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「あ~あ……儲け損ねた」


 勇者のゲームに付き合っていた酒場の者は、勇者の化け物っぷりに恐れ、逃げ出す事となった。


「お兄ちゃん! 怪我はないですか?」

「俺はな。出て行った奴らは怪我をしていたぞ」

「もう! 自分の体も心配してくださいよ~」

「あれぐらいどうって事ないからな。それより飲み直そう」

「……バカ」


 勇者を心配する魔王は頬を膨らまして悪態をつくが、気持ち悪い勇者はニヤニヤと見る。さすがの魔王も気持ち悪くなったのか、元に座っていたカウンターに戻る。

 遅れて勇者も席に着くと、店主のオヤジが声を掛けて来た。


「あ、あんた大丈夫か?」

「丈夫だけが取り柄だからな」

「丈夫だけって……丈夫にも程があるだろ!」

「まあまあ。それより、さっきの奴らは何者なんだ?」

「あいつらか……次兄様の私兵らしいんだが、どうもあいつらが来てからおかしいんだよな」

「どう言う事だ?」

「この町は元々……」


 酒場のオヤジは語り出す。


 この町は姫騎士と呼ばれる者が進軍し、魔族から奪い取ったようだ。その後、残りのふたつの町も奪い取り、人族の領地から一番近いこの町に移住者を募って町として機能させた。

 そこを姫騎士が治めていたそうだが、次兄が来てからと言うもの、姫騎士の姿は消え、治安は悪化して行ったとのこと。

 特にひどいのが、税の取り立て。姫騎士は税を二年間取らないと約束してくれたらしいが、次兄が町を治める様になってからは日に日に税が増え、払えない者は奴隷に落とす。

 さらに、女性が犯される事件が頻発し、犯人を名指しで捕まえてくれるように頼んでも、一切取り合ってくれないらしい。


「ひどいです……」

「皆、女は外に出さないようにしているんだ。それなのに、こんな所に連れて来るなんて、どうかしてるぞ」

「田舎者ですまん」

「あ……そうだったな」

「それにしても、その姫騎士様ってのは、何処に行ったんだろうな」

「町を移動すると、誰かが気付くと思うんだけどな~。噂では、何処かに幽閉されているんじゃないかと言っている」

「幽閉? 姫って言うくらいなんだから、偉いんじゃないのか?」

「姫騎士様を知らないなんて、どんなド田舎から来たんだよ」

「あははは~」


 店主は疑いの目を向けるが、勇者は笑って誤魔化す。


「まぁいいや。姫騎士様は、この国のお姫様だ。文部両道。美しく優しいお方で、国民に人気がある。今回の聖戦の活躍で、さらに人気が上がったな。二人の兄を差し置いて、王様になってくれないかと大望する者も大半だ」

「ほう。最前線で活躍していたのに、そこから戻って、この町に居るのも不思議だな」

「だろ? これも噂だが、帝都の皇帝様を怒らせたらしいぞ」

「左遷ってやつか」

「まぁ憶測(おくそく)ばかりで語られているがな。本当に何処に行ったのやら……」

「心配だな。おっと、妹が眠たそうだ。これ、迷惑料に取っておいてくれ」


 勇者は魔王に服を引っ張られただけだが、言いたい意味が伝わったのか、勘定を支払う。


「金貨10枚!?」

「あ、気にしないでくれ。どうせ払う気が無いだろうと、さっきの偉そうな奴から財布を()っておいたんだ」

「ブッ。ゲームで勝ったんだから、正当な取り分だな。ありがたく受け取っておくよ。それより、もう遅いけど、今から出発しろよ? あいつらが仕返しに来るぞ」

「ご心配、ありがとう」


 勇者はオヤジに笑顔を見せると、魔王を連れて酒場を出る。


「早く出て欲しそうだったけど、どうした?」

「さっきの姫騎士さんを、味方に出来ないでしょうか?」

「何処に居るかわからないからな~」

「でも、いい人でしたよ!」

「聞いた話はだろ? 会ってもいない者を信用するのは危ないぞ。特に王族は、表の顔と裏の顔があるから、気を付けた方がいいって聞いた事がある」

「私も王族ですけど、裏の顔なんてありません!」

「わかったわかった。少し調べてみよう」

「絶対ですよ~?」

「うん。その言い方もかわいい!」

「もう!」


 茶化す勇者に頬を膨らませる魔王。よけい勇者を喜ばせながら宿屋に戻ると、赤い顔をしたテレージアに出迎えられる。


「おっそ~い! てやんで~」

「酔ってるのか?」

「あんな酒の一本や二本で酔うかい!」

「一本や二本? その小さな体で、一本空けたのか!?」

「足りないっつうの!」

「あ……私も飲みたかったです~」

「だろ? もっと出せ、勇者~」

「いいけど、明日は忙しくなりそうだから、あまり飲み過ぎるなよ?」

「「やった~!」」


 二人は喜び、ハイタッチしてから酒を飲む。テレージアはどこから出したのか、長いストローを使って瓶から直接チューチューと飲んでいた。勇者が蚊みたいだと言ったら、かなりキレていた。

 勇者は酔ったテレージアに触られても何も感じなかったが、酔った魔王は別だ。甘えて抱きつかれると、硬直して動けなくなる。さらに魔王とテレージアは服を脱ぎ出したので、目を閉じ、瞑想するハメとなった。

 二人は備え付けのお風呂に入る為に脱いでいたらしいが、勇者が居るのだから気を使ってあげて欲しい。まぁヘタレだから見る事は出来ないけど……


 お風呂から上がった魔王とテレージアは、裸のままベッドに飛び込み就寝。勇者は寝息が聞こえるとお風呂に入り、何やら興奮していたが、魔王の残り湯よりも、裸を見て興奮した方がお得だったのに……


 こうして人族の町への潜入初日は、多少のトラブルはあったものの、無事に終わるのであった。


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