぱり、いい人なのですね!」

「だから違うって言っているでしょ!」

「たしかに盗みは良くないな」

「それはあんた達、王族が悪いんでしょ! みんな食べ物に困っているのに税ばかり高くして、払えなければ奴隷行き。どっちが泥棒よ!!」

「うっ……すまない」


 コリンナの剣幕に、姫騎士は謝る事しか出来ない。よけいぷりぷりしたコリンナは速足で歩き、皆も追い掛ける。その後、街の外壁まで来ると足を止める。


「壁ですね。ここからどうするのですか?」

「この色が少し違う壁。誰が開けたか知らないけど、穴があるのよ。ちょっと待ってて」


 魔王の質問に答えたコリンナは、色の変わった箇所を押すと、人が四つん這いで進める穴が開く。その石を横にずらすとコリンナは中に入り、蝋燭(ろうそく)に火を点ける。それが済むと、魔王達を壁の中に招き入れる。

 全員が中に入ると最後尾の少女が石を元に戻す。その間、皆は四つん這いで進み、反対側の壁に到着すると同じように壁に穴を開け、街から脱出する。



 そうして町から脱出した魔王は、姫騎士達の行き先を尋ねる。


「街から出たのはいいのですけど、これから何処に向かうのですか?」

「ここから南に行った町だ。そこに私の兵達が残っているのだ」


 魔王が質問していると、コリンナが割り込んで来る。


「その町まで行けば、報酬は払ってくれるんでしょうね? 連れて行って御用だなんて、洒落にならないわよ?」

「当然だ。先も言ったが、クリスティアーネの名の元に誓っているのだから、破る訳が無い」

「……わかったわ。急ぎましょう」

「ああ。では、サシャ殿。助太刀、感謝する。何か助けが必要な時があれば、私が力になろう」


 姫騎士が魔王に別れの挨拶を済ませて歩き出すと、テレージアが魔王に耳打ちする。


「ちょっと! 手を振ってる場合じゃないでしょ! スカウトしないの!?」

「あ! 忘れていました」

「まったく……力を貸してくれるって言っているんだから、困っているって言えば?」

「う~ん……魔王と言っても信じてくれないですし、お兄ちゃんの合流を待ってから相談してみましょうか」

「その時は、忘れるんじゃないわよ」

「はい!」


 テレージアとの会話が終わると魔王は駆け出し、姫騎士の元へ急ぐ。



「待ってくださ~い!」

「どうした?」

「私達も同行してもいいでしょうか?」

「何故だ?」

「えっと……」


 姫騎士の質問に魔王はいい考えが浮かばないので、テレージアがしゃしゃり出る。


「その剣はあいつのでしょ? 勝手に持って行かれたら困るわよ」

「あ……すまない。返し忘れていたな。返しておいてくれるか?」

「それは自分でしてくれる?」

「しかし、待っている余裕は……」


 二人の会話に、今度はコリンナがしゃしゃり出て来る。


「待ってる暇なんてないって言ってるでしょ!」

「うるさいわね~。別に止まって待ってろなんて言ってないじゃない」

「じゃあ、どうするのよ?」

「あいつの事だから、歩いていたら追い付いて来るわよ」

「走って? それにどうやってオレ達を見付けるのよ?」

「たぶん匂いでついて来るわよ」

「匂い!? 人間がそんな事出来るとわけないでしょ!」

「まお……サシャの為なら、何処までも追って来ると思うわよ。ねえ?」

「は、はあ……」


 魔王は勇者の長いシスコン話を思い出し、そんな事はないと力強く言えないのであった。


「どんな変態なのよ」

「匂いではなく、追跡魔法かマジックアイテムでも使うのだろう」


 勇者の気持ち悪い話をしていると、姫騎士も話に入って来た。


「あ~。なるほど」

「ついて来るのはかまわないが、ここは魔族の土地だから、危険があるかもしれないぞ。それでもいいのか?」

「はい!」

「コリンナ。サシャ殿は、私がサポートするから同行させてもいいか?」

「迷惑かけないなら、それでいいから早く行きましょう」

「ああ!」


 無事、魔王は姫騎士一行に加わり、次の町に向けて歩き出す。しばらくして、歩き疲れた魔王は、姫騎士の手を(わずら)わせる事になった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 魔王がキャサリの町から脱出する少し前、勇者はギャーギャー騒ぐ次兄を担ぎながら町を走り、北側の壁に到着する。


「降ろせと言っているだろ!」

「俺だって、お前のような男を担ぎたくない。いまも妹だったらと考えて我慢しているんだ」


 勇者は次兄を担ぎながら頬を緩める。なかなかの想像力だが、かなり気持ち悪い。

 そんな言い合いを続けていると兵士が追い付き、囲まれてしまった。


「はははは。もう逃げられないぞ。さっさと降ろせ!」

「追い付くのを待っていただけだ。それに逃げようと思ったら、いくつも方法がある」

「ハッ! この人数を前に、どうやると言うんだ」

「う~ん……決めた!」

「え……うわ~~~!」


 突如、次兄は叫び出す。勇者が次兄を担いだまま、凄い跳躍力で飛び上がったからだ。その高さ足るや10メートル。外壁の頂上には足りなかったが、恐怖するには十分な高さだ。

 その高さまで来ると勇者は外壁に腕を差し込んでぶら下がる。そして、足も押し込みバランスを取ると、アイテムボックスから取り出した太い木の棒を突き刺して次兄をその上に乗せる。


「お、お前……な、何をする。俺様を降ろせ~~~!」

「俺からは降ろしてやったぞ?」

「ち、ちが……こ、ここからだ!」

「それは自慢の騎士や兵士に頼むんだな。それじゃあ、俺は妹を追い掛ける」

「ま、待って……」


 勇者は次兄の言葉を聞かずに飛び降りる。ズドーンと大きな音を立てて地に着くと、兵士は勇者に武器を向ける。


「何度やっても同じだぞ? それより、アイツを助けた方がいいんじゃないか?」


 勇者が一声掛けてから歩き出すと兵士は道を開け、通り過ぎると怒号をあげて次兄の救出を急ぐ。


 勇者はそれを見もしないで、屋敷に向けて走り出すのであった。


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