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「ここはダメかもしれない……」


 軍資金調達の為に、露店で聞いた優良店に入った勇者は、すぐに心配そうな声を漏らした。


「ダメとは、どう言う事ですか?」

「露店の店主も、ここの店主とグルみたいだ。安く買い叩かれてしまうかも」

「え? 皆さん、評判がいいような事を言ってましたよ?」

「まぁやるだけやってみるよ」

「??」


 勇者と魔王が店の中を眺めながら話し合っていると、店主らしき太った男が二人に近付いて来た。


「これはこれは、何かお探しですかな?」

「いや、買い取りをしてもらいたいんだが」

「買い取りでしたか! でしたら別室に行きましょう」

「いや、ここでいい」

「……そうですか~」

「ちなみにこの店は、販売価格と買い取り価格は何バーセントの差額でやっているんだ?」

「それは営業秘密でございます~」

「そこがわからないと、取り引きなんてしたくないな~。さっきも門兵にボッたくられて、痛い思いをしたんだ」

「あの連中は、ハイエナのような奴らですからな。うちは良心的な価格設定をしておりますからご安心ください」

「じゃあ、ビッグボアの牙の買い取り価格はいくらになるんだ?」

「ビッグボアでしたら、銀貨5枚と銅貨20枚となっています」


 ペラペラと価格を提示する店主に驚き、魔王は口を挟む。


「それじゃあ、門兵さんと変わらないじゃないですか! 売値だって銀貨20枚なのに、どうしてそれだけなんですか!」

「それは商売ですからね。安く買って高く売る。商売の基本です。はい」

「それでも安過ぎです!」

「信用の無い一見(いちげん)さんとの取り引きをするのですから、当然の配慮ですよ。はい」


 ああ言えばこう言う。魔王の言葉を、店主はのらりくらりとかわす。そのやり取りを見ていた勇者だったが、魔王を宥め、店主に語り掛ける。


「残念ながら、その額では売れないな。いっぱい持っていたのだがな~」

「いっぱいとは何本なのですか?」

「売る気がないから、教える必要は無いだろ? 適正価格で買い取ってもらえる店を、これから探すよ。毛皮だって、ワイバーンの鱗だってあったのにな~。サシャ。行こう」


 勇者は残念そうな声を出して出口に向かう。なので魔王は、勇者に言われるままに歩き出す。


「ちょ、ちょっと待ってください!」

「ん? 俺達はこれから歩き回らないといけないから忙しいんだ。それじゃあな」

「わ、わかりました! 牙、一本につき銀貨6枚! それでどうですか?」

「売値から言ったら15枚が妥当だろ? 行こう」


 勇者は再び(きびす)を返して出口に向かう。店主はぐぬぐぬ悔しがり、声を出す。


「10枚! 銀貨10枚でどうですか!!」

「13枚だ」

「くっ……12枚! それ以上は出せません……」

「……わかった。商談成立だな」

「おお!」

「では、ビッグボアの牙一本、銀貨12枚を千本。お買い上げ、ありがとうございます」

「へ? せん……!?」


 勇者はリュックをひっくり返すと同時にアイテムボックスを開いて、牙を流れるように出していく。店主はドボドボと流れ出る牙に目を取られるが、我に返って声を出す。


「ちょ、千本なんて聞いておりません!」

「最初にいっぱいあるって言っただろ?」

「確かに聞きましたが、限度と言う物があるでしょ! そんな本数買い取れません!」

「へ~。ここの店主は、一度約束した事を即座に破るんだ~。そこの男の人、ここで買い取りしてもらうのはやめておいた方がいいですよ~」

「わ! 何を言っているのですか! わかりました。わかりましたから、大きな声を出さないでください」

「フフン。じゃあ、別室で話そうか?」

「はぁ……どうぞこちらへ」



 勇者はビッグボアの牙を魔王にも手伝ってもらい、全て集めると、リュックの中に開いたアイテムボックスに入れる。ちなみに、勇者は千本とか言いながら百本ぐらいしか出してなかったようだ。

 そうして店主について奥の部屋に移動した勇者と魔王は、席に着くと交渉を始める。


「さてと、ここからが正規の商談だ。ビッグボアの牙は銀貨10枚でいい。数もそちらが欲しいだけ買い取ってくれ」

「いいのですか!?」

「ああ。その代わり、適正価格で他も買い取ってくれよ? ワイバーンの鱗、欲しいんだろ?」

「ははは。私の負けのようですな。ここまで手慣れた人は初めてだ」


 こうして苦労の末、勇者は素材を売り払い、金貨20枚と銀貨100枚を手に入れて建物を出るのであった。


「お兄ちゃん。すごかったです~」

「なんとかなってよかったよ」

「それにしても、どうして入ってすぐに、安値で買おうとして来ると気付いたのですか?」

「露店で売っていた物と価格が一緒だったんだよ。系列店だから、買い取り店がベタ褒めされていたってわけだ」

「なるほど~。私じゃ絶対騙されていました。お兄ちゃんが異世界に来てくれて、本当によかったです!」

「そうか? もっとまともな勇者なら、こんな事をする必要なかったんじゃないか?」

「あ……そうでした。でも、自分でまともな勇者じゃないと思っていたのですね……」

「頑丈な勇者に旅の勇者と呼ばれていたんだぞ?」

「あははは」


 勇者の二つ名には、先程まで尊敬の念を抱いていた魔王でも、渇いた笑いを返すのでやっとであった。



 町へ入るのに手間取り、軍資金の入手にも時間を取られた勇者達は、昼に近付いていたので、露店で聞いていた食堂に入る。

 すると、小さな男の子がパタパタと走り寄って来た。


「いらっしゃいませ~。二名様ですか?」

「ああ。そうた」

「あちらの席にどうぞ~」


 男の子の案内で勇者達はテーブル席に腰掛ける。そして注文すると、男の子はパタパタと厨房に走って行った。


「あんなに小さな子供まで働いているのですね。それに細いです」

「この町は、食糧難なのかも知れないな」

「食べ物が無いのですか?」

「そうだ。だからみんな、栄養が足りないから痩せているんだ」

「それなら言ってくれたら援助しましたのに……」

「サシャの優しさを知らないんだ。だから、奪い取ろうとしているんじゃないか?」

「そうですけど……でも、交渉のネタが増えたのはありがたいです。食糧を払うと言ったら、さすがに交渉のテーブルに着いてくれますよね?」

「可能性はあるな」

「ですよね! 行く行くは、人族の町でも魔界産の美味しい野菜が流行って、世界征服も夢じゃないですね!!」


 やはり魔王は人族に野菜を売り込みたいようだ。だが、方法は少しアレだけど、世界征服とは、魔王っぽくなって来たと思われる。


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