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022


「美味しくないです……」


 食堂で運ばれて来た野菜炒めを食べた魔王はボヤく。


「確かにな~」

「ですよね~? ジャガイモもカスカスですし、ニンジンも甘味がありません!」

「食糧難だから仕方ないんじゃないのか?」

「そうですけど~」

「そういえば、人族は食糧難なんだから、魔界でも食糧難じゃないのか?」

「確かに去年、今年と雨が少なかったですね。でも魔界では、水を魔法で作り出して乗り切れていますよ。人族の方も、そうしているのではないですか?」

「あの広大な土地を、魔法だけでか!?」

「はい。なんせ農業特化に魔法を進化させましたからね。湖の上流にあたる魔都は、雨の都とも呼ばれています」

「それほどの雨を降らすとは、かなり凄い魔法なんだな」

「エッヘン!」


 魔王は胸を張るので、ポヨンと揺れて、勇者はすぐに目を逸らす。


「美味しくないなら、残してもう行こうか」

「……いえ。野菜さん達がかわいそうなので全部食べます」

「無理して食べなくても、残ったら誰かが食べるだろ。あの男の子がジッと見つめているし」

「本当です……でしたら、もう一皿頼んでそちらを男の子に食べてもらいましょう」

「サシャがそうしたいなら……」

「あ! お金を払うのはお兄ちゃんでした」

「それぐらいかまわないよ」

「やっぱりお兄ちゃんも優しいです!」


 その後、勇者はデレデレした気持ち悪い顔で、何皿か料理を注文し、一口だけ食べて食堂を後にした。



 食堂を出て、聞いていた宿屋に向かってしばらく歩くと魔王は勇者に質問する。


「どうして、全て一口食べたのですか? 綺麗なまま男の子に食べて欲しかったのですが……」

「あのままじゃ残飯にならないからだ。他の客に出され兼ねないだろ?」

「お店でそんな使い回しまでするのですか!?」

「可能性はある。ひどい店なら、食べ掛けすら盛り付けし直して出して来るからな」


 勇者の言葉に、魔王は驚いたのも束の間、暗い顔になる。


「あの……」

「どうした?」

「見た限り、人族の方達は仲間である人族に対しても厳しいように見えるのですが……」

「場所に寄ってだ。幸せに暮らしている人もいっぱい居るぞ」

「それでも魔界では、食べ物に困る事はありませんし、私がそんな事はさせません!」

「そうなんだ……そこが俺の世界とこの世界の違いだな。魔王は奪う側だったのに、与える側になっているとは……人族の長にも見習って欲しいものだ」

「いえ、私はそんな立派なものじゃないですよ。ただの一般論です」

「俺達の世界では、それを理想論と言うんだ。やろうと思って出来る事じゃない。サシャは立派な魔王様だ」

「うぅぅ。そんなに褒められると困ります~」


 勇者は困った顔もかわいいと、気持ち悪い顔で魔王を眺めながら歩き、宿屋の扉を開く。ここでも男の子が接客し、一番いい部屋をひと部屋借りるが、ダブルベッドの部屋は、ヘタレ勇者は避けたようだ。


 部屋に入ると荷物を降ろした魔王は、テレージアに声を掛ける。


「テレージアさ~ん。もう出て来てもいいですよ~」


 テレージアはパタパタと空を飛び、背伸びをすると、状況の説明を求める。


「ん~~~! お腹すいた~~~!!」


 いや、食べ物を催促する。なので勇者は、魔界産のパンを取り出すが、サンドイッチにしろと我が儘を言われて作らされていた。


「サ、サシャも食べるか?」

「はい!」


 魔王もさっき食べた昼食がマズかったからか、ジーーーっとサンドイッチを見ていたので、勧めざるを得なかった。

 その後、腹の落ち着いたテレージアは、食後のティーを要求してから状況を……


「お菓子も食べたいわね~。なんか持ってない?」


 紅茶を出した事で、要求がエスカレートしたテレージア。妖精女王の我が儘に付き合わされて、勇者は妹に用意していたクッキーを出して皆でつまむ。


「なかなかいけるわね」


 自分の体ぐらいあったサンドイッチを平らげたにも関わらず、テレージアは顔より大きなクッキーを(むさぼ)り食う。いったいどこに入っているのだろうか……


「そういえば、一人ぐらいスカウト出来た?」


 ようやく本題を思い出したテレージアは、二人に尋ねる。


「そんなにすぐ出来る訳ないだろ。侵入するのがやっとだ」

「遅いわね~」

「今まで大変だったのですよ。バックの中に居ても聞こえていましたよね?」

「ああ、アレね。確かにアレは大変だったわね~」


 どうやらテレージアは、ずっと寝ていて聞こえていなかったみたいだ。二人も気付いたが、追求すると逆ギレされるだけなので、苦笑いしている。


「それでこれからどうするのよ?」

「とりあえず、酒場に顔を出してみるよ。情報を手に入れるにはもってこいだからな」

「酒!? あたしも行く!!」

「行っても外に出れないから飲めないだろ」

「うぅぅ。じゃあ、留守番しているから、何か出してよ。酒だって持っているんでしょ?」

「いいけど……静かにしてるんだぞ?」

「わかっているわよ。あと、ツマミも置いて行ってよね~」

「まだ食うのか……」


 勇者は渋々酒とツマミを取り出すと立ち上がる。すると、魔王も立ち上がる。


「ついて来るのか?」

「はい! 人族のお酒は、私も気になります!!」


 どうやら魔王も酒に興味津々のようだ。


 こうして勇者は魔王を伴って、情報収集の為に酒場へと向かうのであった。


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